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お役立ち仕事コラム

摂食障害とは?原因や症状・治療方法は?仕事を続けるうえで大切なことも解説

更新日:2024/06/29

摂食障害(摂食症)(※)は、自分で食欲をコントロールできなかったり、体重の増加を気にしすぎて食事が摂れなかったり、食べる量や食べ方、食後の行動などにさまざまな問題が生じる障害です。

 

症状の程度によっては、心と身体の健康や生命に支障をおよぼすこともあります。

 

しかし、摂食障害(摂食症)には複数の分類があり、それぞれ症状も異なるため「本当に自分は摂食障害(摂食症)なのか?」分からないという方もいらっしゃるはずです。

 

そこで今回は、摂食障害(摂食症)の種類ごとの症状、原因、治療方法について解説していきます。

 

摂食障害は現在、「摂食症(食行動症)」という診断名となっていますが、最新版『DSM-5-TR』以前の診断名である「摂食障害」といわれることが多くあるため、ここでは「摂食障害(摂食症)」と表記します。

摂食障害(摂食症)とは

摂食障害(摂食症)とは、食行動に問題が見られ、心身に深刻な影響をおよぼす障害の総称です。

 

具体的な例としては「食べ過ぎてしまう」や「食事をとらない」「食後に自分で吐こうとする」などのケースが挙げられます。

 

厚生労働省の公式Webサイトには、日本国内で医療機関を受診している摂食障害(摂食症)患者は、1年間に21万人いると記載されています。

 

一方、治療をしたことがなかったり、途中で治療を止めてしまったりする方が一定数いることも分かっています。

 

また、摂食障害(摂食症)には、うつ病や不安症など、なにかしらの精神疾患が併存しているケースも少なくないといわれています。

摂食障害(摂食症)の原因

摂食障害(摂食症)を発症するきっかけとして考えられているものは、下記の通りです。

 

  • むちゃなダイエット(食事制限の反動なども含む)
  • 周囲から「太っている」と言われた
  • スリムな体型を良しとする環境にいる
  • 学校や職場、家庭でのストレス
  • 受験や試験に対するプレッシャー など

 

また、摂食障害(摂食症)は10代後半や20代などの若い女性に多くみられるといわれていますが、性別や年齢、社会的背景を問わず、誰にでも起こる可能性があります。

摂食障害(摂食症)の種類と症状

摂食障害(摂食症)は、DSM-5(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版※)により、6つに分類されています。

 

  • 神経性やせ症(拒食症)
  • 回避・制限性食物摂取症
  • 神経性過食症
  • 過食性障害(むちゃ食い症)※
  • 異食症
  • 反芻症

※過食性障害は現在、「むちゃ食い症」という診断名となっていますが、最新版『DSM-5-TR』以前の診断名である「過食性障害」といわれることが多くあるため、ここでは「過食性障害(むちゃ食い症)」と表記します。

それぞれ、どのような症状が起こるのか、順番にご紹介します。

 

※アメリカ精神医学会が発行しているDSM-5は、精神疾患の診断基準として、世界共通で使用されています。

神経性やせ症(拒食症)

神経性やせ症の特徴

 

神経性やせ症は、拒食症とも呼ばれることもある疾患です。

 

代表的な特徴としては、下記が挙げられます。

 

  • 痩せていることに対する強いこだわりがある
  • 自分の身体に対するイメージの歪み(太っていると思い込んでしまう)
  • 体重が増えることや太ることへの恐怖心がある
  • 身体の一部(太ももやお腹など)の変化への執着がある
  • 嘔吐や下剤の使用などを繰り返してしまう

 

「痩せたい」という意志があるものの、多くの食べ物をとってしまい、その後に嘔吐したり、下剤を使ったりして、体重の増加を防ぐ行動をとる「過食・排出型」も見られます。

 

神経性やせ症が進行してしまうと、栄養失調になり、健康面にさまざまな問題が生じることがあります。

 

