高安動脈炎(難病)の仕事・就職事例 -事務-
障害者手帳なしで内定
女性/20代/小売/事務職
高安動脈炎(難病)
成人後に原因不明の難病を発症
Iさんは、新卒で入社した会社で保険の外交員として仕事をしていました。仕事中にめまいや頭痛、失神が多発するので通院していましたが原因不明……インターネットで症状を入力して検索するも、情報がたくさんあり不安になるばかりでした。
ある日、検査をしたところ「高安動脈炎」と診断されました。これまで病院を転々としても診断名がはっきりしなかったため、診断名がついてホッとしたそうです。
しかし「治療法が確立していない原因不明の難病」と伝えられ、しばらく入院生活を送ることに。「難病とは」「高安動脈炎とは」と医師からの説明を聞くも、Iさんはじめ家族もになかなか受け止めることができず、ショックを受けました。医師や家族から「一緒に治療をがんばりましょう」と言われ、治療に前向きになれたそうです。
退院後も通院や服薬を続け、長期自宅療養をしていました。症状が落ち着き医師から外出許可が出ました。以前から1人暮らしをしたいと思っていたため、仕事を探すことに。しかし体力がかなり落ちていたため、すぐに働くことは難しいと考え、インターネットで調べていると、LITALICOワークスにたどり着きました。
事前にLITALICOワークスについて調べ、医師の許可を得た上で見学に行きました。難病のある方の支援実績は多くないものの、一人ひとりに合わせたサポートや週3日からでも可能なことなどから利用することを決意しました。
仕事をするための準備
スタッフと相談をして週3日から利用を開始。次第に週3・4日の隔週シフトで通うことにしたIさん。はじめは疲れが取れなかったり体調が優れなかったりして週4日が難しく休むこともありましたが、休憩をこまめに取ることで疲れないようにする工夫を続けると、休むことがなくなりました。
Iさんは、コミュニケーション・自己理解・ストレスマネジメントプログラムに興味がありました。しかし発言することに苦手意識があり、グループワークのあるプログラムを避けていました。また個別トレーニングで不明点があってもスタッフに質問できず自己流でおこない、ミスをしてしまうことがありました。
スタッフは面談で一つひとつ振り返りながら、グループワークや質問することについて触れました。Iさんは「自己発信が働く上で必要なことは理解している」「質問しないで1人で進めるとどうなるか分かったけれど、どうすればいいか分からない」と悩んでいました。グループワークはコロナ禍の影響で一旦ストップしてしまったため、スタッフへの質問はクッション言葉を使って練習を重ねました。
しかし、コミュニケーションに対する苦手意識はなかなか取り除くことができず、「コミュニケーションを必要としない仕事を希望したい」とスタッフに告げました。スタッフは「どのような仕事でもコミュニケーションは必要。急ぐ必要はないので徐々に自己発信できるよう一緒に頑張りましょう」と伝えました。Iさんは納得し、自分に合った仕事・職種を探そうと前向きに考えるようになりました。
難病と仕事の両立に向けて
プログラムや個別トレーニングを進めていくうちに、無理なく働くためには難病を開示して事務職を目指そうと思うようになりました。Iさんは働くために何をすればいいか自主的に考えることができます。パソコンスキルを身に付けたり、資格を取得したり……1度に全ては難しいため、WordやExcelを日々のトレーニングで基礎~中級レベルまでできるようスタッフと一緒に目標を立てました。
事務職で働くイメージを持つため、企業インターンで職場体験をすることになりました。業務面の他、コミュニケーションと休憩を取るタイミングについて確認することに。企業担当者から「緊張しながらも、ご自身の体調を把握しながら適宜に対応できていた」と評価をいただくことができました。コミュニケーション面で不安というIさんの言葉から、スタッフももう少し企業インターンでの実践が必要と考えていました。
しかしコロナ禍でなかなか企業インターンの予定が組めないことがありました。就活をはじめる前に障害者手帳の申請をしようと思っていたIさん。状況を踏まえ、少し予定を早めて医師に障害者手帳取得のための診断書を依頼すると、思いがけない事態に。
医師から「Iさんの症状では身体障害者手帳の取得は難しい」と伝えられました。難病を開示して障害者雇用枠で働くことを想定していたため、Iさんとスタッフは呆然……方針転換を余儀なくされました。
障害者手帳なしで難病を開示
障害者手帳を取得できず障害者雇用枠での就職が厳しく、ハローワークの難病トータルサポーターに相談することにしました。
状況を説明すると、「はじめは週3日くらいからスタート、ゆくゆくは正社員」「月1回の通院で休みが必要」などの条件がハローワークのマザーズ求人にある条件と合致すると提案してもらいました。履歴書や医師の意見書についてもマイナスになる情報は削除するなど添削をしてもらい、起死回生の手立てを見つけました。
面接練習などの合間にマザーズ求人を見ていると、勤務地や条件の合う求人が数件見つかりました。その求人の中でIさんが通っているLITALICOワークスの卒業生が働いている企業があり、スタッフは企業へ障害者手帳の保有なし・難病を開示して働きたいとIさんについて相談しました。すると、スタッフ同行可能で見学・面接の打診がありました。「チャンスなので頑張る」と快諾するIさん。
通常では一般求人ではスタッフが面接に同席することは難しいところ、スタッフの同席OKかつ見学ができることにIさんは緊張しながらも少し安心して見学・面接に挑みました。はじめに企業説明を受けたところ、「スキルより環境にマッチするか」「必要な配慮があるなら障害やハンデキャップのあるなしや手帳あるなしは関係ない」というスタンスの企業でした。
コミュニケーションに不安があるIさんでしたが、面接官の質問にきちんと返答していました。疾病のマイナス面を話した際にスタッフがフォローしましたが、それ以外はフォローする必要はなく、1人で頑張っていました。数日後、「コミュニケーションが苦手とのことですが、ご自身で改善しようと頑張ることができる方だと感じました」と配慮事項の受入れOK・週3日の時短勤務で内定の連絡をいただきました。
Iさんは1社のみで決めていいのか少し不安がありましたが、人事部との面談が年に数回あり、相談できる方が同じ職場以外にもいるということし、時短からスタートしてフルタイムや正社員へ移行できることが決め手となり、内定を受けることにしました。
難病と仕事の両立
新型コロナウィルスが大流行のさなかに就職初日を迎えたIさん。長期療養でブランクがあり、慣れない環境での生活がスタートする中で緊張した様子。しかし職場の先輩方が質問したら優しくフォローしていただける環境でした。
初日終了後にIさんは「何とかやっていけそう」と言っていましたが、数日後には「新しいことばかりで覚えることが大変そうだけれど、ゆっくりでいいと言ってもらえたので頑張ります」とポジティブ発言に変化。
一般求人でも定着支援サービスは存在します。企業に難病であることを伝えてはいますが、障害者雇用枠ではないため企業担当者とIさんの間にスタッフが介入することは任意となります。Iさんが就職した企業では「彼女を信頼しているので大丈夫だと思いますが、何かあれば連絡をください」というスタンスで定期的な面談はありません。
1ヶ月後に人事部の方と面談で1~2年で週5日勤務→正社員と順を追ってキャリアアップしていく旨を聞いたIさんは焦らず頑張れば、1人暮らしもできると心を弾ませています。また、「理解していただけているので周りの方の視線を感じることなく休憩をコンスタントに取ることができ、疲れが次の日に残らないように仕事ができている」と振り返り順調に働いています。
※プライバシー保護のため、一部の文章について事実を再構成しております。
※掲載内容(所属や役割、診断名など)はインタビュー当時のものです。