一人で不安を抱え込んでいた自分が、デザイナーとして充実した日々を過ごすまで
プロフィール
- Iさん
- 年代 : 20代
- 就職先企業 : フジミノデザイン株式会社
- 診断名 : ADHD(注意欠如多動症)
困りごと
- 時間管理が苦手
- マルチタスクで混乱しやすい
- 忘れっぽくミスが出やすい
目次
目次
- ストーリー
- 自分は、みんなと同じようには就職活動ができないかもしれない
- 悩みごとがひとつなくなると心にスペースが生まれて、少しずつ自信を取り戻せた
- 不安なことは、抱え込まずに誰かに相談すればいい
- 企業からのコメント
続きを見る
ストーリー
小学生の頃から忘れ物や宿題を後回しにしてしまうことが多くあったというIさんは、大学生になってADHD(注意欠如多動症)と診断されました。その後、LITALICOワークスへの通所を経て、今ではデザイナーとして活躍されています。
専門性の高いデザインの仕事に、自分の特性と向き合いながら取り組み、日々充実した時間を過ごすIさん。そんなIさんに、通所中のこと、就職活動のこと、現在のお仕事についてお伺いしました。
自分は、みんなと同じようには就職活動ができないかもしれない
ーーIさんは美術大学に通われていたんですよね。
Iさん:はい、もともと絵を描いたり、デザインを見たりすることが好きだったので。とても充実していたのですが、とにかく課題に追われる日々で忙しかったです(笑)。自分で時間を管理して進めていくということがどうしても苦手で、課題もギリギリになってさすがにまずい……となってから着手するような感じでした。昔から先延ばしにする癖があるので、いつも提出期限の前日には徹夜をするようなことを繰り返していました。
ーー毎回徹夜だと、体力的にも厳しかったのではないでしょうか?
Iさん:そうですね、何とか期日には間に合うのですが、ヘトヘトの状態で課題についての発表をするということも結構あって。毎日疲れた状態で大学に行く、という生活をしていました。その他には、アルバイトをしていた飲食店でオーダーが重なったときに、マルチタスクが苦手で頭の中が真っ白になってしまうなんてこともありました。
一方で、一度火がつくと時間を忘れて作業に没頭できるというか、一つの物事に集中することが得意だなぁとは感じていました。
ーー苦手なことと得意なことがはっきりされていたと。
Iさん:そんな特性と、何となく違和感のようなものもあって、大学2年生の頃に腰は重かったのですが病院を受診しました。当時、SNSでもADHD(注意欠如多動症)が話題になっていて、ぼんやりと「自分もそうなのかな?」くらいには思っていたんですよね。課題やアルバイトが重なって忙しい時期に気持ちが落ち込んでしまい、このままではダメだと思い、病院を頼りました。
ーーそこでADHD(注意欠如多動症)という診断を受けたのですね。
Iさん:診断名を聞いたときには、正直ほっとした自分もいました。当時は「何でこんなに苦手なことが多いんだろう」と自分を追い込んでしまっていた時期でもあったので、ちょっと心が軽くなるような気はしましたね。診断されたことで、やっと気持ちの整理がつきました。
ーー診断を受けてからの大学生活はどうでしたか?
Iさん:しばらくすると、周囲が少しずつ就職活動ムードになっていって……。そのときに私は、みんなと同じような形で就職活動をすることは難しいのかもしれないなって感じました。具体的に言うと、エントリーシートの期限を確認せずに過ごしてしまって、気付いたらもう締切を過ぎていた、なんてことが重なってしまって。ポートフォリオの制作も遅れていて、何も進んでいない中でただただ焦ってばかりいましたね。
ーーひとつ上手くいかないことがあると、それが連鎖してどんどん自信を無くしてしまうことってありますよね。
Iさん:はい。そんな時期がしばらく続いた後に、藁にもすがる思いで、障害があっても就職できるという事例をインターネットで探していました。そのときにLITALICOの記事が出てきて、同じようにADHD(注意欠如多動症)の方が就職して活躍しているという内容を見て、この方が通っていたLITALICOワークスを私も訪ねてみようと思ったんです。それが、大学3年生の6月頃のことでした。
悩みごとがひとつなくなると心にスペースが生まれて、少しずつ自信を取り戻せた
ーー最初の印象はいかがでしたか?
Iさん:まずは内装がめちゃめちゃ可愛いなって(笑)。ポップな印象で、カチッとしていない感じで安心感がありました。スタッフの皆さんも優しい方が多くて、雰囲気が良いなと思ったことを覚えています。
優しく包み込んでもらえて、ちょっと子どもの頃に戻ったような感覚さえありました(笑)。
ーーそんな安心できる環境で、特に役に立ったプログラムはありましたか?
Iさん:やはり私が必要としていた、就職活動の面接練習は助かりました。そして苦手だったスケジュール管理も、アドバイスをもらって手帳を使いながら実践してみることで、やることの抜け漏れも減っていきました。
あとは今振り返ると、名刺交換や対人コミュニケーションなど、実用的で社会でも役立つことを教えてくれていましたね。私は集団の中で人と話すことに少し苦手意識があるので、グループワークを通してコミュニケーションの方法を学べたことも大きかったと思います。
ーーたくさんあるんですね。LITALICOワークスに通い始めたときと卒業するときで、ご自身が一番変わったと思うことはなんでしょうか?
