高次脳機能障害(こうじのうきのうしょうがい)は、脳への損傷(ダメージ)をきっかけとして「仕事でミスが増える」や「以前より怒りやすくなった」などの症状が表れる障害です。
症状の出方は人それぞれであるため、なにかしらの原因で脳に損傷を受けた後、これまでには見られなかった症状が表れた場合、高次脳機能障害の可能性があります。
今回は、高次機能性障害について、具体的な症状や原因、診断基準やリハビリの種類について分かりやすく解説します。
高次脳機能障害(こうじのうきのうしょうがい)は、脳への損傷(ダメージ)をきっかけとして「仕事でミスが増える」や「以前より怒りやすくなった」などの症状が表れる障害です。
症状の出方は人それぞれであるため、なにかしらの原因で脳に損傷を受けた後、これまでには見られなかった症状が表れた場合、高次脳機能障害の可能性があります。
今回は、高次機能性障害について、具体的な症状や原因、診断基準やリハビリの種類について分かりやすく解説します。
高次脳機能障害とは、脳の損傷(ダメージ)が原因で起こる症状のことです。
脳が損傷する原因としては「交通事故による頭部の強打」や「脳卒中(脳の血管がトラブルを引き起こす病気のこと)」などが挙げられます。
高次脳機能障害の症状は、物忘れが激しくなってしまったり、気持ちを抑えられなくなったりするなど、ひとつではなく複数同時に表れる場合があります。
人によって症状が異なりますが、場合によっては「作業がスムーズに進まない」「職場に遅刻する」など、日々の生活で困難やストレスを感じることがあります。
しかし、高次脳機能障害の症状は、正しいリハビリをおこなうことで、症状を和らげることが可能です。
高次脳機能障害に早く気が付き、適切な対処をするためには、事故や病気などを経験した後、自身に「以前とは異なる症状」が出ていないかしっかりと確認することが大切です。
高次脳機能障害で生じる症状を「記憶障害」「注意障害」「遂行機能障害」「社会的行動障害」の4つのタイプに分けてご紹介します。
もしも身の回りの方からの指摘により、自身の症状にあてはまる項目があった場合は、早めに医師の診断を受けましょう。
また、どの症状が起こるのかは、損傷した脳の部位によって異なります。
脳の部位に関しては、下記を参考にしてください。
記憶障害は脳の側頭葉内側が損傷することによって起こります。
大きく「前向性健忘」と「逆向性健忘」の2つに分かれます。
前向性健忘は、脳にダメージを負った後に経験したことを思い出せない状態の障害です。
具体的には「家族や長年の友人のことは思い出せるものの、発症後に新しく出会った医師や病院スタッフの名前を覚えることができない」などのケースです。
その他「物を置いた場所を忘れてしまう」「自分が何をしていたか思い出せない」「ほんの数十秒前のことであっても思い出せなくなる」といった症状が現れることがあります。
逆向性健忘は、脳にダメージを負う前の記憶を思い出せない状態のことを差します。
例としては「発症後に会った人の名前は覚えているのに、家族や自分のことが思い出せない」などです。
脳に損傷を受けた数分前~数時間前の間だけでなく、数年にわたる記憶を覚えていないケースもあります。
注意障害は前頭葉や頭頂葉がダメージを受けることによって起こります。
症状としては、周囲のことが気になり物事に集中できなくなったり、まわりの環境に注意を向けることが難しくなったりするなどが挙げられます。
具体的には、下記のような症状が表れることがあります。
ミスが増えたり、複数の作業を同時にできなくなったりするため、日常生活や仕事上で困難を感じることがあります。
遂行機能障害は、前頭葉に損傷があった場合に起こる可能性があります。
「物事に段取りをつけて進めることが困難に感じる」「場面に応じて適切な対応がとれない」などの症状が出ます。
下記の状況にあてはまる場合は、遂行機能障害の可能性があります。
計画性がなかったり、業務をスムーズに進められなかったりするため「急に仕事ができなくなった」と感じるかもしれません。
事故や病気で職場を離れていた場合「久々の仕事で、からだが鈍っているだけ」と思ってしまいがちですが、遂行機能障害が原因のケースもあると覚えておきましょう。
