不安障害(精神障害)の仕事・就職事例 -医療・看護師-
「動いてみてから一緒に悩んでみましょうか」
女性/30代/医療/看護師
不安障害(精神障害)
仕事のプレッシャーから不安障害(不安神経症)に
Eさんは10年のキャリアを持つ看護師です。その経験と能力を認められて看護主任に昇進したまでは良かったのですが、仕事上の責任が重くなり、精神的なプレッシャーが大きくなったといいます。それに加えて実務的な仕事量も増加し、精神的なゆとりが次第に失われていきました。
Eさんは非常に責任感が強く、プロ意識も高い人です。「看護師として責務を全うしなくては」という強い思いから、当時は少し神経質な面もあったということです。
精神的に不安定な状態になったEさん。眠れない、食事がとれないといった症状に苦しみ、心身が衰弱していきます。突然得体の知れない不安に包まれ、「ワッ」と叫んで走り出したくなるようなこともあったといいます。
心療内科で診断してもらったところ、結果は「不安障害(不安神経症とも呼ばれています)」ということでした。慢性的にストレスにさらされ続けたことによって、突然大きな不安に襲われたり、ちょっとしたことにも過剰な不安を感じたりするようになってしまったようです。
Eさんは服薬を中心とした治療を受け始めましたが、今度は薬の副作用によって、日中でも突然眠気に襲われたり、指先が震えたりという症状に悩まされます。
看護師にとって、指先の微妙なコントロールが失われることは重大な問題です。Eさんはやむを得ず勤務していた病院を退職し、治療を続けながら再就職を目指すことにしました。そこでまずはハローワークを通じて看護師の求人を受けてみたのですが、書類選考から先に進むことができなかったようです。
そこでハローワークの担当者に相談したところLITALICOワークスを紹介され、「注射や処置などを必要としない介護施設などでの仕事なら、また看護師として活躍できるのでは?」との考えもあって、EさんはLITALICOワークスの就労移行支援を利用し始めたのです。
医療の仕事を離れた喪失感に悩む
つい先日まで、医療現場の第一線で看護師として仕事してきたEさん。最初は、すぐに好条件の再就職先が見つかるものと思われました。
しかし「今まで全身全霊を捧げて打ち込んできた医療の仕事から離れた」という現実は、本人の想像以上に大きな喪失感となってEさんを襲います。誇りとやりがいを感じていた仕事から離れたことへの後悔もあったようです。
また、同じ看護師の仕事とはいえ、今までに経験のない介護施設での仕事にうまくなじめるだろうかという将来への不安もありました。
このようなさまざまな不安やストレスから、Eさんはなかなか安定しないまま、半年あまりが経過しました。
「Eさんの場合、まずは気分転換と思い切りが必要」と考えたスタッフは、ある日、Eさんをデイサービスの見学に誘います。
Eさんはあまり気乗りしないようでしたが、スタッフは少し強引ながらも気乗りしないEさんと一緒にデイサービスへ見学に向かいました。
実習として現場を見学することで、就職という目的意識が明確に
デイサービスの現場では、高齢者の食事や入浴の介助、機能訓練、そしてレクリエーションのお手伝いも重要な仕事となります。Eさんが熟知している医療の仕事とはかなり勝手が違いますが、それでも、自分の看護師としてのスキルや経験が十分いかせるという手応えも感じられたようです。
見学後、「ここで働いてみたいと思いますか?」と尋ねると、Eさんは「働けるかどうかわかりませんが、何もしないことも不安です」と答えました。
スタッフは「そうですよね。何もしないことも不安ですよね。どっちみち不安なら、まずは動いてみましょうか。そして、動きながらいっしょに悩みましょう!」とEさんの背中を押しました。
Eさんはその後、いろいろな職場で実習に参加し、就職活動を本格化させました。
就職活動に打ち込むことで精神的な落ち着きがみられるようになり、薬の副作用も和らいでいきました。それまで、不安が原因で睡眠も十分にとれなかったのですが、「就職」という目標を持つことで精神的な安心感が得られたのか、眠れるようになり体力も回復していきました。
医療・福祉方面の求人に幅広くエントリーしたのですが、最終的には内科クリニックの非常勤として採用が決まり、無理のないよう、週4日勤務からスタートしました。
Eさんは当時をこう振り返ります。
「動いても、動かなくても、どうせ不安なら動きましょうと言われて、目からウロコが落ちました。確かに、どっちにしても不安なら動いたほうが良かったのです。動くことで気も紛れますし、いろいろな施設や人に接することで気分転換もできました」
元々几帳面で神経質な気質のEさんは、「不安は解決しなくてはならないもの」だと思い込んでいたといいます。しかし、「不安は不安なままでもいい」ということに気付いたことで、いい意味での開き直りができたのでしょう。
新しい職場で明るく伸び伸びと働くEさん。本当に看護師という仕事に向いているようです。今後もあまり根を詰めず、余裕を持って働くことで、存分にご活躍いただけることと思います。
※プライバシー保護のため一部の文章について事実を再構成しています。
※掲載内容(所属や役割、診断名など)はインタビュー当時のものです。