うつ病(精神障害)・アスペルガー症候群(発達障害)の仕事・就職事例 -事務-
初めての就職で、自分らしい生活を手に入れる
女性/20代/商社/事務職
うつ病(精神障害)、アスペルガー症候群(発達障害)
徐々に深刻化するコミュニケーション
幼少期の頃から集団に馴染めず、いつも1人でいることが多かったTさん。友達と遊ぶことは少なく、勉強ばかりしていたTさんは学校の成績が良く、父親も学業に関して熱心だったことから中高一貫の進学校に通っていました。
この頃から、苦手だったコミュニケーションは深刻化しました。クラスメイトとのコミュニケーションがうまくとれず、冗談を本気にして突然泣き出してしまったり、自分の発言がその場の空気を凍らせてしまったり……集団生活が過度なストレスとなり、高校に進学してからは保健室登校に。
Tさん自身「何か他の子とは違う」と感じながらも、戸惑う日々が続きました。他人への興味が沸かず、周囲からも「変わった子」として扱われてきました。そんなTさんが障害だと診断されたのは高校生の時。保健室の先生からクリニックを紹介され「うつ病(精神障害)」と「アスペルガー症候群(発達障害)」だと診断されました。
家庭でも、適度な距離感が分からず、会話が噛み合わないことが多々ありました。「娘が何を考えているかわからない……」と、父親も日々悩んでいました。アスペルガー症候群(発達障害)であることを知り、その代表的な症状である「相手の気持ちや意図を想像することが苦手」「自分の感情を言語化できない」を知り、Tさんに当てはまることばかりで妙に納得できたとのことでした。
自立したい一心で就活に向けて動き出す
その後、大学に進学したTさん。ここでも人との距離感やコミュニケーションがうまくいきません。特に大学ではグループディスカッションなど集団で取り組む授業が多いため極度のストレスを感じてしまい「うつ病(精神障害)」が再発、大学を中退することに。
その後、治療の一貫としてデイケアを利用し、しばらくして体調も整ってきた頃のことです。そこで働く人々を見たことが「自分も仕事をしてみたい」「仕事でお金が貰えるようになったら1人暮らしをしてみたい」と就職を目指すきっかけになりました。
就職についてはTさんの家族も協力的でインターネットで調べたり、クリニックの先生に相談したりしました。そこで就職に向けた準備をする「就労移行支援」という福祉サービスを知りました。「早く就職したい」という気持ちが強かったTさんは、父親と一緒にLITALICOワークスを見学・体験し、すぐにサービスを利用することに決めました。
LITALICOワークスには週4~5日のペースで安定して通い、勤怠に問題はありませんでしたが、ここでも問題は他者とのコミュニケーション。うまくやり取りできずパニックを起こし、突然泣き叫んでしまったり、どこかへ勝手に行ってしまったり、家で起きたイライラを引きずって事業所で泣いてしまったりと、感情のコントロールができない日々が続きました。スタッフと「何が言いたかったのか」「どう伝えたら良かったのか」とアセスメントを丁寧に繰り返したことで、「次はこうしていこう」というのが段々と考えていけるようになり、徐々に感情をコントロールできるようになり安定したそうです。
自分に合う職場探し
LITALICOワークスの多数あるプログラムの中からTさんが最も苦手とする「コミュケーションプログラム」を中心に取り組みました。グループワークを通じて、相手の意図を汲んだ返事の仕方を定型文で覚えたり、今いる場面がどういう状況かを判断するシミュレーションなど、繰り返し取り組みました。学習が得意だったTさんは、2ヶ月程すると次第に人との距離感やコミュニケーション方法を習得できるようになりました。
次に、社会人経験がないTさんが取り組んだのは、社会で働くためのビジネスマナーや仕事をしていく上で必要なコミュニケーションなどを重点的に学ぶための「ビジネスマナープログラム」。同僚との会話、上司への相談や報告など職場を想定した様々な場面でのコミュニケーションや社会人としての作法を学びました。また、パソコンを使って事務作業をするプログラムにも積極的に参加し、就職に向けた準備を積極的におこないました。
様々なプログラムに取り組んだ後は、自分に合った職場を探すため、企業インターンに参加します。LITALICOワークスは、全国に4,500ヶ所以上の企業インターン先があります。インターン先の企業を選ぶ際、スタッフが気をつけた点はTさんの障害特性を考慮した企業かどうかです。「ジョブコーチやOJTなどメンタルケアがしっかりしているところ」「あいまいなことが苦手なので決まった仕事があること」「マニュアルがしっかりしていること」などの観点からインターン先を探しました。
