高次脳機能障害(精神障害)の仕事・就職事例 -事務-
今までできていたことができないジレンマ
男性/40代/金融/事務職
高次脳機能障害(精神障害)
後遺症として高次脳機能障害に
小~中学は野球部、高校~大学はテニス部で様々な大会へ出場、社会人になると登山・ゴルフ・ビリヤードなどに勤しんで活発に行動していたKさん。
また、お酒・タバコを嗜好品として好んでいました。仕事も20年ほど営業職でバリバリ働いていました。そんなKさんを突如として脳梗塞が襲ってきました。
いつも7時に起きてリビングで新聞を読むことが習慣になっていましたが、その朝は7時を過ぎても動きがないことを心配した家族が寝室に行くと、左半身麻痺状態で自分の症状を言葉にできない状態でした。すぐに救急車を呼び、病院で診断された病名は「脳梗塞」でした。
退院後、高次脳機能障害が後遺症となり、仕事を続けていくことは難しいと診断。しばらく傷病手当を受給しながら生活をしていました。妻が大学講師として働いているけれど、負担をかけたくないという思いからまずは地域活動支援センターに週1回通いながらリハビリをしていました。
焦らず、できることを見つめる
趣味でやっていた登山・ゴルフに行けなくなり、ビリヤードもうまくいかず、月1回の通院と週1回の地域活動支援センターへ通う以外、自宅で過ごしようになっていました。
このままでは引きこもりになってしまうと心配をした家族が、社会復帰を支援する所を探したところ、LITALICOワークスにたどり着いたそうです。
見学時の相談では、「社会とのつながりを持ってほしい」「収入は二の次、障害を開示して理解のある所で働いてほしい」という2点が家族の希望でした。Kさんは言葉を発すること少なく、今後どうしていきたいかなどの発言もありませんでした。その日は体験会の申込みをして帰りました。
翌日、体験会に参加したKさんから「家族の収入に頼りたくないのが本音」と話をしてくれました。ただし、今までできていたことができなくなってしまっているので、就職できるのか・就職しても続けられるかなど不安の方が大きいとのこと。
スタッフから「できることを少しずつ増やしていきましょう」と言われ、焦らなくてもいいという安心感から利用することになりました。もう少し地域活動支援センターへ通うため、週3日からスタートしました。
温厚で人当たりもよく穏やかなKさんは、利用当初からスタッフや他の利用者と打ち解けることができました。同年代の方と「昭和の会」を作り、スタッフも含め昭和時代に流行ったことなどで盛り上がっていました。
聞き上手で安心感があるため、年下の利用者からも話しかけられることが多く、見学時より笑顔が増え、週3日から週5日通うことになりました。
また高次脳機能障害のある方は、自身のできない面を注目しやすい傾向にあることから、スタッフは「できることリスト」を作り、Kさんの自信につながるように工夫しました。
見えないところで相談
Kさんは、困っていても相談することができず手が止まったり、できないことにイライラしてしまうことがありました。状況を見ていたスタッフが面談で「分からないことは質問したり、頼ったりしていい」ことを伝えると、迷惑をかけるのが嫌で言えないとKさん。
迷惑をかけると思わなくていいことを伝えるも、なかなか相談できない日々が続きました。スタッフは「○○の件で相談したい」というトークスクリプトを作ったり、手やカードを挙げるなどを提案したりするも、目立つから嫌となかなかうまくいきません。
そこでスタッフは質問することを習慣にするため、開始時間から10分以内とお昼休憩後にその時におこなうプログラム内容や不明点をスタッフへ聞き、その内容をメモ・記録するというルールを作りました。
すると毎日のルーティン業務になったため、手が止まることがなくなり、今まではスタッフが声をかけていた場面でも決まった時間以外にも質問できるようになりました。
苦戦する就職活動
就職活動への準備をしていく中で、希望職種やどのような所で働きたいかを面談でKさんに確認するも「わからない、何も決まっていない」、「求人検索をしてもできるものがわからない」との返答。
高次脳機能障害のある方は、「新たに考えること」が難しいことが多く、Kさんも同様でした。几帳面な性格でタイピングやパソコン操作はミスなかったこと、座ってできる仕事から、スタッフが企業インターンへ行って実際に働いてみることを提案し、事務職を体験してみることに。
企業で2日間、照合作業を経験するも、ダブルチェックの依頼をすることができず苦戦。Kさんは「やっぱり働くのは無理、就労継続支援A型事業所へ行く」と言い出し、家族にもその場で連絡しました。
家族もスタッフもびっくりして急遽次の日に3人で面談をすることに。就労継続支援A型事業所も雇用契約を結ぶので、一般就労とあまり変わらないという結論になり、再度就職活動再開しました。
Kさん「は家族の収入でで養われている」と人に思われることを避けるため、正社員で就職することにこだわりがありました。しかし企業インターンを経験し自分には難しいと思い、雇用形態に拘らず自分のできること・長く働くことを改めて目標にしました。
面接の練習中、想定していた質問でも、言葉が出ず固まってしまうことがしばしば。試行錯誤しつつ、スタッフは企業人事担当・エージェントなど外部の方にも面接の協力してもらい、面接で想定される質問を列挙し、事前に準備できるようにしました。
その中で左半身の状況についての質問があり、スタッフが日々更新している「できることリスト」が役立つことがわかりました。
就職後の困りごとは定着支援で解決
就職活動と並行して、企業インターンを数社経験して少しずつ事務職への自信がついたKさん。しかし書類がなかなか通らず、苦戦している所に企業インターンに行った企業から「1度面接に来ませんか」という声がかかりました。
前回の企業インターンでの評価が良かったため、上司の方と面接をすることになりました。Kさんも自宅から近く、職場の雰囲気が1番良かったと言っていた企業でした。
スタッフはさっそく面接日を調整し、面接をおこないました。模擬面接をたくさん経験したため、実際の面接でも固まることなくスムーズに進み、見事採用! Kさんは嬉しい半面、不安もありました。短時間からスタートし「できることを徐々に増やしていこうという」と後押ししてもらい、承諾。
企業担当の方からKさんのキャラクターが周りの社員から受け入れられていると聞いていたので、スタッフはそこまで心配していませんでした。
1週間後、企業の担当者に確認すると「報告が遅い」「数字を1桁間違えていたのに、なかなか報告できずにいた」とのこと。大事に至ることはなかったとフォローしつつ答えてくれました。Kさんに様子をうかがうと、質問・報告することができないと嘆いていました。
Kさんは、輪に入れていないと感じていましたが、自分から話題を振ることもできず孤立感に悩んでいる様子でした。一旦スタッフは3者面談をおこない、状況を整理しました。
企業担当者の方はコミュニケーションが取れていると認識していましたが、Kさんの不安を伝えるとすぐにランチ歓迎会を部署全員で開き、Kさんの不安を取り除くことができたようです。
その後、定期的にKさんと面談をしていますが、ランチ歓迎会のおかげで距離がみんなとの距離が縮まり、徐々に質問・報告ができるようになり、不安がほとんどなくなったとのこと。
企業担当の方もたまにミスはあるものの、ちゃんと報告してくれるようになったので問題ありませんとのこと。現在はフルタイムで頑張って働いています。
※プライバシー保護のため、一部の文章について事実を再構成しております。
※掲載内容(所属や役割、診断名など)はインタビュー当時のものです。