ずっと引きこもっていた私が正社員となり、採用担当としてメンバーの成長を喜べるようになるまで
プロフィール
- Tさん
- 年代 : 30代
- 就職先企業 : SOMPOシステムズ株式会社
- 診断名 : 社交不安症、うつ病
困りごと
- 密室の空間(満員電車)など、外に出られない空間で極度に緊張する
ストーリー
大学在学中から引きこもり、その後LITALICOワークスへの通所を経てSOMPOシステムズ株式会社の一員となったTさん。入社から約3年半が過ぎ、現在は雇用形態を正社員に変えて活躍されています。そんなTさんに、通所中のこと、就職活動のこと、現在のお仕事についてお伺いしました。
順調だった人生に突然やってきた、長い引きこもり生活
ーーTさんの学生時代の話から、まずはお聞かせください。
Tさん:中学校や高校の頃は、バドミントンに打ち込んだり生徒会長を務めたり、何かと忙しくしていました。他の友達とも特に何も変わらずに、普通に学生生活を楽しんでいましたね。高校を卒業した後は、もともとパソコンを触ることが好きだったこともあって、大学の情報系の学部に入学しました。
そして、大学3年生のある時期のことでした。それまでは何ともなかった授業中に、「教室の中にいると体調が悪くなってしまう」ということが起こり始めたんです。
ーー長時間閉ざされた空間にいることが難しかった。
Tさん:そうですね、息苦しくなってしまって。最初はただ体調が悪いだけかなと思っていたのですが、同じ症状がずっと続いてしまったので、これはおかしいなと。でも周りには相談できる人もいなかったので、教室の端っこに座ったりとごまかしながら過ごしていたんです。
ーー3年生というと、就職活動も始まる時期ですね。
Tさん:それでみんなと同じように私も就職活動を始めたのですが、面接で部屋に入った途端に気持ち悪くなってしまって。まともに面接ができない状況になってしまい、いよいよこのままではまずいなと思いました。
面接官と上手く話せるかという緊張よりも、その場に30分いられるかという緊張と戦っている感じで。
ーーその異変をどう受け止められていたのでしょうか?
Tさん:当時は精神の病だとは思っていませんでしたので、内科に行ったのですが、特に異常はないですねと帰されてしまって。
原因は分からないし、ストレスもあってひどいアトピーも出てきて、夜も眠れなくなってしまったんです。就職活動どころではなくなってしまい、家に引きこもるようになりました。
ーーそれはつらかったですね……。
Tさん:大学2年生ごろまでは何の問題もなく送れていた生活が、急に難しくなってしまった。ショックでしたし、原因も対処法も分からずどうすれば良いのか分からなくなってしまいました。親からも「他の病院にも行ってみる?」と言ってもらっていたのですが、まだ自分自身の問題、病気と向き合うことができず、通院まで時間がかかってしまったんです。
ーーその当時は、将来についてどのように考えていたのですか?
Tさん:あまり考えないようにしていました。とにかく不安だったのだと思います。そんなある時、友達から「久しぶりに飲みに行こうよ」と数年ぶりに連絡が来たのですが、「正直、今は会えないな」と思ってしまって。この状況を説明することもできない自分にあらためて気付いて、このままじゃダメだなと思いました。親に頼んで、まずは市役所の相談センターに同行してもらいました。
ーーそこではどんなお話があったのでしょうか?
Tさん:市の担当者からは「これはご自身の性格の問題とかではなくて、精神的な病気だと思います」と。それで精神科の病院を紹介してもらいました。それが、大学を卒業してから6年くらい経ったときで、社交不安症とうつ病だとはじめて診断されたんです。
ーー診断名が分かったときは、どんな気持ちでしたか?
