アスペルガー症候群(発達障害)・双極性障害(精神障害)の仕事・就職事例 -事務-
自分自身を見つめ、探し続けた「場所」と「人」
男性/30代/商社
アスペルガー症候群(発達障害)統合失調症、パニック障害、双極性障害(精神障害)
作業所ではなく就労移行支援事業所へ通いたい
東京生まれ東京育ちのSさんは、幼少期にアスペルガー症候群(発達障害)と診断されました。Sさんは人とのコミュニケーションを苦手にしており、高校生のころに二次障害として統合失調症やパニック障害、双極性障害(躁うつ病)を発症しました。
Sさんは高校卒業後、東京の企業に営業職として一般就労しました。しかし仕事で東京都内や神奈川県内を移動することが多かったため、体調を崩してしまい1年ほどで退職することになりました。
東京都内の病院でその後も入退院をくり返していたSさんですが、症状が安定した時期に主治医に「働きたい」と相談しました。
Sさんは就職するにあたり、自身の障害は開示せず、高収入かつ正規雇用を希望。しかし主治医からは就労不可を言い渡され、まずは就労支援を受けつつ、生活リズムを整えることからはじめるように言われました。
最初、病院の先生は作業所をすすめましたが、Sさんはこれを拒否。一般企業への就労支援をサポートしている就労移行支援事業所を、自ら探すようになりました。
東京都で受けられる障害者の就労支援を探し、いくつかの就労移行支援事業所を見学したSさんは、一般企業出身のスタッフも多いLITALICOワークスを利用することに決めました。
就労支援を受け始めて
就労支援を受けはじめたSさん。東京の朝の交通機関の利用は体力的にも厳しいものがあったため、最初は週1~2日で短時間からスタートしました。最初は体調不良で欠席も多数ありましたが、徐々に慣れることができました。
主治医との連携や就労支援での様子からみえてきたSさんの特徴に、不安症(疑心暗鬼、被害妄想、対人恐怖など)と躁うつ(過剰な自信と極端な自信喪失)傾向が強いことがあげられます。
少しでも不安なことがあると周囲を信用することが難しく、実際に体調が悪化した際、服薬を勝手に減らしてしまい再入院ということがあったそうです。またLITALICOワークスの就労支援を受けるなかでも、体調が伴わない状態で希望する職種へスタッフに相談なく応募し、うまくいかず自信喪失することに……そしてうつ症状が悪化、再び入院してしまうということもありました。
体調の安定に課題があるものの、Sさんにはしっかりとした強みがあります。それは就労への意欲が高く、努力を惜しまないこと。そして好奇心があるものには自ら集中して取り組めることです。これらは目標を明確化し、目標までのステップを細かく区切って道のりが「見える」ようになることで、よりいかされるようになりました。
たとえば体調変化の時期や傾向を細かく把握しグラフ化することで、体調やメンタル悪化のサインがみえやすくなりました。またそれを主治医やケースワーカー等と共有することで、心身のバランスを大きく崩して入院するようなこともなくなりました。
就労支援では、失敗時の自信喪失が続かないように、「失敗してもしっかり反省すれば大丈夫」とフォローやフィードバックを徹底しました。さらに「失敗しても大丈夫な場」を作ることで安心してチャレンジでき成功を重ねたことで、失っていた自己肯定感を高めていくことができました。 また就労支援に必須なサービス等利用計画や個別支援計画をこまめに振り返り、着実に目標へと近づいていることで自信をつけ、日々のカリキュラムにもモチベーション高く取り組んでいました。
企業インターン(体験実習)で気づいたこと
自信をつけたSさんは、LITALICOワークスでの就労支援から実際の企業での実習へと段階を移行しました。実習を通して働くイメージをより具体化すると同時に、自分にとってどのような職場が働きやすいのかを探りました。
Sさんは企業インターンを通して、大きく気づいたことがあります。それは「場所」と「人」です。これまでは「仕事内容」ばかりを気にしがちでしたが、実習の経験から「どこで働くか」「誰と働くか」を大切にするようになりました。
たとえば「場所」。東京の中心地でもある新宿で実習していたときに、満員電車で通うこと自体に体力が要り、疲れから仕事に集中できないことがありました。上りではなく下り電車で自宅から通える実習先では、余力を持って職場に着き、仕事にも集中して取り組めました。
「人」に関しては、同年代の人が多い職場だと噂話で自分のことが話されているような疑心暗鬼に陥るため、年配の落ち着いた方が多い環境だと働きやすいことに気づきました。
雇用前実習から正規雇用へ
就労支援を受け続けたSさん。LITALICOワークスでのプログラムや企業インターンを経て、本格的に就職活動を開始しました。LITALICOワークスに通いはじめたばかりの頃は、高収入の大企業に憧れを持って都心の求人を中心に探していましたが、「場所」の大切さに気付いたSさんは、広い視点から求人をピックアップするようになりました。
Sさんが興味を持った求人に、わたしたちは積極的に雇用前実習を打診しました。正式に雇用される前に仕事を体験しておくことで、正規雇用後の仕事への不安を減らすことができました。また企業側も雇用前実習のSさんの様子を見て、雇用への心配事を具体的に相談でき、結果的に双方が前向きに雇用契約を結ぶことができました。
隔週で通院を続けながら、働き続けているSさん。
現在も月に1回、スタッフと定期的に面談を行い、Sさんと職場の担当者の聞き取りを継続しています。その中でSさんは「こんなにいい条件で働ける機会はもう2度とない」と話します。新しい仕事に取り組む時には不安もありますが、取り組み方のステップを細分化して進めることが自らできるようになりました。また業務拡大のため自主的にTOEICの勉強も開始したそうです。
仕事以外の面でも、茶話会、同窓会に積極的に参加し、企画から携わっています。自身の好きな趣味や関心ごとをもつコミュニティにも参加し、いろいろ幅をひろげています。その活動がやりがいであり楽しみになっているようです。
※同窓会:OBの方がプログラム内容やメニューを企画から考えて開催する会
※茶話会:月1回、定期的に開催している利用者さんやOBの方が集まってお話しする会
※プライバシー保護のため一部の文章について事実を再構成しています。
※掲載内容(所属や役割、診断名など)はインタビュー当時のものです。