ターナー症候群(難病)の仕事・就職事例 -学校事務-
働くことが誰かの希望に繋がる
女性/20代/学校/事務職
ターナー症候群(難病)
難病から知的障害・発達障害を併発
「ターナー症候群」という先天性の難病のあるCさん。子どもの頃から定期的な通院でホルモン補充療法を受けていたため、ターナー症候群による低身長や斜視がみられますが、特別な配慮は必要ありませんでした。天真爛漫な性格で、将来は音楽教室で子どもたちにピアノを教えることやいずれ1人暮らしをすることを夢見ていました。
専門学校で実習に行った際、実習先で教わったことができないことやレポート課題の内容を見て、発達障害の疑いがあるのではと実習先から学校に連絡がありました。専門学校の先生が母親に相談すると、思い当たるふしが多々あるため、今後のために検査をすることになりました。この実習で注意や指摘を何度も受け、Cさんは社会に出て働くことに恐怖を覚えました。
病院で検査の結果、ターナー症候群に伴う軽度知的障害と学習障害があると判明。実習での恐怖心から子どもたちへピアノを教える夢が難しくなり、専門学校を卒業することに重きを置くことにしました。一方で母親はCさんの沈んでいる様子や漢字の読み書きが難しい状況を考えると将来に不安を感じ、LITALICOワークスへCさんと見学・相談に訪れました。
CさんはスタッフからLITALICOワークスの説明を受けていると、実際に職場で業務を体験できる企業インターンがあると聞いた時に学校の実習と重ね合わせ、下を向いてしまいました。異変に気付いたスタッフが声をかけると、母親が実習での出来事を説明……途中から泣きだしてしまいました。実習がトラウマになっていることを理解したスタッフは、Cさんらしく働ける仕事を一緒に見つけていくことを約束しました。
成功体験を積んでいく支援
はじめて会話する相手には構えてしまう所がありますが、話をしていくうちに仲良くなる様子を見てスタッフは一安心。時々敬語を使わないで話をすることがありますが、身長が140cmないくらいで愛嬌があり、かわいらしい雰囲気のため他の利用者から癒しの存在になっていました。
トレーニングをしていると、Cさんの弱点がいくつか見えてきました。同時並行して物事を進めることが難しかったり、環境や場面が変わると同様のことを全く違うことと認識してしまい覚えることに時間がかかったりすることが判明。また、分からないことがあっても「はい」「分かりました」と言ってしまうくせがあり、作業が止まってしまうことがしばしば。スタッフはメモを取って都度確認するように伝え、繰り返しトレーニングしました。
社会に出て仕事をするということの恐怖から抜け出していないということを把握していたスタッフは小さな成功体験を積んで自信をつけてもらうことを共通認識としていました。課題がある所はきちんと伝え、できたことに対して褒めて承認することを続けました。はじめはスタッフが確認する際にミスしていないかおどおどしていましたが、回を重ねるほどに自信を付けていき、次第に堂々と確認依頼できるようになりました。
仕事の選択肢を広げる企業インターン
就職に向けた準備ができてきたCさん。企業インターンに参加するため、企業の候補一覧を見せるとCさんの表情が一転しました。「仕事=ピアノの先生しかなかったから、その他は分からない」とあいまいな回答をしました。その後も「スタッフがこの企業へ行ってみましょう」など提案をしても、何かと理由をつけてなかなか行動に移せずにいました。スタッフは専門学校時代の実習経験がネックになっているのか確認すると、泣き出してしまいました。
Cさんは実習がトラウマになっていて怖くて行けないと訴えました。スタッフはCさんが今まで一生懸命いろいろなトレーニングを積んで自信をつけてきたことを振り返りました。またスタッフが職場を熟知している企業を選定し、初日は同行して1日見守っていることや困ったことがあったらすぐ連絡していいことを提案しました。Cさんは「できるか分からないけれど、やってみる」と前向きな回答をしてくれました。