Tさん:もう長い間ずっと、自分の置かれている状況が分かっていなかったので、ちょっと安心したというのがありましたね。でもそのときも症状がひどくて、病室でも汗が止まらなくなってしまうような状況で。「ここまで重い症状で、今までよく頑張ったね」と言ってくださった先生の言葉を、今でも覚えています。
人との関わりを再開する、第一歩
ーーその後、LITALICOワークスへの通所を始められたとのことですね。
Tさん:はい、病院に通院し始めてから、半年とちょっと経った頃でした。病院のケースワーカーさんと話す中で、将来を考えたときに障害者雇用で働くという選択肢について知りました。そのためのステップとして、就労移行支援事業所に通所した方が良いと。お医者さんからも今を変えるきっかけになると背中を押していただきました。
ーーそこでLITALICOワークスを選んだ決め手はありましたか?
Tさん:通っていた病院が近いこと、そして病院のケースワーカーの方に勧めていただいたことが、LITALICOワークスを選んだ理由です。
ーーLITALICOワークスの最初の印象について教えてください。
Tさん:LITALICOワークスのセンターには、想像よりも多くの利用者の方がいたので、私の障害や症状を考えると圧迫感を強く感じ「ちょっと通うのが難しいかも……」とは思いました。そんなスタートだったので、最初の方は通うのがかなり大変だったのですが、ケースワーカーさんにも背中を押してもらいながら何とか通うことで、少しずつ慣れていった感じでした。
ーー最初はつらかったけれど、通う中で慣れていったということですね。どんなところが、通って良かったと思えるところですか?
Tさん:もともと、引きこもって家族以外とコミュニケーションを取らずずっと一人でいたので、人とのコミュニケーションに不安があったんです。そのため、グループワークで他の人とのコミュニケーションを取る練習ができたことは大きかったと思います。あのワークでの経験が、自分にとっては、人と関わることを再開する第一歩となったんです。
ーー最初の一歩を支えてくれた場所であった。
Tさん:そうですね。週1~2回の通所から始めて、半年かけて週5回安定して通えるようになりました。自分もちゃんと通うことができるんだと、自信をつけられたことは大きかったです。だから本当に、LITALICOワークスを通して生活のリズムを取り戻していった感じですね。同時に、苦手な閉鎖された空間である電車通勤の訓練も行っていきました。
ーーそしていよいよ、就職活動をしていったんですね。
Tさん:実際に就職活動をするタイミングで、LITALICOワークスで応募書類のチェックや面接の訓練をしてもらったので、とても助かりました。それに、自分と似た障害を持った卒業生の方がいらっしゃって、今どんな風に働いているか、就職活動がどうだったかといったお話を伺うことができたので、将来について具体的なイメージを持つことの助けになりましたね。
この場所を卒業したら、自分もこんな風に生き生きと働くことができるかもしれないと、大きなモチベーションになりました。
ーー何社くらい受けたのですか?
Tさん:4社くらい受けましたね。障害を開示して働ける職場で、関わりたいと思っていたIT業界やパソコンをメインで扱う仕事を、という軸で探していました。それと同時に、長く働くことを意識していたので、面接の中でも障害雇用者の方の勤続年数等をお伺いさせていただいていました。
ご縁あって今の会社から内定をいただいたときは、とてもうれしかったです。一方で、やっぱりこの歳になって初めて社会人になるということで、出遅れている感覚もすごくあって。本当に上手くやれるか、不安な気持ちもまだまだ大きかったです。
それでも何より、親がとても喜んでくれたことがうれしかったんです。両親からは「外に出られなくなったときには、どうサポートすればいいのかこれからどうなるかと心配したけど、働けるようになって本当に良かった。そして万が一仕事が続かなかったとしても、とりあえず働けたということがうれしい」って言ってくれました。あぁ、ここまであきらめなくて良かったなと感じました。
今では正社員として、チームメンバーの成長を応援
ーーとても素敵な話です。そして、働かれる際にはオープン就労という形を選ばれましたね。
Tさん:病気や障害を隠さず、自分の持っている特性と向き合って、自分自身を見つめ直した結果です。自分の障害は恥ずかしいことじゃないと思えたこと、そして働くということにどうしても一抹の不安を抱えているために、職場の方に迷惑をかけないためにも知っておいていただけた方が良いと判断しました。
ーーなるほど。具体的なお仕事の内容についても伺っても良いでしょうか?
