障害者雇用の企業事例
働きやすいと選んでもらえる職場を目指して目次
天竜厚生会はどんな社会福祉法人ですか?
社会福祉法人・学校法人 天竜厚生会 浜松白羽の家
結核後保護施設として昭和25年に創設され、静岡県内で障害者・高齢者福祉、保育事業、在宅福祉サービス等、施設を中心に249事業を展開している社会福祉法人です。
当会は、「九十九匹はみな帰りたれど、まだ帰らぬ一匹の行方尋ねん(救いを求めるどんなわずかな存在も忘れることなく、一人ひとりの自己実現を目指し支援していく)」を基本理念として、すべての人をアシストするために種々の福祉サービス提供に努めています。
障害者雇用に取り組んだ経緯を教えてください。
社会福祉法人・学校法人 天竜厚生会 福祉サービス事業部 大杉友祐 様
従来、当会では、社会福祉法人の使命として、障害のある方々の雇用機会の均等や生活安定のための障害者雇用を推進していました。それに加え、平成28年1月より生活困窮者自立支援法に基づく就労訓練事業を開始したことで、障害の有無にかかわらず、雇用機会を得ることが困難な方々の支援を改めて推進しはじめたところです。
この取り組みを実施するにあたり、改めて現状の業務を俯瞰してみると、介護・支援業務は直接支援する業務だけでなく、利用される方々の生活環境等を維持する業務が混然一体となっておこなわれている状況にあることが分かってきました。
そこで、介護職員の負担軽減を図るとともに、雇用機会を得ることが困難な方々とのワークシェアを推進することを目的に業務の見直しを行い、介護職員がしなければならないことと、介護職員以外でもできることに分けていきました。その結果、介護における専門性を有していない方でも介護の現場で働くことが可能となり、障害者雇用も推進されました。
雇用を進めるにあたり、大切にしていることや工夫していることを教えてください。
社会福祉法人・学校法人 天竜厚生会 白羽の家 生活相談員 杉浦駿介様
就労を希望される個々人の能力や適性等が異なることから、本人にあった業務の切り出しや対応方法の統一化等を最も重要視して取り組んでいます。
当会は人と関わる仕事が多いため、なかなかマニュアル通りにいかないところがあります。最初は合理的配慮の完全マニュアル化を考えていましたが、しっかりと相談しながら確認していくことで、業務を覚えていけることが解りました。
ですので、一つひとつを丁寧に確認しながら、1つの仕事ができたら、次にもう1つ仕事を覚えていけるように取り組み、徐々に業務の幅を広げていけるように進めています。
周りの方の理解はどのように推進していきましたか?
障害者雇用に限ったことではないですが、就労を開始することは本人と職場との相互理解の積み重ねであると考えています。そのため、はじめは比較的簡単な業務から入っていただき、他の職員が障害のある方を徐々に理解していく中で、働きながらできることを増やしていくようにしています。
雇用を進めるにあたり、どうしてもはじめは受け入れる施設の職員が不安になるケースが多くみられます。だからこそ、まず簡単な業務から覚えていってもらうことで、障害のある方には自信をもって仕事に臨んでもらえるようにするとともに、職場全体に対しては、「この人がいると、この業務が楽になる! こんなに業務がより良く変わった!」と思える環境を作っていくのが非常に重要なことだと考えています。
その方がいてくれることによって自分の業務が助かるということを他の職員、施設全体で理解できるようになれば、自然に円滑なコミュニケーションや相乗効果が生まれてくるものと考えています。
障害のある方が安心して就労できるよう、どのような対応をしていますか?
浜松白羽の家 受付。
担当者を決めて、悩みや不安を相談・解決する窓口を一本化しています。また、実際に現場の課題を解決する担当者と、天竜厚生会という組織における担当をそれぞれ定めることで重層的に課題を解決していける仕組みを構築しています。
また、現場で培った障害者雇用のノウハウや事例を、他の事業でも水平展開できるようにしています。
障害のある方と一緒に働く上で大切にされていることはありますか?