神経性やせ症の症状

 

具体的な症状をご紹介します。

 

身体症状

  • 低血圧
  • 心拍数の低下
  • 筋力が落ちる
  • 体温が低くなる
  • 冷え性
  • 疲れやすくなる
  • 月経(生理)がこなくなる など

 

心理的症状

 

  • イライラしてしまう
  • 不安感がある
  • 集中力がなくなる
  • こだわりが強くなる
  • 人との交流を避けてしまう

 

神経性やせ症は症状が進むと、栄養不足により心身にさまざまな問題が起き、最悪死に至るケースもある重篤な疾患です。

 

しかし、本人は危険な状態であると分かっていないこともあります。

 

拒食症で健康に支障が出る体重とは?

 

自分の標準体重よりも80%以下の体重しかない場合は「痩せすぎ」となります。

 

もしも、上記の数値がずっと続くのであれば、拒食症などの疾患がある可能性が考えられます。

 

また、成人の国際的な指標として活用されているBMI(Body Mass Index)もひとつの目安となります。

 

BMIの適正値は22といわれており、18.5未満の場合は低体重に分類されます。

 

計算式

  • 標準体重(kg)= 身長(m)2× 22
  • 例)身長160cmの方の標準体重は、1.6(m)2 × 22 = 56.3(kg)

 

  • BMI=体重(kg)÷ 身長(m)2
  • 例)体重46(kg)/身長160cmの方のBMIは、46(kg)÷1.6(m)2 ≒ 18.0

回避・制限性食物摂取症

回避・制限性食物摂取症の特徴は「少しの量しか食事をとらない」や「特定の食べ物を避ける」などです。

 

神経性やせ症と同様に、食べることを制限しますが「太ることへの恐怖」や「体重に関する思い込みやこだわり」はありません。

 

この点が神経性やせ症との大きな違いです。

 

また、大人よりも子どもに多く見られる症状です。

 

食べない理由は人によって異なり、食べ物の色などの見た目、におい、味、温度を避けるために、回避している場合もあります。

 

その他、その食べ物を口にすることによって起こり得る状況(喉に詰まる・吐いてしまう、など)を恐れているケースもあるといわれています。

神経性過食症

神経性過食症は「過食症」とも呼ばれる摂食障害(摂食症)のひとつです。

 

神経性過食症の特徴

 

神経性過食症の特徴は、食事の量をコントロールできなくなり、短い時間の間に大量の食べ物を口にしてしまうことです。

 

また、本人の自己評価には体重が大きく影響しており、体重の増加(太ること)に対して恐れを感じています。

 

そのため、過食した後は、体重増加を防ぐための行動をとります。

 

例えば、嘔吐や下剤の服用(排出型)や、むちゃな運動や不食(非排出型)が挙げられます。

 

なかには、過食をするとき以外は何も食べないという極端なケースもゼロではありません。

 

体重は正常でもほかの検査で異常があることも

 

神経性過食症の場合、激しい体重の変動が見られるケースがあります。

 

また、体重の数値が正常の範囲内にあったとしても、血液検査などのほかの検査で異常が見つかる可能性が考えられます。

 

例えば、嘔吐や下剤の使用を続けると、場合によっては、カリウムが不足し不整脈の症状が表れることがあります。

 

そのため「食べ過ぎたり、食べなかったりするけど、体重が平均的だから大丈夫」と楽観視してはいけません。

過食性障害(むちゃ食い症)

過食性障害(むちゃ食い症)は、神経症過食症と同じく、一度に多くの食べ物を口にする障害です。

 

本人は、食べる量をコントロールできない状態になっています。

 

しかし、神経症過食症とは異なり、体重増加を防ごうとする行為(嘔吐や下剤の使用など)が見られない点が特徴です。

 

とはいえ、なかには「ストレスを感じると甘いものをたくさん食べる」「悲しいことがあったらやけ食いする」という方もいらっしゃるかもしれません。

 