Tさん:2020年の4月に入社してから、人材統括部で採用業務を担当しています。もともとはエンジニアとして入る予定でしたが、ちょうどコロナのタイミングで人材統括部預かりとなって、そのままの流れで今の仕事をしているんです。
具体的には、新卒採用インターンシップの運営や、採用面接のスケジュール管理、学生対応、企業内セミナーでの説明、入社式や内定式など、新卒採用に関わること全般の仕事をしています。
ーーはじめての就労でしたが、困難なことはありませんでしたか?
Tさん:出社しようとしたときに、電車に乗ることができないということがありました。そのときは朝一番で対応予定の業務があったのですが、チームメンバーである同僚の方に急遽その業務を代わっていただき、その日はお休みさせていただきました。
また、ミーティングの際にも、密室が苦手なため体調が悪くなってしまったことがありましたが、ドアを解放してもらいました。
ーーどちらのケースも、周囲の方の理解と配慮があって乗り越えることができたと。
Tさん:そうですね、やはりそのあたりは、オープン就労だったことで救われた部分かと思います。上長も私の体調を常に気にかけてくださったり、働きやすいようにサポートしてくださったりして、とてもありがたく感じています。本当に良い会社だなって思っています。
ーーそして今では、そのがんばりが認められて、正社員としての契約に変わったそうですね。
Tさん:はい。入社して3年目のタイミングで、契約社員から正社員へと変わりました。今までより大きな責任も伴いますので、もちろんプレッシャーもありましたが、ここまで来ることができたことが嬉しかったですね。
今では、セミナーでたくさんの人の前で話すことも任せていただいていますが、もちろん緊張はしつつも、どうにかやっています。
(写真提供:SOMPOシステムズ株式会社)
ーー仕事のやりがいも教えてください。
Tさん:新卒採用業務に携わっているため、新卒で入った社員が数年後に活躍してる姿を社内ニュースで見ると、ひとりの人生が輝いている瞬間を感じ取れてうれしく思いますね。
LITALICOワークスに通う前は、病気や障害で悩み、引きこもって前に進めない日々を過ごしていましたが、今では「普通の日常」を過ごせている。そして何より、そんな状態だった自分を知っている親と楽しく会話できていることを、心からうれしく思っています。親が安心して笑っている姿は、引きこもっていたときには見ることができなかったので。
ーー最後に、読者の皆さんへメッセージをお願いします。
働くことはゴールではなく、スタート地点だと思います。ギリギリな状態で就職しても、決して長くは続かないのではないでしょうか。だからこそ、できることから少しずつ進んでいくことが大切ですし、もし後ろに下がってしまっても大丈夫だと思います。焦らずていねいに一歩一歩を自分のペースで進んでいけば、きっと大丈夫です。
企業の方からのコメント
現在、Tさんには「会社の看板」である「新卒採用」という非常に重要な仕事のリード役として、就活生向け企業セミナーのファシリテート、選考面接の全体取りまとめ、内定後の各種イベント、内定式や入社式の各種準備、採用活動に関するさまざまな照会対応など、幅広くご活躍いただいています。
弊社は一般雇用の社員と障がい者雇用の社員の間に垣根はなく、同じ組織の仲間としてチーム目標を掲げています。目標をどう達成していくかを真摯に考えて取り組むTさんの姿勢は好感度が高く、チームメンバーから厚い信頼を得ています。
また、いつも笑顔で仕事に励み、明るい職場づくりの一端を担ってもらっています。対外的にもフレンドリーな雰囲気なので話しかけやすく、「頼れるお兄さん的存在」として内定者から愛されているはずです(笑)
今後、キャリア採用や海外人材採用など、採用業務に関する仕事の幅を広げ、ご本人のキャリアアップに繋げていただきたく期待しています。
人材統括部 担当部長 田湯 義人様
※掲載内容(所属や役割、診断名など)は
インタビュー当時のものです。
スタッフからのコメント