社会的行動障害は、前頭葉や側頭葉にダメージを受けたときに起こります。
社会的行動障害のある方は、感情や行動のコントロールに困難や辛さを感じる場合があります。
社会的行動障害のある方に見られる言動や行動の例をいくつかご紹介します。
社会的行動障害の症状は決して、本人の甘えや努力不足によるものでありません。
感情や行動のコントロールがうまくできず、本人も辛さやストレスを感じていることが多くあります。
頭を強く打った後に、上記のような症状が見られるようになった場合は、一度専門医による診察を受けてみるといいでしょう。
失語症は大脳半球の損傷によって起こることがあります。
症状は「口や喉に異常がないにもかかわらず、言葉が出てこない」「言葉の意味が分からない」などが挙げられます。
簡単な日常会話であっても返答が上手くできない場合や、言葉の言い間違いが多くなった場合、失語症の可能性を疑いましょう。
失行症は、失語症と同じく大脳半球にダメージを受けた場合に起こります。
日常生活上の簡単な行動が困難に感じることがあります。
例えば、「お箸が持てない」「靴ひもを結べない」「歯磨きが上手くできない」などの症状がある場合、失行症の可能性が考えられます。
高次脳機能障害の原因は、「脳外傷」や「脳血管疾患」などの脳の損傷です。
上記ふたつが起こるのは、どのような状況なのかご紹介します。
脳外傷とは、頭部になんらかの衝撃が加わり、脳や頭の皮膚、頭蓋骨などが損傷を受けることをいいます。
例えば、下記のような状況が考えられます。
上記を含め、頭を強く打ってしまうことで脳外傷が起こる可能性があります。
脳血管疾患とは「脳の血管の詰まりや破れなどにより起こる症状全般」を差します。
脳の血管の一部が詰まる「脳梗塞」や脳の血管から血がでる「脳出血」「くも膜下出血」などがよく知られています。
上記3つは「脳卒中」と呼ばれ、高次脳機能障害の最大の原因といわれています。
例えば、下記のような場合で提出が必要となることがあります。
診断書の作成や提出が必要かどうかについては、目的に応じて事前に確認しておくといいでしょう。
この項目では、高次脳機能障害の診断や検査について解説していきます。
まず、高次脳機能障害は、本人の高次脳機能障害の症状を把握している主治医や脳神経外科医、神経内科医、リハビリテーション科医などが診断します。
具体的な診断基準や検査方法を項目別にご紹介します。
高次脳機能障害の検査・診断は以下の基準にしたがっておこなわれます。
より詳しく知りたい方は、高次脳機能障害情報・支援センターの公式サイトをご覧ください。
Ⅰ.主要症状など
Ⅱ.検査所見
Ⅲ.除外項目(高次脳機能障害とみなされない場合)
Ⅳ.診断
なお、ⅠとⅢを満たしつつ、Ⅱの検査所見で脳の器質的変化(病気や外傷が原因でできた脳の傷のこと)を証明できない場合は、慎重な評価によって、高次脳機能障害と診断されることがあります。
高次脳機能障害かどうかを判断するためにおこなわれる検査は複数あります。
例えば、脳の状態を確認するための「CT検査」や「MRI検査」、記憶や知能などの障害を数値化するための「神経心理学的検査」などが挙げられます。
神経心理学的検査では、IQ(知能)テストなどをおこないます。
高次脳機能障害そのものを手術や薬の服用などで治療することはできません。
そのため、リハビリをおこない、日常生活の中でスムーズに過ごすことを目指します。
「どのようなリハビリがあるのか?」「どこでリハビリを受けるのか?」を順番に解説していきます。
高次脳機能障害のリハビリは、医師や看護師のみならず、臨床心理士、理学療法士などさまざまな職種の人が関わりながらおこなわれます。
また、リハビリの内容は、高次脳機能障害の症状によって異なります。
記憶障害のリハビリは、症状の重さや発生している記憶障害の特徴を把握したうえでおこないます。
訓練方法としては、同じことを繰り返して脳に記憶させる「反復訓練」や、目で見て言葉をイメージしやすくする「内的記憶戦略法」などが挙げられます。
また、大切なものは置く場所を決めるなどの「環境調整」も大切です。
注意力が続かない方は、注意力を継続させる時間を延ばすための反復練習をおこないます。
例えば、「パズル」や「間違い探し」「入力作業」などです。
