
HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)という言葉を聞いたことはありますか?
昨今、書籍やインターネットなどでよく目にすることと思います。
この記事では、HSPに関して心理学の立場でご研究されている飯村周平先生に「HSP」についてわかっていることや困りごとについて解説いただきました。
HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)という言葉を聞いたことはありますか?
昨今、書籍やインターネットなどでよく目にすることと思います。
この記事では、HSPに関して心理学の立場でご研究されている飯村周平先生に「HSP」についてわかっていることや困りごとについて解説いただきました。
目次
HSPとは、Highly Sensitive Person(ハイリー・センシティブ・パーソン)の略語です。
HSPという言葉は、アメリカの臨床心理学者エレイン・アーロンが1996年に出版した本の中で初めて使用されました(Aron, 1996)。最近では日本でも注目を集めています。
日本では「繊細さん」と呼ばれることもあります。書籍などで目にしたことがある方も多いかと思います。
私たちは、良い環境と悪い環境からの影響の受けやすさ(感受性)が一人ひとり違います。心理学の研究では、この違いを表す性格・気質的特性のことを「感覚処理感受性」あるいは「環境感受性」と呼びます(Greven et al., 2019)。HSPとは、この感受性がとくに高い人たちを表しています。
HSPは感受性が高いために、大きな音や強い匂いなどの刺激によって、ほかの人よりも不快な気分が高まりやすかったり、他人の感情に強く反応しやすかったり、子どもであれば家庭や学校環境などから「良くも悪くも」影響を受けやすかったりするとされています。
心理学の研究では、上記で述べた感覚処理感受性(あるいは環境感受性)という性格・気質的特性が高い人たち(上位30%程度)に対してHSPと呼ぶことがあります。HSPの心理的特徴については、感受性が相対的に低い人たち(下位30%程度)と比較して、調べます。
感覚処理感受性の個人差は、研究協力者の自己報告によって「以下のようなことを普段どのくらい経験しているかどうか」を測定します。
周りの人よりも敏感だと「私は病気なのでは?」と不安になる方もいるかもしれません。HSPについてはどのように考えられているのでしょうか?
感受性という概念を一つとっても、研究者はさまざまな角度からアプローチしており、分野によっては精神病理と結び付けてそれを理解しようとするものもあります。例えば、精神疾患や発達障害に伴う感覚過敏です。
その一方で、HSPの背後にある「感覚処理感受性」という特性は、人の性格特性(外向性や勤勉性、協調性など)のうちの一つの次元として、感受性の理解を試みようとする概念です。そのため、感覚処理感受性それ自体が、精神病理に由来するものとして定義されていません。この特性が高い人であるHSPも、「病名」というわけではありません。
感受性が高いことによって、ストレスなどの不快な刺激から影響を受けやすく、その結果として心身の不調(例えば、不安やうつ症状)をきたすことはあるかもしれません。しかし、感受性の高さとそれによって生じる心身の不調は、別の概念として区別されて理解されています。
この記事では、感覚処理感受性(あるいは環境感受性)という特性が高く、良い刺激と悪い刺激の両方から影響を受けやすい人のことをHSPとして記載しています。
HSPは「良くも悪くも」影響を受けやすいという特徴があり、そのため、悪い環境のもとでは「不安やうつっぽくなりやすい」という傾向がありますが、良い環境のもとではむしろ「生きやすくなりやすい」といった側面などもあります。
HSPを自覚される方は、こうした「良くも悪くも」影響を受けやすいという自分の特徴を知って、自身を取り巻く環境とうまく付き合っていくことが大事になります。そのヒントはこの記事中でもお伝えしていきます。
感覚処理感受性を提唱した臨床心理学者のエレイン・アーロンは、HSPはDOES(ダズ)という4つの特徴によって、特徴づけられると説明しています。DOESとは、4つの特徴の頭文字を合わせたものです。
HSPは、生まれつき感受性が高いのでしょうか?実は必ずしもそうではありません。私たちの感受性は、感受性にかかわる遺伝子と幼少期の環境を通じて形作られると考えられています。つまり、感受性それ自体も発達するということです。
感受性にかかわる遺伝子には、神経伝達物質であるセロトニンやドーパミンなどにかかわる遺伝子(の特定のタイプ)を多くもっている人ほど、感受性が高くなるとされています(Keers et al., 2016)。
