「対人恐怖症(社交不安症)」のある方は、人とコミュニケーションをとるときに、過剰に緊張したり、話すことが困難に感じ、苦痛を感じることがあります。
対人恐怖症は、早めに症状に気が付き、治療を受けることが大切です。
今回は対人恐怖症(社交不安症)について、症状や原因などをご紹介します。
また、対人恐怖症のある人が仕事を続けるためのポイントも解説します。
「対人恐怖症(社交不安症)」のある方は、人とコミュニケーションをとるときに、過剰に緊張したり、話すことが困難に感じ、苦痛を感じることがあります。
対人恐怖症は、早めに症状に気が付き、治療を受けることが大切です。
今回は対人恐怖症(社交不安症)について、症状や原因などをご紹介します。
また、対人恐怖症のある人が仕事を続けるためのポイントも解説します。
目次
まずは、対人恐怖症(社交不安症)とはどのようなものなのか、理解していきましょう。
対人恐怖症があると、他人の目が気になり、大勢の人の前で話すことや、人と顔を合わせることが怖くなります。
具体的な症状の例としては、「手足が震える」や「人前で声が出なくなる」などが挙げられます。
とはいえ、だれもが人前に出るシーンでは、緊張したり不安になったりするものです。
しかし、この不安感が大きくなりすぎて、日常生活や社会生活に支障をきたしている場合は対人恐怖症の可能性があります。
まず、対人恐怖症は、医学上の正式な疾患名ではありません。
近年は、不安症のひとつである「社交不安症」のなかに含まれると考えられています。
そのため「対人恐怖症だと思い、医療機関で受診したら社交不安症と診断された」というケースもあります。
しかし、厳密には対人恐怖症=社交不安症ではなく、医師によっても、ふたつの関係性に対する考え方は異なっていることがあります。
当記事では、「対人恐怖症」という言葉を使ってご説明します。
ただし、症状や原因、診断基準や治療方法については、DSM-5(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)による「社交不安症」の情報をもとにお伝えしていきます。
※DSM-5には、精神疾患に関する世界共通の診断基準が記載されています。
対人恐怖症(社交不安症)の症状は、精神的な症状と身体的な症状のふたつに分かれます。
対人恐怖症(社交不安症)の精神的症状は「人の前で何かをしなくてはいけない場面において、不安や恐怖を感じる」です。
精神的症状が現れる具体的な場面は、例えば「人が集まっている場での発表」や「ほかの人がいる前での電話対応」などが挙げられます。
また、恐怖を抱いていることを、まわりの人に知られることに対しても不安を覚えることがあります。
対人恐怖症(社交不安症)の身体的症状は、不安や恐怖を感じたときに現れます。
具体的には、下記のような症状が見られます。
また「再び症状が出るのではないか」と不安になり、学校や会社に行くことが苦痛に感じるといったケースもあります。
対人恐怖症(社交不安症)は、専門の医療機関で治療を受けることで、症状を和らげることができます。
対人恐怖症(社交不安症)の診断は、精神科や心療内科で受けることができます。
診察では「どのような状況で不安を感じるか」や「いつから症状を意識したか」などの問診がおこなわれます。
また、手の震えや嘔気などの症状が、ほかの病気によるものでないかも確認します。
対人恐怖症(社交不安症)は、薬物療法と心理療法のふたつの治療方法があります。
不安な気持ちや恐怖心などの症状は、薬を服用すると和らぐと言われています。
使用されるのは、抗うつ薬(SSRI)、抗不安薬、β(ベータ)遮断薬の3つです。
抗うつ薬(SSRI)
抗うつ薬(SSRI)は、社交不安症の治療においてよく服用されています。
脳内物質のセロトニンの濃度を高め、消極的な気分や不安を解消させる働きがあります。
ただし、効果が出始めるまでに数週間かかると言われています。
抗不安薬
抗不安剤は脳神経に働きかけて、不安や緊張を和らげる薬です。
即効性に期待できますが、効果は一時的と言われています。
β遮断薬
β(ベータ)遮断薬は、交感神経に働きかけ、手の震えや動悸など、緊張に関係する身体の症状を改善する薬です。
正確には「交感神経β受容体遮断薬」と呼ばれています。
ただし、不安や恐怖心そのものを抑えることはできず、効果は一時的と言われています。
