不安障害(精神障害)の仕事・就職事例 -事務-
インタビュー:2019年12月20日
大学時代に引きこもり。社会不安障害の診断から就職までの道のり
男性/20代/メーカー/事務職
不安障害(精神障害)
ゼミ発表で極度の緊張「人の目が気になる」
Iさんは25歳のときに社会不安障害(精神障害)を診断され、27歳の時にLITALICOワークスを利用し、現在メーカーの特例子会社で事務職として働いています。
大学に進学しましたが、サークルや部活動に入っていなかったので所属する場所がなく、いつも食事は教室の端で1人。誰とも話さず、大学で授業を受けて帰宅する……そんな日々が1年近く続きました。高校までは毎日顔を合わせる同級生がいた、頑張らなくても自然と友人ができたのですが、大学は授業によって人も教室もバラバラ。「友人を作るのがこんなに難しいとは」と愕然としました。
3年生になるときに入った経営学のゼミは、学生の前で発表をする機会が多く、大学に入ってからろくに人と話す機会がなかったIさんは、人前で発表することに強い苦手意識が湧きました。ゼミで発表するときは、汗が止まらず言葉が震え、うまく発表できないことが多々ありました。その度に人の目が気になり、やがてゼミを休みがちになりました。
1度人の目が気になりはじめると、ゼミだけではなく大学生活でも支障をきたすようになりました。ゼミ以外の授業や食堂、どこにいても常に誰かに見られているような不安が強くなってきました。そして大学も休みがちになり、最終的には行くことができなくなりました。
不安障害と向き合う「認知行動療法」
その頃、母親とふたり暮らし。大学に行くことをやめ、引きこもり生活を送っていました。夕方起きて、朝までYouTubeを見る。それを繰り返す毎日。そのような状態が5年ほど続いた、Iさんが25歳のときのことです。海外で単身赴任中の父親は、Iさんの状況を聞くと一時帰国し、一緒に地元の精神科病院に行くことになりました。
診断は「社会不安障害(精神障害)」。自分でも引きこもりに関してネットで検索していたので、驚きはしなかったそうです。担当医は、「まだ若いんだから、早く社会復帰できるように少しずつ準備していこう」と、院内にある精神科デイケアの利用を進めました。
5年近く自室を出ない生活をしていたので、精神科デイケアはIさんにとって高いハードルでした。
最初は母親と一緒に週1回の頻度で通い、利用者さんとはほとんど話しをせず、プログラムだけ受けて帰宅する。大学のこともあり新しい環境は苦手になっていたそうです。
しかし、通うたびに何度も何度も話しかけてくるスタッフさんと利用者さんのおかげか、ここは自分のことをわかってくれる場所かも。と思うようになり少しずつ自分からも話すことができるようになってきました。
デイケアで受けたプログラムの中で、Iさんが特に惹かれたのは「認知行動療法(集団認知行動療法)」。認知行動療法で改めて自分の症状と向き合うことができたそうです。
Iさんがデイケアで取り組んだ認知行動療法を紹介します。(一例)
・どんな場面で症状が発生するのか、またしやすいのかを知る
・症状が発生したときの自分の思考の癖を知る(自動思考)
・自分の思考の癖に対して、時間をかけてトレーニングを実施
・前向きな思考や考え方を徐々に身につける
精神科デイケアから就労移行支援事業所へ
精神科デイケアに通いはじめて2年くらい経った時、信頼しているスタッフから「そろそろ本格的に社会復帰に向けて動いていきましょうか」と言われました。確かに年齢も27歳になり、周りはバリバリ働いている。その頃にはデイケアにも週4日くらい通えるようになっていたので、外出することに自信もつき「働きたい」と思うようになりました。
デイケアスタッフから、「Iさんは新しい環境に慣れるまで少し時間がかかるタイプだから、就労移行支援事業所を活用したほうがいい」と就労移行支援という福祉サービスを紹介され、3ヶ所の就労移行支援事業所を見学・体験し、LITALICOワークスの利用を決めました。
LITALICOワークスを選んだ理由は「同じ障害(社会不安障害)の方の就職実績が多かったから」「自分のことをしっかりと見ようとしてくれたから」だったそうです。