数社のインターンを経験し、「ここなら相談にのってくれる安心感がある」「業務内容もはっきりしている」などの理由から、自分の働くイメージができる1社に出会いました。そこで面接や筆記試験、雇用前実習を経て採用。わずか1年で正社員として内定をもらうことができました。「あの時はすごく嬉しかった」とTさんは振り返りました。
就職後も多発する困りごと
就職した後も大きく落ち込んだ時期がありました。
職場の方に注意されるとすぐに泣き出したり、同僚とのコミュニケーションがうまくとれなかったりしました。さらに、ミスに対して強い恐怖心を持ったり、ミスをした自分を必要以上に責めてしまったり……その度にパニックを起こし、体調も崩れました。
Tさんのように、就職してしばらく経つと、それまで全く想像していなかったような悩みを抱える方も少なくありません。LITALICOワークスには、そういった時に働きやすい環境づくりを支援する就労定着支援サービスがあります。
月に1度、Tさんの職場に定期訪問をし企業・本人のそれぞれと面談をしました。「どういう背景で泣いてしまったのか」などヒアリングをはじめ、職場のジョブコーチや家族とも連携し、うつ病(精神障害)やアスペルガー症候群(発達障害)に対する理解促進を促しました。Tさんの生活面、業務面の双方に具体的な解決策を共有し改善に向けて働きかけました。
その後、Tさんの勤怠は安定し、任された業務をしっかりこなし、ミスや指摘も減ったことでパニックも減少しました。Tさんの上司からは「言われたことをきっちりとやり遂げることができる」「作業スキルが高く、スピードも早い」「丁寧に仕事をする」と高評価。仕事に対する責任感や社会人としてのマナーについても、同僚から評価されました。
体調や気分の波はあるものの、やがて自身の業務をこなすだけでなく、周囲のフォローを率先しておこない、他の社員の手本になるほどまで成長されました。
定着支援で夢が叶った
Tさんの就職に対するモチベーションは「自立したい、一人暮らしがしたい」ということでした。
Tさんの職場のジョブコーチからスタッフに対し「Tさんは生活面での課題が多そうですね」という相談が数回ありました。Tさんに生活面の話を聞くと、「休日にゆっくり休養が取れていない」「家族とのコミュニケーションにストレスが溜まる」ということが分かりました。
さらに具体的に困っていることとしては「母親がお節介なのが嫌」「家族の外食など急な予定を入れるから、休みたい時に休めない」「テレビがうるさい」「洗面所やトイレで家族とすれ違うのも嫌」とのこと。
Tさんは思っていることを言葉にすることが苦手です。例えば、夕飯の量が多いと思っても無理して食べる、好みと違う洋服がいつの間にか買い足されているが文句を言えない、知らないうちに障害者手帳が更新されているが理由を聞けない……
小さなストレスが積み重なり、一人暮らしをしたいという欲求が強まるTさん。家を出たい旨の相談がスタッフに幾度となくありましたが、それについては職場のジョブコーチも父親も「まだ早いのでは……」と意見が一致。一人暮らしをする前に、まずは「家族と生活する中でゆっくり休養をとる」から試してみることにしました。
母親にいたっては、「言ってくれればご飯を減らしたのに」「いつも同じ洋服ばかり着ているから買い足した方がいいと思って」「なかなか更新に行かないから、つい」と、子どものために良かれと思ってやったことがすべて裏目に出ていたことに気づきません。
スタッフは両者の言い分をまとめ、互いがその都度話せるようにルールを設定するよう提案、その具体的な方法をアドバイスしました。職場のジョブコーチにも都度面談でTさんの状況を確認するよう促し、その後は親子の会話が次第に自然にできるようになったと言います。
食事の後片付けや掃除、アイロンがけなど家事の練習をしたり、物件をいつから探すか、どんな家に住みたいかなど一人暮らしに向けてスケジュールとやることをリスト化し、慎重に準備を進めました。就職してから3年が経つ頃、念願の一人暮らしを始めることができました。
「やっと自分のペースで生活できる」と嬉しそうなTさん。今では週1回は実家に帰り、休日は1人でショッピングを楽しんだりしながら、現在も順調に仕事を継続されています。
※プライバシー保護のため一部の文章について事実を再構成しています。
※掲載内容(所属や役割、診断名など)はインタビュー当時のものです。