たまに、上記のような行為をおこなうのは、健康な方であってもあり得る話です。

 

しかし、週1回以上、過食や嘔吐を繰り返しているなら、過食症や神経症過食症の可能性があります。

異食症

異食症の特徴は、食べ物ではないものを日常的に口にしてしまうことです。

 

例えば、紙や毛、粘土、土などが挙げられます。

 

2歳未満の子どもがさまざまな物を口に入れることは、発達上正常なこととしてみなされていますが、2歳以上の方がおこなっている場合、異食症の可能性があります。

 

基本的に異食症のある人は、身体にとって害となるものは食べません。

 

しかし、食べるものによっては、便秘や消化管の詰まり、鉛中毒、寄生虫感染症になるケースも考えられます。

反芻症(はんすうしょう)

反芻症がある人は、食べた後に吐き戻しを繰り返します。

 

逆流してきた食べ物は、そのまま飲み込んだり、吐き出したりします。

 

意図的に逆流させる場合だけでなく、意図せずに起こってしまうケースもあります。

 

人によっては、吐き戻しが社会的に良くない行動と理解しているがゆえに、食事の量を減らそうとする方もいらっしゃいます。

 

その結果、栄養不足となり、健康に影響が出てしまう状況も考えられます。

摂食障害(摂食症)は何科の病院を受診すればいいの?

摂食障害(摂食症)は、内科や心療内科、精神科で診断や治療をおこないます。

 

子どもの場合は、小児科や児童精神科です。

 

もしも、食行動の異常だけでなく、気持ちの落ち込みや自傷行為が見られる場合は、心療内科や精神科を受診した方がよいでしょう。

 

ただし、病院によっては摂食障害(摂食症)に対応していないところもあるため、事前に公式Webサイトで確認するか、問い合わせてみるとよいでしょう。

 

また、「摂食障害(摂食症)かどうか分からない」という方は、一度かかりつけ医に相談しましょう。

 

摂食障害(摂食症)の可能性がある場合、そこから病院を紹介してもらえるかもしれません。

 

その他、住んでいる地域の精神保健福祉センターや保健所へ問い合わせると、摂食障害(摂食症)を診ている医療機関を教えてもらえるケースもあります。

参考:全国精神保健福祉センター「全国精神保健福祉センター・一覧」

摂食障害(摂食症)の治療方法は?

摂食障害(摂食症)の治療方法には「認知行動療法」や「薬物療法」などがあります。

 

また、優先的に減ってしまった体重を回復させることもおこないます。

体重を回復させる

摂食障害(摂食症)の症状を和らげるためには、心と身体、両方から働きかける必要があります。

 

しかし、神経性やせ症などで体重が落ちてしまっている場合、まずは体重の回復を優先します。

 

栄養が不足したままでは、身体の健康状態が悪くなり、精神状態も安定しないからです。

 

また、極端に体重が軽かったり、身体が弱ったりしているときは、入院が必要となる場合もあります。

認知行動療法

認知行動療法では、認知(ものの考え方や見方)の偏りを修正していきます。

 

とくに、神経性過食症に効果が期待できるといわれています。

 

具体的な過程の例としては、下記が挙げられます。

 

  • 栄養不足や下剤の乱用、嘔吐を繰り返すことによるリスクを学習する
  • 食生活を整え、異常な食行動をコントロールできると学ぶ
  • 今の状態を続けることと、想像する将来像とのギャップを意識する
  • ストレスへの対処方法を身につける
  • ものの考え方や考え方の偏りを理解し、日常生活で学習したことを実践する

 

認知行動療法は、医師やカウンセラーのもとで、個人もしくはグループでおこなわれます。

薬物療法

摂食障害(摂食症)そのものに効く薬はまだないのが現状です。

 

