高次脳機能障害(精神障害)の仕事・就職事例 -事務-
高次脳機能障害を受容できない
男性/40代/IT関連/事務職
高次脳機能障害(精神障害)
突然の脳卒中、高次脳機能障害に
20代からエンジニアとして働き、終電で帰ったり時には自宅に仕持ち込んでまで仕事をしていたSさん。40代に入り取締役に就任し、毎日働きづめの日々を送っていました。しかし突然自宅で意識を失い、倒れて緊急搬送……脳卒中による高次脳機能障害の診断がおりました。
リハビリ生活を半年以上続け、杖をついて歩けるようになったことに主治医が驚くほど回復力や体力があったそうです。働いていない生活に慣れていないため、リハビリに通いながら何かできないかといろいろと探した結果、就職に向けて就労移行支援事業所を利用したいと思い……ご家族と一緒にLITALICOワークスへ見学に訪れました。
「何ができるかわからないけれど、やりたいことを見つけたい」という思いがあるため、LITALICOワークスのプログラムを体験してみることにしました。
数日の間利用者に混じってプログラムやトレーニングに参加。他の方に対しやや高圧的な態度がたびたび見受けられました。そのため他の利用者が近寄りがたそうにしていると、自ら最近の流行りものや雑学を持ちかけ、すぐに他の利用者と打ち解けることができました。
体験最終日の振り返りでは、「想像していたよりいろいろなことができそうだからここを利用したい。いずれは復職したい」と決意し、利用することになりました。
遂行機能障害により客観視できない
トレーニングを進めると診断書にある通り「遂行機能障害」があり、物事を順序立てて実行することや作業記憶低下により客観的に自分を見ることが難しいことがわかりました。
後日、ご家族と電話で話をしたスタッフは、「TPOに合わせた言葉遣いができないのは昔から少しあったけれど、高次脳機能障害になってから如実になった」とのことでした。これにより高次脳機能障害により「この場ではどういう対応をしなければいけない」という判断が難しくなったことを理解しました。
高次脳機能障害のある方は一般的にノートに記録していくことが多いですが、エンジニア経験の長いSさんはスマートフォンのアプリに記録をしていました。「病院ではノートにメモを取るように言われたが、紙に書くことに慣れていない」と笑ってアプリを駆使していました。
そんな姿を見たスタッフは作業系職種より事務職の方が向いているのではと思うようになりました。個別トレーニングでできると思って取り組んだことが、実際にやってみるとできないことにジレンマになるということがたびたびありました。
スタッフはSさんと共に「障害の理解・受容について」「できること・できないことのすみ分け」「就労で必要な配慮は何か、どんな働き方ができそうか」などを中心にSST(ソーシャル・スキル・トレーニング)を中心におこないました。
実体験で合理的配慮を再確認
就職活動を本格的にスタートする前に面接練習や模擬面接をしていた際に、「堅苦しいことが嫌」と言って敬語を使おうとしません。
ご家族とは「TPOに合わせた言葉遣いができない」とことについて共有済みでしたが、企業インターンの時にも同じことを指摘され、一般企業で働くためには敬語を使わないと成り立たないことを説明しましたが腑に落ちない様子でした。
スタッフはご家族と3者面談をする時にこのことを話題に出すと、「役員ではないのだから他の社員同様敬語を使わなければ」という一言で敬語を使うようになりました。
就職活動の準備ができると、LITALICOワークスでは企業インターンで実際に業務をおこなったり、企業見学で職場の雰囲気を体験したりして適性を確かめます。
Sさんも見学や企業インターンを体験するも、スマホに記録することを忘れてしまったり口頭指示が分かりづらく自己流で進めてしまったり、敬語を使えないと企業から連絡がくることもありました。
スタッフは「就職する前に課題が分かって良かったですね」と声をかけると、「合理的配慮ってこういうことだね」とSSTでおこなったことを振り返っていました。
前職がネック、応募書類が通らない
パソコンを使った事務職に適性を感じたSさんとスタッフは、事務職に絞った求人応募をはじめました。企業インターンへの応募の際にほとんどの担当者から「取締役だったのですね……」と言われていたため、書類が通るか不安を抱えながら結果を待つも、不安が的中しました。
「求めている人材と違う」「職歴が気になる」などの理由で面接に進むことができませんでした。もっと細かなフィードバックを得るため、人材紹介会社の方に面接練習を複数名依頼し、第3者から見てどう評価されるかなど細かく分析しました。
落ち込んでしまわないかとスタッフは不安に感じていましたが、Sさんは体力的にも精神的にもとてもタフで「昔から逆境に強いタイプなんだよね。これからこれから」とめげずに前を向いていました。
何とかしたいと思いスタッフ複数名でLITALICOワークス専用の求人サイトやハローワーク、人材紹介会社、求人サイト、企業ホームページなどあらゆる求人を探しました。
そうこうしているうちに就労移行支援事業所の利用期限である2年が迫ってきていました。Sさん・ご家族同意のもと、自治体に延長申請を提出することになりました。
1年間の延長が受理された所でスタッフはLITALICOワークスでやり取りのある企業を中心として人事担当者へSさんの人柄・スキル・職歴・合理的配慮などを説明し、求人開拓をおこないました。数十社連絡をして、IT企業での事務職にたどり着きました。
利用期限を延長し就職、正社員へ
求人を提示してもらう前にSさんについて細かく説明をしていたため、面接後に「事前に説明してもらった通りの方だったので問題ありません。弊社のカラーと合っている方だと思います」と内定をもらうことができました。
愛妻家のSさんは喜びもひとしお、すぐにご家族に連絡をしていました。合理的配慮や通勤時間・経路を再度確認して、2年3ヶ月で卒業となりました。
就職後にSさん・人事担当者双方に様子を伺うと、Sさんは静脈認証で引っ掛かるのをどうにかしたいと冗談交じりに話すほど充実している様子で、「やっぱり働くっていいね。仕事が楽しい」と嬉しそうに話してくれました。
人事担当者も業務スピードが速くて助かっていると高い評価を受けています。就職して1年半を超えた頃に正規雇用の話をいただき、2年目から正社員で働くことが決まっています。
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※掲載内容(所属や役割、診断名など)はインタビュー当時のものです。