また、幼少期(おおよそ7歳ころ)にストレスが多い環境であるか(悪い環境であるほど)、あるいは周囲の人から多くのサポートが得られる環境であると(良い環境であるほど)、感受性が高くなるとされています(Boyce, W. T., & Ellis, B. J. (2005))。
こうした遺伝子と幼少期の環境が交互作用的に私たちの脳(中枢神経系)の敏感さを形成し、それが特定の刺激や環境を通じて、目に見える形(行動)で現れます。例えば、大きい音がすると、脳の「偏桃体(へんとうたい)」という部分が人よりも活性化して、不快な感情が強く出てくる、などがあります。
ちなみに、感覚処理感受性は個人内で安定した(変化しにくい)特性とされており、成人期以降では、基本的に別人のように感受性が低まったり高まったりする確率は低いと考えられています。
心理学の研究では、以下のような項目(HSP尺度)をもとにして、一人ひとりの感受性を測定します(Iimura et al., 2022)。
それぞれの項目について「まったくあてはまらない(1点)」「ほとんどあてはまらない(2点)」「あまりあてはまらない(3点)」「どちらともいえない(4点)」「ややあてはまる(5点)」「かなりあてはまる(6点)」「非常にあてはまる(7点)」で回答します。
10項目の平均値を算出して、その得点が高い人ほど、感受性が高い傾向があるといえるでしょう。ただし、この尺度は、HSPであるかどうかを「診断」する目的で使用されるものではありません。また「何点以上であればHSP」のような基準もありません。自分の傾向を知るくらいの気持ちで、気軽に取り組んでみてください。
いかがだったでしょうか?1〜8はネガティブな環境から影響を受けやすいかどうかを、9〜10はポジティブな環境から影響を受けやすいかどうかを表す項目です。当てはまる項目の量に、良い悪いはありません。
自分の性格を知ることで「苦手な場面を避ける」などができるようになると、生きやすくなるためのヒントが得られるかもしれません。
HSPのほかに「HSC」という言葉を聞いたことがある方もいるかもしれません。
HSCとは「Highly Sensitive Child(ハイリー・センシティブ・チャイルド)」の略語で、「非常に繊細な子ども」という意味になります。HSPとHSCは大人と子どもというほかに違いはありません。
HSCの特徴は、HSPと違いはなく、感受性が高いために、良い環境と悪い環境の両方から影響を受けやすいという性質があります。そのため自分と合わない環境(例えば、人が大勢いてストレスフルな場所など)では感受性が低い子どもよりも不快になりやすい一方で、自分と合った環境(例えば、良好な家庭環境や学校環境など)では、感受性の高さはむしろ強みとしてみえることもあります。
HSCに限ったことではありませんが、周囲の大人は、子どもの感受性を把握したうえで、その特徴に合った接し方をしていくといいでしょう。
HSPの方はどういった場面で困りやすいのでしょうか?
いくつか想定しうる事例をあげますので、知っておくことでラクになったり、対策のヒントが得られたりするかもしれません。
ここで挙げるのはあくまで一例ですので、すべての方に当てはまるわけではないことに留意してください。もし自身に当てはまる項目がありましたら、対処法も合わせてご確認ください。
例えば、外出した時の騒音や人混み、ライトの点滅など、処理する刺激の量が多いと、人よりも精神的な疲労につながるかもしれません。
また家の中にいても、家族や隣の部屋の住民などの物音や、外の工事の音、ちょっとした匂いなど、ほかの人が気にしない程度の刺激であっても、それに気づいてしまって、リラックスできないということもありえます。
例えば、ふいに怒っている人を目撃してしまったとき、たとえ自分が怒られているわけではないにもかかわらず、ネガティブな感情が生じやすいかもしれません。
神経学者のアセベイドら(Acevedo et al., 2014)の研究では、感受性が高い人ほど、悲しみや嬉しい表情の顔写真を見せた時に、共感性をつかさどる「島皮質(とうひしつ)」という脳領域が活性化する傾向がみられました。
これはつまり、感受性が高い人は、「良くも悪くも」人の感情に反応しやすいことを表します。
HSPを名乗る方のTwitterなどをみると、感受性の高さゆえに生じる困りごとについて、なかなか周囲の人たちに理解してもらえないことに悩んでいる様子がうかがえます。
これはHSPに限ったことではなく、精神疾患や発達障害など、いわゆる表面的にはわかりにくい心の問題だからこそ起きるものだと思います。
感覚の問題は、決して「本人の甘え」でそうなっているわけではありません。
HSPの人に限ったことではありませんが、自分のストレスの原因について知り、それに対処するということが精神的な健康にとって大切になります。
