「話してもいい」という安心感。苦手だったコミュニケーションを活かして秘書業務に挑戦
プロフィール
- Yさん
- 年代 : 20代
- 就職先企業 : 株式会社i-plug
- 診断名 : ASD(自閉スペクトラム症)
困りごと
- 情報の取捨選択が苦手
- 気持ちの切り替えが苦手
- マルチタスクが苦手
- 臨機応変に対応することが苦手
目次
目次
- ストーリー
- 診断を受ける前は「自分が甘いから」と思っていました
- 同じ目線で話を聞いてくれる人がいる安心感
- 現在は、総務と秘書を兼務する日々
- 気軽に質問でき、安心感を持って働ける環境
- 定着面談での定期的な振り返りで、視野を広く持てる
- 悩んでいる時は、自分にとって大切な考えが見つかる機会
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ストーリー
社会人として働き始めてから、ASD(自閉スペクトラム症)と診断されたYさん。LITALICOワークス神戸センターを利用し、株式会社i-plugに入社後は総務業務を担当し、現在はCEOの秘書としても活躍しています。そんなYさんに、通所中のことや就職活動のこと、現在のお仕事についてお伺いしました。
診断を受ける前は「自分が甘いから」と思っていました
障害について教えてください
診断名はASD(自閉スペクトラム症)です。特性として、情報の取捨選択や気持ちの切り替え、マルチタスク、臨機応変な対応などが苦手です。子どものころから感覚過敏があり、人の様子から気持ちを察することも不得意でした。
こだわりが強くて周囲に迷惑をかけてしまうこともありましたが、学生時代は優しい友人や学校など、周囲の環境に恵まれていたこともあり、なんとかやっていけたのです。でも、仕事を始めてからは、特性上難しい業務があったり、学生時代とは異なるコミュニケーション能力が求められ、コミュニケーションを取ることが難しかったりして悩みました。そのうち不眠や食欲減退などの症状が現れ始め、どんどん症状が悪化していったので病院へ行った結果、うつ病と強迫性障害の診断を受けました。
その後、うつ病の根本的な原因を調べるために検査をしたところ、ASD(自閉スペクトラム症)だと診断されました。
診断を受けてどう感じましたか?
正直安心しました。それまでは、悩みがあっても「みんなそんなものだ」と言われることが多く、「自分が甘いんだ」と思っていたのです。
でも、診断を受けてからは、それまで人より劣っていると感じていたことが甘えや努力不足ではないと分かって、救われた気持ちになりました。
一方で、それまでは「定型発達」として生きてきたので、急に「障害者」となったことには不安や戸惑いもありました。知識もなかったので、向き合い方も分かりませんでした。
当時勤めていた会社には診断を受けたことを伝えましたが、その会社では発達障害のある人の雇用は前例がなく、特性もあまり理解してもらえなかったので、ショックを受けました。
同じ目線で話を聞いてくれる人がいる安心感
LITALICOワークスに通うきっかけを教えてください
前職を辞めて次の就職を考えるにあたって、役所で相談したりネットで調べたりしてLITALICOワークスのことを知り、見学を申し込みました。
見学の時、LITALICOワークスのスタッフの方が親身になって話を聞いてくれ、私のことを理解しようとしてくれました。それが嬉しくて、安心したことを覚えています。結局、見学の時の印象がよかったこと、家からも近かったことが利用の決め手となりました。
LITALICOワークスで印象に残っていることを教えてください
最初にLITALICOワークスを訪れた時のことが印象に残っています。スタッフの中に、自分と同じような障害があり、障害者雇用で働いている方がいたのです。前職ではなかなか私の状況を理解してもらえなかったので、同じ目線で話を聞いてくれる人がいるという経験は初めてで、とても印象的でした。
LITALICOワークスでの取り組みを教えてください
自分の障害の特性については、LITALICOワークスに通所する前から勉強していました。そのため、利用を開始してからは、「今後どのように働いていくのか」「働く上でどのようなことが障害となっているのか」「どのような仕事が向いているのか」などの観点から、仕事に関するプログラムや、事務スキルを身につけられるプログラムを受けました。
また、当時はコロナ禍だったので、在宅でのプログラムも利用しながら時間管理や気持ちの切り替え方法を試していました。
LITALICOワークスで役に立った経験を教えてください
