障害者雇用の企業事例
小さい会社だからこそ、できることがある。デザイン領域で始めた障害者雇用のスタッフとの挑戦目次
フジミノデザイン株式会社はどのような会社ですか?
障害者雇用の事例としてはまだそれほど数が多くないデザイン領域で、採用に取り組む会社があります。それが、フジミノデザイン株式会社(以下フジミノデザイン)です。専門性の高い仕事内容において、なぜ障害者雇用に取り組まれているのか、どのような環境づくりをしているのか、お話をお伺いしました。
フジミノデザインは、埼玉県ふじみ野を拠点に活動するデザイン制作会社です。デザインする領域としては、金融・医療・化粧品・物流・教育・飲食・商業施設……など幅広く、グラフィックやWEBを中心に、届けたい言葉をデザインしています。
2014年に開業して、仕事の幅を広げたい、仲間を増やしたいという思いで、2022年に法人化しました。現在では都内の広告代理店案件が約7割、地元関連が約3割という形で、2期目からは地方自治体の案件も少しずつ受託しています。
障害者雇用に取り組み始めたきっかけ
法人化して会社を成長させるための雇用を考えたときに、障害者雇用のことを知りました。もしかしたら、デザイン業務に適性があるけれど、障害があるということで働く機会を得られていない人が少なくないのではないか。そう考えたことがきっかけでしたね。
次に考えたことは、私たちの存在意義についてでした。星の数ほどあるデザイン事務所の中で、私たちにできることとは何か、ということ。その答えの一つとして、「仕事を通じて誰かの役に立つ喜びや出会いの機会を、希望する人に提供できる」ということがあるかもしれない。そんな風に思ったんです。
それが、当社の障害者雇用のはじまりです。
障害者雇用のメンバーと仕事内容
当社には現在、2名の障害者雇用のスタッフが所属しています。一人はグラフィックデザイン・WEBデザイン、もう一人は提案サポートや社内業務を担当(現在は復帰に向けて休職中)しています。
代表を含めた4名のうち2名が障害者雇用のスタッフですが、やはり社外スタッフではなく「従業員」だからこそ、ゼロから一緒にチャレンジして成長していきたいという想いで一緒に仕事をしています。
最近は、複数案のデザインを出す中で、障害者雇用のスタッフがデザインしたものがクライアントに選ばれたり、提案のためにリサーチしてくれた内容が受注の決め手になったりと、今では欠かせない戦力となっていています。そして同時に、それが私たちにとってとても良い刺激になっています。
当社はデザイン事務所ではあるのですが、デザインの周りには、実はデザイン以外の日々のさまざまな仕事があります。だからその人の適性に合った仕事もきっと見つけられますし、担当してもらう仕事については話し合いながら柔軟に考えていけたらと思っています。
はじめての障害者雇用
障害者雇用をはじめるにあたって、まずは障害者雇用を希望される方に企業インターンの機会を提供することからスタートしました。課題を提示して、販促のためにポスターとバナーデザインをつくってみてくださいという内容で実施しました。オンラインで実施できたことは、私たちの受け入れ体制としても仕事場の確保などの負担が少なく、スムーズにできましたね。障害のある方と一緒に働くイメージや必要な対応について考える機会を得られ、私たちにとって良い経験になりました。
また障害者雇用の面接では、苦手なことや体調のことをざっくばらんに話してもらうことが大切だなと感じました。一般的な採用面接では自己アピールが大切だと思うのですが、障害者雇用においては、このタイミングで配慮が必要なことをオープンにしっかりと聞いておくことで、入社後の環境整備もしやすかったように思います。
私たち自身、必要とされる配慮について、ある程度は理解があるつもりでいました。でも改めて採用に取り組んでみると、当たり前ですが、同じ診断名でも特性や強み・弱みも人によって異なります。診断名でひとくくりに考えるのではなく、きちんと一人ひとりと向き合うことの大切さに気づくことができました。障害者雇用を通じた学びや発見が多くあり、視点が増えて、私たち自身も変化したように感じています。
苦手をフォローし、のびのびと仕事をするための配慮を
配慮や環境整備については、「一人ひとりの仕事上の難しさをフォローする」という面と、「能力をのびのびと発揮してもらう」という両面で考えています。