摂食障害(摂食症)だけでなく、抑うつ状態や不安感などの症状が見られる場合は、症状に合わせた薬が補助的に服用されることもあります。

摂食障害(摂食症)のある方が仕事を続けるうえで大切なこと

摂食障害(摂食症)のある方が仕事を続けるうえで、大切なことをお伝えしていきます。

周囲の理解を得る

周りの人に摂食障害(摂食症)のことを話そうと思うと「拒絶されたら怖い」「勇気が持てない」と不安になってしまうかもしれません。

 

しかし、摂食障害(摂食症)がある場合、昼食の時間や会食などの行事が精神的に大きな負担となる可能性があります。

 

食事会を例にすると「参加そのものがつらい」「食べ物を勧められるのが嫌だけど、断って雰囲気を壊したくない」といったことがあります。

 

また、普段の昼食に関しても「本当は一人で食べたい」などの希望がある方もいるのではないでしょうか。

 

もしも、周囲の理解が得られれば、上記のような状況を避けたり、より過ごしやすい環境に調整できる可能性があります。

 

もちろん、無理に話す必要はありませんが、可能であれば、話しやすい上司や先輩・会社の産業医などに相談してみましょう。

就職・転職するなら働きやすそうな職場を選ぶ

摂食障害(摂食症)のある方が、働きやすい職場の一例としては下記が挙げられます。

 

  • 会社の産業医や保健師に相談できる環境
  • 通院する時間を確保できる
  • 勤務時間や休憩時間のルールが柔軟
  • 昼食のタイミングが自由
  • 障害に対してまわりの人の理解がある など

 

まず、近くに相談できる産業医や保健師がいるという事実は、安心感に繋がります。

 

また、フレックスタイム制が導入されているなど、勤務形態が柔軟な会社の方が、通院時間を確保しやすくなるでしょう。

 

さらに、人前での食事がつらい方は、昼食をとるタイミングや食べる場所が個人にゆだねられているかどうかも、確認しておくことが大切です。

 

とはいえ、すべてを満たしている会社を探すことは、簡単ではないかもしれません。

 

もしも、「少しでも働きやすい会社を見つけたいけど、一人では仕事探しが大変」と思ったら、次の項目でご紹介する就労移行支援事業所の利用を検討しましょう。

摂食障害(摂食症)などで仕事にお悩みのある方へ

摂食障害(摂食症)があることで、就職活動や働くことに不安を感じる方もいるのではないでしょうか。

そのようなときに活用できる支援の一つに、「就労移行支援」があります。
就労移行支援とは摂食障害(摂食症)はじめとする障害のある方へ、体調の安定方法やストレスコントロールなど、働き続けるためのスキル向上などのサポートをおこなう福祉機関のひとつです。

LITALICOワークスは、障害特性への理解があるスタッフが、一人ひとりの悩みや気持ちに寄り添い、あなたに合った働き方を一緒に探していきます。

「体調を安定させたい」「ストレスを減らしたい」「次の職場では長く働き続けたい」など、就労に関するお悩みをぜひ、お気軽にご相談ください。

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摂食障害(摂食症)のまとめ

摂食障害(摂食症)で起こる食行動(食べ過ぎる、食後に吐くなど)は、自分の意志ではコントロールできない点が特徴です。

 

症状によっては健康に影響が出てしまったり、命の危険が高まったりしてしまうため、早めに適切な治療を受ける必要があります。

 

少しでも「摂食障害(摂食症)かもしれない」と思った場合は、まずは病院を受診するようにしましょう。

更新日:2024/06/29 公開日:2022/05/18
  • 監修者

    医学博士/精神科専門医/精神保健指定医/日本産業衛生学会指導医/労働衛生コンサルタント

    染村 宏法

    大手企業の専属産業医、大学病院での精神科勤務を経て、現在は精神科外来診療と複数企業の産業医活動を行っている。また北里大学大学院産業精神保健学教室において、職場のコミュニケーション、認知行動療法、睡眠衛生に関する研究や教育に携わった。

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