スタッフは企業でもできたことに対して承認してもらう・褒めてもらうことでCさんの自信につながると思い、企業インターン先の担当者へ依頼しました。所々で褒めてもらうことにより徐々に笑顔が増え、初日を終えました。2日目以降、何度か電話があるものの、担当者からの承認やスタッフの励ましで全日程終了しました。
企業インターンの振り返りで、Cさんは「大丈夫かもしれない」という思いと「環境が変わったらどうなるか心配」の両方があると話してくれました。スタッフは複数経験した方がいいと思い、接客以外の業務も体験することを提案しました。その後複数の企業インターンを経験し、Cさんにとって重要なのは、職種より働く環境であること、環境がCさんに合っていれば無理なく働けることが分かりました。
障害者手帳を取得して働く
就職活動をはじめるにあたり、応募書類の作成に取り掛かったCさん。母親から漢字の読み書きが小学校1年生レベルと聞いており、応募書類のほとんどがひらがなでした。トレーニング中もはじめは漢字を書くことが難しい場面が多くありました。しかし繰り返し見る漢字は次第に書けるようになったため、スタッフは仕事も覚えていくうちにできると認識しました。
難病や障害を開示して障害者雇用枠で働く方が、企業とCさんの双方にとって良いと思っていたスタッフは、主治医に障害者手帳取得について相談しました。すると難病での障害者手帳取得は難しいものの、軽度知的障害で療育手帳の取得ができるとのことでした。母親にも提案すると障害者手帳を取得して働くメリットが分からず、何となく避けていたとのことでした。
スタッフは家族面談を設定し、障害者手帳を取得して障害者雇用枠で働くメリット・デメリットについて説明しました。説明を聞いた母親はCさんに関しては「メリットでしかない。配慮してもらわないと働きづらいでしょう」とその場で承諾し、障害者手帳取得に向け動きはじめました。
働く姿は生徒の希望の星
Cさんが子どもが好きでピアノを教えることが夢だったことから、スタッフは子どものいる環境で働けたらいいという思いがずっとありました。Cさんの人柄を知ってもらえば気に入ってもらえるという自信があったスタッフ。市の教育委員会へ雇用前実習の依頼をするため人事に連絡をし、Cさんの人柄や難病・障害について説明をしました。
するとうれしい提案が……「特別支援学校や養護学校だと理解を得られるのでは」とのことでした。スタッフはその方法があったと共感し、すぐに調整していただくよう依頼しました。その後特別支援学校でのアシスタントとして、職場見学や雇用前実習の機会を作っていただきました。
職場見学時、Cさんははじめ緊張からうつむき加減でしたが、先生方からすでに好感を抱いていただいていました。「Cさんは生徒の希望の星です。配慮があれば働くことができるという見本になる」と歓迎ムードでした。さらに雇用前実習の説明を受けた際、仕事内容がひらがな多めで難解な言葉はかみ砕いて記載してありました。
理解・配慮いただいていることに感激したスタッフは担当者にお礼をすると、「この学校では配慮に入らないです。通常のことです」と笑みを浮かべました。スタッフはCさんにとってベストマッチで、安心して働ける職場だと思いました。
後日、内定の連絡がきました。Cさんはピアノの先生ではないけれど、子どもに囲まれて働くことができる・先生方から「希望の星」と言ってもらえることがうれしいと大喜びでした。
※プライバシー保護のため、一部の文章について事実を再構成しております。
仕事に慣れたら1人暮らしが夢
就職初日にスタッフが同行した際、Cさんは緊張することなく元気いっぱいでした。先生方からフォローしていただきながら働く姿を見たスタッフは、企業インターンの時のように困った際の電話はほとんどないと確信しました。実際、今日褒められたことやコロナ禍で学校が休校になった時の「今こんなことを家でやっている」といううれしい報告ばかりです。
先日の定着支援面談で、「仕事に慣れてきたから1人暮らしをするために情報を集めている」といつものCさんでした。先生方に様子を伺うと、「何でもやってみたい」と言ってくれるので助かるし、生徒にもCさんを目標に頑張ろうと伝えることができてうれしいと高評価です。
※掲載内容(所属や役割、診断名など)はインタビュー当時のものです。