私が通っていた時は在宅と通所の両方があったのですが、そのおかげでチャットツールを使ってスタッフとコミュニケーションを取っていたことが、今の仕事に役立っています。在宅での仕事の取り組み方を試せたのは大きかったです。
また、受けるプログラムを自分で選ぶということにも、今につながる学びがありました。何でもスタッフの方にやってもらうのではなく、目標などから逆算して考え、自分で必要なプログラムを選ぶという経験は現在にも生きています。
現在は、総務と秘書を兼務する日々
現在の業務内容を教えてください
基本的にはオフィスに出社して、消耗品や備品の管理、郵便物の受取や発送、契約書管理、各種申請手続きなどの総務業務を行っています。最近では、CEOの秘書業務も一部担当しています。
入社当初の会社の印象を教えてください
現在は、入社して約9か月が経ちました。内定をいただいた時に、一度職場内を見学させてもらったのですが、すごく静かできれいな場所なので、落ち着いて仕事ができそうだなと感じました。
前職では休職期間もあり、しばらく「働く」ということから離れていたので、最初は不安ばかりでした。でも、今は仕事にも慣れてきました。
i-plugに応募しようと思ったきっかけを教えてください
私は対面でのコミュニケーションに不安があったため、リモートワークの仕事を探していました。でも、LITALICOワークスのスタッフの方から、「一度完全にリモートワークで働くと、その後転職したい時にもリモートワークでしか働けなくなるのでは?」というご指摘をいただきました。それでいろいろと考えた結果、リモートワークと出社の両方を選べる環境がいいのではと考えるようになりました。
そんな時にi-plugの求人を見たのですが、まず、新卒向けのサービスを提供していることに惹かれました。私自身、新卒で働いたときに、入社前に抱いていた印象と入社後の実際の様子が違ってしんどかったという経験があります。それを解決するサービスを行っているということに魅力を感じて、応募を決めました。
気軽に質問でき、安心感を持って働ける環境
職場ではどのような配慮を受けていますか?
1on1ミーティングといって、週に一度、上司と1対1で話す機会を設けてもらっています。その時間に不安なことや困っていることを話すことができますし、業務と直接関係なくても、ちょっとした雑談をすることができます。
実は前職は技術職で、さまざまな現場に赴く形の業務だったので、1人の上司と話すことはほとんどなく、その現場にいる方全員とやりとりをする必要がありました。さらに、電話が頻繁にかかってくるので、困ったことがあっても声をかけるタイミングも分からないという状況でした。
でも今は1on1ミーティングのおかげで、「自分の思っていることを話してもいいんだ」という感覚が持て、些細なことでもすぐに相談できるので安心感があります。不明点などもすぐに解消できるので、業務上も良いサイクルができていると感じています。
前職ではコミュニケーションで悩んだということですが、現在はいかがですか?
前職では、あいまいな表現や、自分の意見を伝えることが苦手で、過剰に人に合わせてしまい、結果的にお互いの親密度の認識にギャップができることが多くありました。また、質問しても「自分で考えて」と言われてしまうこともあり、次から質問できなくなったりしていました。
i-plugでは、最初から障害をオープンにしていることもあって、具体的に指示をもらえますし、分からない時にも自分から質問しやすい環境があり、働きやすいです。例えば、「なるべく早く」などの表現ではなく明確に期日を伝えてもらう、依頼を受ける時点でその仕事の重要度を教えてもらう、といった配慮をいただいています。これは入社前から希望事項としてお願いしていました。
今は、環境や業務にも慣れたので、配慮してもらっているというよりも、コミュニケーションの中であいまいなことを解消している感じだと思っています。
定着面談での定期的な振り返りで、視野を広く持てる
定着支援について教えてください
LITALICOワークスとの定着支援は、月に一度、ビデオ会議を通じてリモートで利用しています。入社してすぐの頃は、どのようなことをどれくらい会社に伝えていいのか分からなかったので、定着支援でいろいろなことが話せてありがたかったです。また、私は「やらなくちゃ」という気持ちが強くて、自分で自分を追い詰めてしまうことがあるのですが、定着面談で定期的に振り返りの機会があることで、視野が狭くならずに済んでいたと思います。
リフレッシュ方法はありますか?