全員に当てはまるものではありませんが、以下では、いくつかのストレス源に対してどのように対処するのかについて、例を挙げてみました。
「Twitter」や「Instagram」などのソーシャルメディアで「HSP」と検索すると、同じ悩みを抱える人がいることが分かり、安心感を得られるかもしれません。
ただし、SNSの使用は「諸刃の剣」であることも覚えていくとよいでしょう。
刺激の強い情報や不快な情報と接し続けると、精神的な健康にとって悪い影響を及ぼします。ときにはスマートフォンの電源を切ったり、持ち歩かないで外出したりと、情報から離れる時間があってもよいかもしれません。
自身の特徴に合わせて「ここなら落ち着く」という場所を見つけることもよいかもしれません。
例えば、以下のように、心身とともに自分をリラックスできる方法を探してみましょう。
感受性が高い人にとっては、とくに「環境や刺激を調整する」という視点が、精神的な健康にとって大切です。
例えば、以下のように、グッズを生かして刺激の量を調整することができます。
心理学の知識は、私たちが日常生活を過ごすうえで、さまざまなヒントを与えてくれます。
例えば、感覚処理感受性は性格の一つの次元ですが、人の性格を理解するには「パーソナリティ心理学」という分野を学ぶとよいでしょう。不安や抑うつなどの「生きづらさ」を理解するには、臨床心理学の知識が役に立つかもしれません。
現状として、仕事の困りごとに焦点を当てたHSPの研究はほとんどありませんが、上記の「HSPの方にがよくある困りごとは?」で述べたようなケースは、仕事に関する場面でも起こりえます。これもやはりHSPに限ったことではありませんが、仕事の文脈で問題になりうることをいくつか挙げてみます。
職場における騒音、照明、におい、空調など、ほかの人が気にならないことでも、仕事の集中できないほどに気になる場合があるかもしれません。
同僚とのやりとりや接客などの場面で、怒ったり悲しんだり、ネガティブで強い感情をともなう相手の表情に対して、大きく反応してしまう時があるかもしれません。
HSPの気質に限らず、目に見えない感覚に由来する困りごとは、職場の風土によってはなかなか周囲の理解を得られないかもしれません。
感覚に由来する困りごとは、決して本人の「甘え」や「努力不足」によって、生じているわけではありません。
「目に見えない心の問題は『甘え』『努力不足』だ」といった職場の風土があると、目に見えにくい困りごとがある人が職場に困りごとを訴えても、なかなか理解を得にくいかもしれません。
明らかに問題のある職場環境であれば、自分を守るための転職も選択肢の一つとして大事ですが、現実的にそれが難しい状況もあるでしょう。
企業側が職場の環境を整える努力をすることは前提として、感覚に由来する困りごとを抱える本人自身も、さまざまな対処法を試して、自身の職場環境が快適になるよう働きかけることができるかもしれません。
例えば、上述した「HSPの困りごとが少し楽になる方法は?」で紹介したことは、職場の文脈でも役に立つでしょう。いくつか例を挙げてみます。
私たちには、感受性が低い人から高い人までグラデーションがあります。HSPとは、感受性がとても高いために、良い環境と悪い環境の両方から「良くも悪くも」影響を受けやすい人を表します。
このような特徴があるため、感受性が高い人は、自分と合わないストレスフルな環境に置かれた場合、ほかの人よりも「生きづらく」なる傾向があります。その一方で、感受性が高いために、良い環境からも良い影響を受け取りやすい人たちでもあります。
そのため、日常生活や職場でうまく環境を整えることが、とくに感受性の高い人たちの「生きやすさ」のカギになってきます。
HSPについてさらに理解を深めたい方は、心理学者によるHSP情報サイト「Japan Sensitivity Research」や本記事の監修者が執筆した書籍「HSPの心理学: 科学的根拠から理解する「繊細さ」と「生きづらさ」も参考にしてみてください。
LITALICOワークスでは障害のある方の「自分らしく働く」をサポートしています。障害者手帳の有無に関わらず、医師や自治体の判断などにより、就職に困難が認められる方も利用できる場合もあります。働くことで困りごとがあれば、いつでもお気軽にご相談ください。
執筆・監修
創価大学教育学部教育学科 専任講師
飯村 周平
博士(心理学)思春期・青年期の子どもたちを対象に、発達心理学の観点から環境感受性の研究を行っている。心理学者によるHSP情報サイト「Japan Sensitivity Research」を運営するなど、研究にもとづくHSP情報の発信にも努めている。
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