Iさん:何よりも、自分に自信が持てるようになったことが一番ですね。LITALICOワークスに通う前は、切羽詰まっていて自分を追い詰めていたのですが、今では人を頼りながら前に進むことができるように変わりました。あの時の自分と比べたら、別人のようになったなと感じています。
ーーなぜそれほど大きく変わることができたのでしょうか?
Iさん:「働く」ということが何も分からなかった私の不安に寄り添ってくれて、どんな相談にも乗ってくれたスタッフの方のおかげだと思っています。困っていることを相談すると、全部具体的なアドバイスで返してくれました。自分だけで考えていると視野も狭くなってしまいますし、話してみるとほとんど全ての不安を解消してくれるような感じだったので、本当に心強かったです。
そうして、悩みごとがひとつなくなった分、心にスペースができると、すごく余裕が出てきたというか。今までは不安が重なって上手くいかなかったことが、少しずつできるようになっていきました。
不安なことは、抱え込まずに誰かに相談すればいい
ーーありがとうございます。そして就職活動を経て、フジミノデザインに入社されました。
Iさん:私の地元でデザイン系の仕事がないかな?と、求人情報を探していたときに見つけました。こんな素敵な会社が家の近くにあるなんて、ととても嬉しかったことを覚えています。服装自由での面接が初めてだったので逆に緊張したのですが、面接してくれたお二人がとても優しい雰囲気で、オフィスもとても格好良くて、ここで働きたい!って強く思いましたね。
ーーそれほどご縁を感じられたと。それで内定が出て、どんな気持ちでしたか?
Iさん:この瞬間のために私は就職活動を頑張ってきたのかって(笑)。何より、親がとても喜んでくれたことが、安心しましたし嬉しかったです。
ーー入社後はどのようなお仕事をされているのでしょうか?
Iさん:最初は、カレンダーのデザインのイラスト部分から担当させていただきました。いろんな地名の有名なものとか場所とかをイラストで描かせていただきました。この案件を通して、スケジュールだったりクライアントとのやり取りだったり、そして社内の報告・連絡・相談だったり、仕事の一連の流れを掴むことができました。
ーー学生時代は、それこそ期限を守ることに苦手意識があったとのことでしたが、仕事ではどうだったのでしょうか?
Iさん:今は仕事のやることをリスト化して整理して、少しずつスケジュールを意識できるようになっています。それに、私のために進捗を報告・相談する場を1日の中で複数回設定してくれているおかげで、抜け漏れなく進行できています。他にも細やかに声を掛けてくれたり、相談もしやすい空気を常に感じさせてくれるので、とても有り難く思っています。
ーー仕事上の配慮のある環境で働くことができていると。
Iさん:そうですね、体調を崩してしまったときにも、仕事の進捗と合わせて体調も報告するようにしています。仕事が止まっちゃっているときも、「すみません、ちょっと相談したいのでミーティングをお願いします」と、自分から言えるようになりました。
昔は、誰かに相談することが迷惑かな……とか考えてしまうこともあったのですが、LITALICOワークスでの経験や、今の職場の風通しの良さで、自分から相談することができるように変わりました。
ーー大きな変化ですね!仕事の代表作はどんなものですか?
Iさん:地元の食べ歩きイベントのポスターがありまして、それを継続してデザインさせていただいているのですが、この仕事が印象に残っています。デザインの案を出すところから担当させていただいているので、駅でポスターを見掛けたりすると嬉しい気持ちになります。
ーーデザインを制作する上で工夫されたポイントもあったのでしょうか?
Iさん:私はイラストを描くことも好きなので、イベントの楽しさが伝わり参加したくなるようなイラストをビジュアルに用いたデザインにしました。まだまだこれからなのですが、自分の味が出せるように意識して制作しています。
ーーデザイナーとして、今後どうなっていきたいかも教えてください。
先日、スキルアップのために色彩検定を取得したのですが、色を含めたユニバーサルデザインというか、障害の有無に関係なく、誰が見てもわかりやすいデザインをつくることができるデザイナーになっていきたいです。
あとは、今はまだチームで分担して仕事をしているのですが、例えばパンフレット全体を一人でデザインできるようになったり、丸っと任せていただけるように成長していきたいです。この会社で長く活躍していきたいと思うので、たくさん仕事をしてもっと信頼してもらえるように頑張っていきます!
ーー最後に、読者の方々にメッセージをお願いいたします。
もし今、不安なことがあったとしても、一人で抱え込まないでどんどん誰かに相談して、不安なことや心配なことを自分の中に残さない気持ちでやっていけると良いのではと思います。不安って、一つ心の中にあるだけで、頭の中の大部分を占めてしまうものだと思うので、ぜひ誰かに頼りながら解決していってもらえたらと思います。
企業からのコメント
入社面接時に「これから一緒に会社をつくっていきましょう」とお伝えし、笑顔で「頑張ります!」と答えてくれたのを覚えています。2年目からはデザイン業務だけでなくクライアント対応にも挑戦し、少しずつ業務の幅を広げられていますね。定着支援面談などを通じてLITALICOワークスのスタッフの方からいただいたアドバイスの実践、業務上の気づきをまとめた振り返り資料の活用、資格取得に向けたプランの実行など、努力を続ける姿に頼もしさを感じています。これからも対話を大切に、ともに成長していきましょう。(人事担当)
※掲載内容(所属や役割、診断名など)は
インタビュー当時のものです。
スタッフからのコメント