リフレッシュ方法としては、まずは家でゆっくりすることが大事だと思っています。
その上で、外に散歩に行ったりウィンドウショッピングをしたり、温泉に行ったりしています。そうやって外に出られる状態が、自分にとっては「いい状態」で、逆に「温泉に行きたいけど、疲れているから家でいいや」という時は余裕がない状態だというように、ひとつの指針にしています。
この会社で働けて良かったと思うことを教えてください
社員のみなさんがお互いを尊重し合っていて、「ありがとう」をしっかり言う雰囲気が良いなと感じています。
例えば、営業さんのように自分とは異なる業務をしている方から「申請を早くしてほしい」と依頼が来た時も、対応した後に「おかげで早くお客さまに連絡できました」と感謝の気持ちを伝えてもらえるので、自分がやったことが役に立ったんだという実感を持つことができています。私はあまり自分に自信がなく、「ちゃんとできているかな」と不安になることもありますが、日々感謝の言葉をもらえることや、取り組んだことが何につながっているかがわかりやすいことから、働いていてやりがいがあります。
私は大きなプロジェクトを成功させるというよりは、日々の小さな喜びや幸せに対してやりがいを感じるので、今の職場は本当に合っているなと感じています。
悩んでいる時は、自分にとって大切な考えが見つかる機会
今後の目標を教えてください
現在は総務と秘書をしていますが、どちらの業務にも先輩がいて、少しずつ仕事をいただいているという状況です。今後は、もっと自分が仕事を引き受けて、先輩たちがよりプロフェッショナルな仕事に専念できる状況を作っていきたいです。今はサポートをしていただきながら仕事をしていますが、自分一人でできるようになれば、自信にもつながるかなと思っています。
ただ、100点を目指すとできないところに目が行って、結果的に自分を追い詰めてしまうので、今は「出社したら最低点はクリア」と捉えるようにしています。その上で、社会人として、成果を上げ、会社・社会に貢献することも忘れないようにしています。今はその2軸を大切にしながら、バランスが取れるように意識しています。
仕事以外での目標はありますか?
以前は自立した生活を送ることが目標でしたが、入社前から一人暮らしを始め、現在は自分の給料でしっかり生きることができているので、今はこの状態をキープしていくことが1つ目の目標です。
あとは、旅行にも行きたいと思っています。自分で仕事を管理して有休を取得し、北海道とか海外とか、遠くに行ってみたいという気持ちがあります。これまでは「無理なんじゃないか」とあきらめていたことが多いので、やりたいことリストを作って、少しずつ叶えていきたいです。
仕事は仕事でがんばって、プライベートはプライベートで楽しみを作っていきたいですね。
また、私は大人になってから障害が分かったので、その経験を活かして自分にしかできないことを見つけたいとも考えています。これはまだ具体的ではないですが、ひとつのテーマとして心に持っています。
今悩んでいる方へメッセージをお願いします
しんどいときは、休んでほしいなと思います。焦る気持ちもあると思いますが、心身の健康が保たれるまでは、しっかり休むことが大切です。
また、自分が譲れないと思うことは、譲らないということも大事だと思います。周りと比較して、「自分はできない」という気持ちになるかもしれませんが、比較するにしても「相手もがんばっていて、自分もがんばっている。自分は自分で100点だ」と考えられると良いのではないでしょうか。
これは、私も今だから思うことであって、つらい思いをして悩んだからこそ、自分の中で答えが見つかったように思います。悩んでいる時っていうのは、何か自分にとって大切な考えが見つかる機会だと思うので、じっくり焦らず、自分のペースで前に進んでいってほしいなと思います。
※掲載内容(所属や役割、診断名など)は
インタビュー当時のものです。
利用していた事業所
兵庫の就労移行支援事業所 LITALICOワークス 神戸
就職・職場定着支援で一人ひとりに合わせた就労移行支援事業所です。
企業からのコメント
(左)杉本様、(右)福永様
スタッフからのコメント