障害者雇用の企業事例
特性・個性に合った接し方をしています。目次
ATカンパニーはどんな会社ですか?
ATカンパニー株式会社 代表取締役 浅野 忍土 様
フランチャイズビジネスのコンサルティングや加盟開発をおこなう会社です。フランチャイズシステムを活用し、様々な事業の全国展開を支援しています。
これまでの実績や研究結果から蓄積したフランチャイズ展開のノウハウを活用し、社会の課題を解決するような、社会的価値の高い事業を続々とプロデュースしていくことを目的としています。
現在何名の方を障害者雇用されていますか?
重度のうつ病・アスペルガー症候群・自閉症傾向があり、2級の障害者手帳をもっている社員を、1名雇用しています。
彼は東京大学と早稲田大学を卒業していて頭もいいのですが、特性が強いために、今までアルバイトを転々としていました。その後、LITALICOワークス(旧ウイングル)に通って、当社に就職しました。彼は今、大活躍していますよ。
障害のある方は、どのような業務をされていますか?
今メインでやっているのは調査業務です。次にビジネス展開をするための市場調査を徹底的にやっています。
彼は東京大学で、地熱や風力など原子力に代わるエネルギーについてずっと研究していたので、調査・分析が元々得意なんですよ。僕らが、3時間くらいでやるかな、と思ったことを30分くらいで終わらせることもあります。
苦手なことはもちろんありますが、仕事の任せ方によってパフォーマンスがとても上がる領域があるので、その領域の業務を任せると、結果的にすごい力を発揮します。
力を最大限に発揮してもらうために、工夫されているポイントはありますか?
本当にシンプルで、彼に合った仕事を任せるだけだと考えています。例えば、彼の特性に合っていない仕事をさせて「なんでできないんだ」と頭ごなしに怒ったところで、パフォーマンスは上がりません。
ポイントとしては、本人としっかり向き合うことで、得意・不得意を見極めて、得意をいかせる仕事を意図的に任せていくことです。つまり、大切なのはマネジメント層の理解力だと思っています。
一緒に働く中で、うまくいかなかったことはありますか?
いっぱいありますよ。失敗して改善することの繰り返しだと思っています。
彼が入社した当初は、他の社員と対等に扱うことがいいことだと思って、同じように接していました。
でも、その接し方は、時として彼を傷つけてしまうこともあったと後から分かりました。例えば、間違ったことに対して、他の社員の場合と同じように注意をしたときに「社長は僕のことが嫌いなんじゃないでしょうか?」と他の社員に本気で相談したり、会社を一週間くらい休んでしまったりすることもありました。言葉の裏側を詮索して悪い方向に捉えてしまうので、注意した理由を明確に伝えることに加え、人格を否定しているわけではない、ということを伝え続ける必要があります。
この経験から、画一的な接し方ではなく、彼の特性・個性に合った接し方をしなくてはいけないということが分かりました。でもよく考えてみたら、これは他の社員に対しても同じことが言えますよね。一人ひとりに合った接し方をしなくてはいけない、ということを教えてくれた存在でもあります。
障害者雇用をしようと思ったきっかけを教えてください。
前職で営業のマネージャーをしていたときに、身体障害と知的障害の社員と一緒に仕事をしていたので、そこでの経験がベースになっています。障害者雇用で働いていた社員たちは、できることが限られている中で、そこに対してパフォーマンスを高めるために積極的に創意工夫をしていました。そういった仕事に対する姿勢が、組織にプラスの影響を与えてくれていました。
また、多様な人が一緒に働いているからこそ生まれる思考の柔軟性は、組織全体にとって有益であると、この頃から感じていましたね。だから、自分が会社をやるなら、障害の有無に関わらず、色々な人がいたほうがいいと思っていました。
今は1名のみの障害者雇用ですが、今後はLGBT(性的マイノリティー)の方など、多様な方が個性をいかしながら一緒に働ける環境をつくっていきたいです。
障害者雇用を進めるにあたって、社内の反応はどうでしたか?