利用開始から半年は、デイケアと併用。週2日デイケアに行き、週2日LITALICOワークスに行きました。「次の半年は、LITALICOワークスの頻度を増やそう」とスタッフと一緒に目標設定しました。
「働く」を強く意識できる場所
デイケアと就労移行支援事業所の大きな違いは、就労移行支援事業所は「就職に向けた準備」をする場所ということです。認知行動療法やSST(ソーシャル・スキル・トレーニング)などのプログラムは、デイケアでも取り組みます。就労移行支援事業所では、同じ内容のプログラムでも、必ず「働くこと」への意識付けがされています。
Iさんは今までアルバイトなどの職歴がなく、働くイメージが湧きません。どんな仕事が自分にあっているか分からなかったのですが、自己分析のプログラムやグループディスカッションなどを通じて、今まで働いていた方のお話や経験談を聞けるたのは大変参考になったそうです。
また、デイケアとは違い同じ社会不安障害のある方がどんどん就職していくこともギャップがあったと話されておりました。
企業インターンで発覚
プログラムを通じてパソコン作業などのデータ入力が自分にあっているのではないかと思い、「事務職で働いてみたい」と職種も絞られてきました。企業インターンをして、実際の働き方を体験することにしたIさん。
最初の企業インターン先は保険会社の総務事務(事務補助)です。
インターン期間は企業によって異なりますが、今回は10-16時勤務、期間は2週間でした。
実際の業務内容は、「書類作成・処理」「各種資料のファイリング業務」「備品管理・発注業務」「オフィス・施設管理」「郵便物の発送・仕分け」「電話・メール応対」など多岐にわたりました。
企業インターン中に全ての業務を経験することは難しく、主に「書類作成・処理」「備品管理・発注業務」「郵便物の発送・仕分け」「電話応対」に取り組みました。最初は緊張もあったものの、生まれてはじめての仕事が楽しく、社会に所属していることを感じられたそうです。
しかし、企業インターン時にどうしてもできない仕事があることに気が付きました。
それは「電話応対」です。
LITALICOワークスの電話応対のプログラムでは問題なくできていましたが、実際の職場での電話応対では緊張して手が震え、汗が止まらなくなりました。
企業インターンを終え、再度LITALICOワークスで電話応対のプログラムを受講するも、どうしても働く場面での「電話応対」では緊張が強くなり対応が難しいことがわかりました。
できることを最大限に発揮して働く
現在の仕事は大手電機メーカーの事務職。若い社員は少なく、Iさんは先輩社員に大変可愛がっていただいているそうです。今の仕事は、LITALICOワークスのスタッフからの紹介で、面接と雇用前実習を通じて就職しました。
Iさんは企業インターンの体験で「電話応対」が苦手であることが事前にわかっていたので、面接でその旨をお伝えし、電話応対のない事務職の仕事を企業と調整。実際に働く上で支障がないかを雇用前実習で試すことになりました。
雇用前実習の期間は1ヶ月。今までの企業インターンと比べても長い期間でした。
しかし、Iさんは新しい環境に慣れるのに少々時間がかかるタイプなので、生活リズムの調整や、職場の環境に慣れるために必要な時間でした。
雇用前実習を終え、電話応対がなくても問題なく働けること、活躍できる人材であることが分かったと企業側から連絡がきました。時間をかけて雇用前実習をおこなったことで「ここなら働ける」と思えたIさんは無事に就職しました。
就職されてから2年が経とうとしています。
定着支援サービスの月1回の面談のとき、これからの目標について話しました。
「自分と同じ社会不安障害や精神障害のある大学生に自分の経験を伝えたい」
「障害があっても働けるって伝えたい。同じ障害のある方のなにか役に立てれば……」
と照れくさそうに話していました。
雇用前実習とは?
採用面接前に職場(配属予定)での実習を取り入れることで、候補者が職場や業務に適しているか、従事できるかを見極める機会とするものです。候補者自身も職場の環境などが理解でき、双方に入社後のミスマッチの可能性を低くすることができます。
※掲載内容(所属や役割、診断名など)はインタビュー当時のものです。