白羽の家 生活相談員 杉浦様、利用者様と。
障害のある方に対しネガティブな発想は持たずに、その方が「何ができるか」を共に考えることを大切にしています。そのためには、なによりもコミュニケーションを密にとることが大切だと考えています。
たとえば、本人と施設の間で「できること」と「できていないこと」の食い違いといった、働く上での様々な葛藤が生じた際、障害がある方の中には、うまく気持ちの整理をつけることができず不安が強く表出してしまうことがあります。
そのようなときは、本人だけの問題としないよう、担当者と本人で、しっかりと顔を合わせ、一緒に課題を整理するようにしています。雇用当初こそ連絡ノートを使って文字のやり取りをしていましたが、顔を合わせながらきちんと言葉で気持ちを聞いて伝えていくことがなによりも重要だと解り、今ではその対応で統一しています。
雇用するとき、どのようなステップで雇用されていますか?
浜松白羽の家 利用者様の作品展示。
当会での就労を希望する障害がある方で、雇用に向けて障害特性に応じた職場環境や労働条件等の条件調整が必要な場合には、初回面談時に本人の希望を丁寧に聞きとるところから始めています。
例えば、当会で働きたいという希望はあるものの、実際に自分自身でも何をどのくらいできるのか具体的に理解できていない場合等では、その方に合う職場や仕事のマッチングをおこなうために、いろいろな事業所を見てもらうようにしています。
その結果、希望に合った事業所が見つかり、マッチングができた後は、一定期間の就労体験を行ったうえでモニタリングを実施し、本当に本人に合っているかどうか等を事業所を交え話し合いの機会を作り、雇用へ向けて調整を行っていきます。
仮に、実際に体験した結果、当初イメージしていたものと違うと感じた場合や、その事業所での適応が困難と判断された場合には、継続して他の施設や仕事を提案しながら、再度マッチングを図るようにしています。こういった、雇用に向けた伴走的な対応をより一層推進していくことで、精神障害や発達障害のある方など、対人関係が苦手な方にも選んでもらえる働きやすい職場になっていきたいと考えています。
障害者雇用における今後の展望や目標はありますか?
障害がある方が働いている事業所とそうでない事業所のもっとも大きな違いは、職員個々の自己研鑽の進み方にあると思います。
誰かに日頃の業務について教えるということ一つをとっても、自分の業務を改めて見直し、理解する良い機会になったり、障害のある方がひたむきに働く姿を目の当たりにすることで、働くことができる喜びを再認識させてもらえたりします。そういった相互関係の中で、当初、教える立場にあったはずの職員たちが、気が付くと多くのものを障害のある方に教えてもらっていることに気が付き、双方が成長を促す存在となっていけるものとなると感じています。
だからこそ、現状の法定雇用率のおよそ倍となる4.0%にすることが大きな目標です。そのためにも、ゆくゆくはすべての事業所に各1名の障害者雇用を実現していけるように、様々な取り組みを行っていきたいと考えています。
障害者雇用を検討している企業にアドバイスをお願いします。
障害者雇用を促進することは、障害者本人にとってのメリットがあるだけではなく、職場自体にもこれまでの業務のあり方を見直す良い機会になります。
はじめは不安があるかもしれませんが、みんなが笑顔になれるように一緒に進めていける環境を作っていければと思います。
今回訪問した企業様の会社概要
企業名 |
社会福祉法人・学校法人 天竜厚生会 |
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創業年月 |
昭和25年5月1日 |
事業内容 |
障害者支援事業、高齢者支援事業、子育て支援事業、医療保健事業、福祉サービス事業 |
障害者雇用実績 |
129名(うち就労継続支援A型事業所79名) |
従業員数 |
2,306名(平成29年4月現在) |
ホームページ |
インタビュー:2017年8月28日
※掲載内容(所属や役割など)はインタビュー当時のものです。