採用を検討している段階では、なぜ障害者雇用をするのかわからないなど、反対意見も多くありました。でも、押し通して採用してみたら「彼の調査力は組織の役に立つ」と社員たちも認めるようになっています。また、一緒に働く中で「言わなくてもわかるでしょ。」と思っていても伝わらない経験や、ざっくりした仕事の依頼をしてしまったために過剰な品質で仕事を進めてしまう経験などを通じて、社員たちの言語化能力やマネジメント能力が強化されたように思います。組織として、確実に強くなっていますね。
新たに障害者雇用をはじめる場合、得られるものがイメージしにくいため、マネージャーや経営者がある程度押し通してやるしかないという部分もあります。
大切なのは、採用した後のマネジメントです。採用してよかったと他の社員にも思ってもらえるように、彼の特性に合った仕事を意図的に依頼し、短期的かつ高品質なアウトプットがでてくるように、ある程度コントロールすることも重要です。
障害者雇用における、今後の展望や目標はありますか?
自社での雇用を増やしていくことはもちろん、他の企業の方々にも、障害者雇用に興味を持ってもらえたらいいなと思っています。
幼児教育の事業展開について調査をおこなう中で、障害のある子どもに関するデータに出会いました。病院で障害の診断を受けていない、潜在的な子どもも含めると、障害のある子どもは各年代に約10%いると知り、そんなにいるのかと正直驚きました。教育を変えていく必要があると思い、「TOE Baby Park」という幼児教室を4年で300店舗以上展開しました。各店舗に100人の子どもが通うと考えると、3万人の子どもにサービスを届けることができたことになりますが、子どもは毎年約100万人生まれているので、全体のうちの3%に届けたにすぎません。障害のある子どもは、さらにその中の10%なので、サービスを届けられる確率はかなり減ってしまいます。障害のある子どもに特化した、教育の受け皿をつくる必要があると強く感じ、放課後等デイサービス事業をはじめました。
今では毎月100社以上の経営者の方が事業説明会に参加していて、非常にやりがいを感じています。
フランチャイズで展開するメリットとしては、多くの企業の経営者の方に、障害福祉の分野の事業があるということや、質の高い教育の受け皿が不足している現状などを伝えられるというところです。実際にフランチャイズに加盟してくれなくても、まずはそれでいいと思っています。
障害のある方の人数や現状を知ったら、経営者の方々も、障害者雇用に対する考え方が変わるかもしれません。
そのきっかけに、少しでもなれればいいなと思っています。
障害者雇用を検討している企業にアドバイスをお願いします。
まず、障害自体は単なる誤差の範囲の違いでしかないと思うことが、一緒に働く上でのポイントだと思います。障害者雇用でなくても、社員の育成や雇用に多くの企業が苦労しているわけですから。障害の程度の問題はもちろんありますが、障害の有無はあまり関係なくて、1つの個性と考えると、雇用の幅が拡がると思います。
当社の場合は、会社にシンクタンク的な機能がほしいと思っていたので、採用の時、彼にテーマを与えて、3回ほどレポートを提出してもらいました。そのレポートを見て採用を決めたんです。調査能力さえあれば、障害があろうとなかろうと、そこは関係ありませんでした。LITALICOワークスのスタッフから、彼の障害特性やLITALICOワークスでの様子なども事前に聞くことができたので、雇用することに対する大きな不安はありませんでした。
これからの時代、労働人口がどんどん減っていくので、障害のある方も一緒に幅広く雇用して労働力化できる会社が生き残っていくと思っています。雇用の幅を拡げるという意味でも、どの企業も障害者雇用を一度はご検討されてみてはいかがでしょうか?
今回訪問した企業様の会社概要
企業名 |
ATカンパニー株式会社 |
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設立年月 |
2009年3月 |
事業内容 |
フランチャイズビジネスに関する研究・調査、有望フランチャイズビジネスの発掘、事業展開の支援、事業運営 |
障害者雇用実績 |
1名(2015年6月現在) |
従業員数 |
10名(2015年6月現在) |
ホームページ |
インタビュー:2015年6月11日
※掲載内容(所属や役割など)はインタビュー当時のものです。