まずは仕事をする上での困難についての配慮ですが、例えばマルチタスクで仕事の整理が難しい場合は箇条書きにして整理し、依頼内容が文章だけでは伝わりにくいときは口頭で補足をします。通院に合わせたシフト調整も柔軟にできるようにしていますし、現状では一人が週28時間、もう一人が週20時間と、それぞれ労働時間を決めています。在宅ワークも実施して、通勤の負担を無くすということも合わせて、働きやすい環境をつくっています。
また、デザインに対するフィードバックの際には、なぜそのような形で修正してもらいたいのかを明確にまとめて、書面に整理して戻したりもしています。お互いにちゃんと納得感を持って仕事を進められるように、感覚ではなくロジックで説明するように心がけています。
それぞれが持っている能力を最大限発揮してもらうための環境整備としては、マシンが重くて仕事がはかどらないということがないように、PCやディスプレイ、iPadなどのハード面を整備しています。使いたい素材やフォントも、デザインのイメージに合わせて極力自由にダウンロードしてもらっています。この辺りは、自分自身がフリーランスになったときに、環境を整備しないことで表現できるデザインに制限がかかってしまうことがストレスだった、という経験に基づいています。
資格取得の支援も行っていて、アドビ認定プロフェッショナル「Photoshop」や色彩検定1級など、実務に役立ちそうな資格はこちらでリストアップして提示するようにしています。受講費や交通費、合格の際のお祝い金などを用意していて、実際に取得してもらい、スキルを伸ばしてもらっています。
お互いに支え合う障害者雇用
障害者雇用のスタッフと働きながら気付いたのですが、私たちが苦手なことがそのスタッフの得意分野であったりすることもあって、仕事上のフォローというのは、障害の有無に限らずにお互いさまだなと考えるようになりました。これも、当たり前のことなのですが、私たちにとっては気付きとなりました。
全部が100点取れなくても良く、苦手なところが70点だったとしても、他でがんばれば良いのではないか。むしろ、苦手なことには無理に取り組まなくても良くて、得意をうまく発揮できる仕事を任せていけば良いのではないか。そしてお互いの力を合わせて、会社全体として納得できる仕事をしていくことが大切なのではないか。今では、そんな風に捉えています。
この辺りは正直バランスも難しくて、私たちもまだまだ模索中ではあるのですが、これからも定着支援面談などでLITALICOワークスの皆さんにご相談しながら、大切にしていきたい視点です。
だからこそ、障害者雇用のスタッフにも、会社として目指したい姿や目標とはしっかりと目線を合わせてもらっています。その上で、そのラインに到達していない場合は、伝え方は熟考しますがしっかりと指摘するように心掛けています。
障害者雇用のこれから
まずは、当社で働きたいと思ってもらえるような人を、新規で採用できる状態をつくり続けることが大切だと考えています。そのために会社をさらに成長させて経営を安定させていくこと、事業を拡大していくことが、私たちが取り組むべきことです。デザインを軸に、事業領域を拡張していくイメージを持っています。
今後タイミングが来て新しく障害者雇用を行う場合は、先輩から後輩へ、OJTの実施にもチャレンジしたいです。誰かと一緒に働くということへのやりがいをつくりながら、会社と共にスタッフが一緒に成長できる状態にしていきたいです。
また、直接雇用という形だけにこだわらず、障害のある方と何らかの形でご一緒できることがあれば、模索していきたいと思っています。
規模が大きくない会社だからこその柔軟性があると思うので、一人ひとりに合った働き方も一緒に考えながら、良い形で働くことができたら嬉しいです。
障害者雇用を考えている方へのメッセージ
デザイン業界はハードなイメージがあり、「難しい」「自分にはできない」と思われることもあるかもしれないのですが、少しずつ働き方が多様化しているように思います。
挑戦したい気持ちと今まで積み上げてきたものがあれば、サポートしてくれる人とつながりアドバイスや情報を得ることで、自分らしく働ける道を探しやすくなるのではと感じます。
当社は現在募集していないのですが、また機会が来たそのときには、ぜひお気軽にお問い合わせください。
今回訪問した企業様の会社概要
企業名 |
フジミノデザイン株式会社 |
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総人数 |
4名 |
事業内容 |
グラフィックデザイン、WEBデザイン、メディア運営、コンテンツ制作 |
ホームページ |
インタビュー:2024年2月20日
※掲載内容(所属や役割など)はインタビュー当時のものです。