あらかじめ、不安を感じて症状が出ると予想される際に、補助的に服用されます。
対人恐怖症(社交不安症)の治療では、心理療法が用いられることもあります。
例えば、心理療法のひとつ「認知行動療法」は、抗うつ薬と同じくらい効果があると言われています。
認知行動療法は「認知(ものの考え方や捉え方)」に働きかける療法です。
対人恐怖症のある方は「次もきっと失敗する」「他人から悪い評価を受けるに違いない」といった考えることがあります。
上記のような思考は自分では気が付きにくいと言われています。
そこで、認知行動療法をおこない、専門家とのやりとりを通して、考え方や行動などの傾向を把握し、変えやすい部分から少しずつ変えていくことで、問題の解決を目指していきます。
対人恐怖症のある方が仕事を続けるうえで意識したいポイントや、取り入れたい工夫についてご紹介します。
信頼できる上司や先輩、同僚がいる場合は、対人恐怖症(社交不安症)の症状があることを伝えておくと仕事で何か困難を感じた際に配慮が得やすくなるでしょう。
例えば、対人恐怖症の症状により、電話対応の業務に困難を感じることを伝え、可能な範囲で別の業務に変えてもらうよう希望するといいでしょう。
また、職場に知ってくれている人がいるだけで、不安感が軽くなるかもしれません。
もしも、上司へ話すことが難しければ、産業医や保健師、企業内のカウンセラーに相談してみるのもいいでしょう。
対人恐怖症の症状がある場合は、できる範囲で働きやすい環境に調整しましょう。
会社によっては、フレックスタイム制や時差通勤、在宅勤務制度などを導入しているところもあります。
現状の働き方や通勤などで苦痛を感じる場合は、上記の制度を活用しましょう。
また、状況によっては、部署の異動や業務量の調整も視野に入れる必要があります。
そういった場合は、上司や人事部、産業医などに相談してみましょう。
生活リズムが乱れると、心や身体の調子を崩してしまう可能性があります。
対人恐怖症の発症には、心身の調子を整えるのに必要なセロトニンの量が少なくなっていることが関係しているのではないかと考えられています。
セロトニンを十分に分泌するためには、規則正しい生活が欠かせません。
セロトニンは、特に太陽の光を浴びることや、リズム運動(ウォーキングなど)をおこなうことで分泌されると言われています。
なるべく、眠る時間や食事の時間を一定に保ち、夜更かしなどは避けるようにしましょう。
対人恐怖症(社交不安症)の症状がつらい場合は、無理をしないことが大切です。
まずは、一人で抱え込むのではなく、専門医や周囲に相談しましょう。
場合によっては、休職や退職が必要なケースもあるかもしれません。
しかし、一度仕事から離れてしまうと、復職に関して不安を覚える方も多いはずです。
そのようなときは、ハローワークや就労移行支援事業所などを活用しましょう。
就労移行支援事業所の「LITALICOワークス」では、就職を希望する方からの相談受付や職場体験の実施、就労後のフォローなどをおこなっています。
資料請求や見学はいつでも受付しているため、気になる方は一度チェックしてみるといいでしょう。
対人恐怖症の症状は、日常生活だけでなく、仕事に影響が出るケースがあるため、不安や恐怖を強く感じる場合は、早めに適切な治療をすることが大切です。
また、対人恐怖症(社交不安症)の症状と上手く付き合いながら仕事を続けるために、かかりつけの医師に相談しつつ、無理のない範囲で働くようにしましょう。
LITALICOワークスは、障害特性への理解があるスタッフが、一人ひとりの悩みや気持ちに寄り添い、それぞれに合った目標やペースで、就職までの道のりをサポートします。
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監修
医学博士/精神科専門医/精神保健指定医/日本産業衛生学会指導医/労働衛生コンサルタント
染村 宏法
大手企業の専属産業医、大学病院での精神科勤務を経て、現在は精神科外来診療と複数企業の産業医活動を行っている。また北里大学大学院産業精神保健学教室において、職場のコミュニケーション、認知行動療法、睡眠衛生に関する研究や教育に携わった。
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