リハビリ初期は、注意力を失う要因となる人の話し声や音のない環境で課題をしますが、訓練の段階を経た後は、ラジオなどの音があるところで訓練をすることもあります。
また、いきなり大きな目標時間を決めるのではなく、本人の様子を見ながら、集中力が長く続くように段階を踏んで訓練していきます。
遂行機能障害の訓練の例としては、下記が挙げられます。
どのような場面で困りごとが起こっているのかを見極めたうえで、適切な訓練をおこないます。
社会的行動障害の場合、課題を繰り返し練習するようなリハビリをおこなうわけではありません。
本人がどのような状況で症状が出るのかをふまえたうえで、症状が出たときにどのように行動するのがいいのか、一緒に考える訓練方法です。
例えば、行動のコントロールが難しくなる方は、行動する前にいったん立ち止まる習慣をつけることで、社会生活が送りやすくなります。
また、感情を抑えることが難しい場合、怒りを刺激する原因を避けて過ごすことも大切です。
リハビリは、高次脳機能障害に対応しているクリニックやリハビリテーションセンターで受けられます。
また、各都道府県には高次機能障害者の支援をしてくれる拠点が設置されています。
高次機能障害者の支援拠点では、リハビリだけでなく、悩み相談など就労支援など、さまざまな角度からサポートをおこなっています。
全国の相談窓口の情報は、高次機能障害者リハビリテーションセンターの公式サイトから、確認することができます。
まずは、近くの支援拠点がどこにあるのかチェックしましょう。
高次脳機能障害の症状によっては、障害者手帳を取得できる可能性があります。
また、取得できる障害者手帳の種類は発症した時期や症状ごとに異なります。
高次脳機能障害の記憶障害や注意障害によって、社会生活や日常生活に問題が起こっている場合「精神障害者保健福祉手帳」を申請することができます。
また、「手足の麻痺」や「音声・言語障害」があり、厚生労働省が認めている身体障害者程度等級表にあてはまる場合は、「身体障害者手帳」の申請対象です。
身体障害者程度等級表にあてはまるかどうかは厚生労働省の公式サイトで確認しましょう。
障害者手帳を持つことで受けられる支援の例をご紹介します。
ただし、住んでいる地域によって、サービスの有無や対象となる等級(障害の症状の程度を計る目的で設けられている基準のこと)が異なります。
支援についての詳細は、各市区町村の公式サイトに詳しく記載されています。
まず、障害者手帳の申請には下記が必要です。
これらの書類を揃えて、市区町村の窓口で申請をおこないます。
申請後、審査があり等級が決定する流れです。
交付までの期間は申請後、約1~4ヶ月程度が目安です。
書類に不備などがあった場合は、取得するまでに時間がかかってしまうため、不明点は事前に問い合わせましょう。
また、手続きの詳細は各自治体によって異なるケースがあるため、必ず市区町村の公式ページをご確認ください。
高次脳機能障害は、目に見えにくいため本人も自覚しにくいという特徴があります。
しかし、症状によって仕事や日常生活で困難や苦痛を感じる場合は、早めに適切な対処をとることが大切です。
もしも「最近、物忘れが激しいかも」や「周囲ともめることが増えた」など、以前と比べて何か違和感を覚えた場合は、一度医療機関へ相談してみるといいでしょう。
障害があり、働くことにお悩みのある方への支援として「就労移行支援」があります。
就労移行支援とは高次脳機能障害をはじめとする障害のある方の就職をサポートする福祉機関のひとつです。
LITALICOワークスでは全国に就労移行支援事業所を展開し、就職のためのサポートをおこなっています。
高次脳機能障害があり、就職にお悩みのある方はぜひ一度ご相談ください。
監修
医学博士/精神科専門医/精神保健指定医/日本産業衛生学会指導医/労働衛生コンサルタント
染村 宏法
大手企業の専属産業医、大学病院での精神科勤務を経て、現在は精神科外来診療と複数企業の産業医活動を行っている。また北里大学大学院産業精神保健学教室において、職場のコミュニケーション、認知行動療法、睡眠衛生に関する研究や教育に携わった。
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