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お役立ち仕事コラム

双極性障害(双極症)の人への接し方で大切なこと

更新日:2024/06/29

家族や友人、パートナーなど、身近で双極性障害(双極症)の方がいる場合、接し方で迷われている方も多いのではないでしょうか?

 

「自分の接し方のせいで傷つけてしまったらどうしよう」「サポートしてあげたいけれど、逆効果になるかもしれない」など、接し方に悩んで疲れてしまったという方もいるかもしれません。

 

今回の記事では、まずは双極性障害(双極症)の特徴についてまとめた後、関係性ごとの「接し方で大切なこと」などについてご紹介していきます。

まずは双極性障害(双極症)について知る

双極性障害(双極症)には、躁状態(気分が激しく高揚した状態)とうつ状態(気分が著しく落ち込んだ状態)の両極端な状態を繰り返すという症状があります。気分の浮き沈みは誰にでもあるものですが、双極性障害(双極症)の場合は、そのふり幅が激しく表れます。

※双極性障害は現在、「双極症」という診断名となっていますが、最新版『DSM-5-TR』以前の診断名である「双極性障害」といわれることが多くあるため、ここでは「双極性障害(双極症)」と表記します。

双極性障害(双極症)の躁状態になると、ほとんど眠らなくても平気になったり、ハイテンションで活動的になったりします。一方うつ状態になると、どんなに休んでも疲れが取れなかったり、気分が落ち込んで起き上がれなくなったりします。

 

コントロールできない気分の波に本人も苦しみますが、周囲の方も言動の変化に戸惑うことが多いといわれています。周囲との関係性を良好に保つことが難しくなるのも、双極性障害の大きな困りごとの一つです。

 

双極性障害(双極症)について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

双極性障害(双極症)の人への接し方で大切なこと

この章では身近な人が、双極性障害(双極症)の人に接する場合のポイントについてご紹介します。

 

上記の通り、双極性障害(双極症)は躁状態とうつ状態が交互にやってくる病気です。その時々で、ご本人の状態も大きく異なるため「状態に合わせた接し方をすることが大切である」ということを理解しておく必要があります。

 

躁状態のときとうつ状態のときで、それぞれ大切になるポイントを整理した後に、「家族やパートナーの場合の接し方」「友人の場合の接し方」「職場の人の場合の接し方」など、関係性ごとの接し方のポイントをご紹介していきます。

 

前提として、接し方に正解があるわけではなく、人それぞれ価値観や物事の捉え方は異なります。また、相手との関係性やタイミングなどにより、同じ接し方でも相手の受け取り方が変わることもあります。

 

双極性障害(双極症)に限らず、人それぞれ価値観や捉え方は異なります。そのため、こちらの価値観ややり方を無理に押しつけるのではなく、以下のポイントを参考にしながら、傾聴や共感するスタンスも大切にするようにしましょう。

うつ状態のとき

傾聴する

ご本人が話すことに対して、深く丁寧に耳を傾け、共感的に理解を示します。

 

双極性障害(双極症)でうつ状態の場合、思考がネガティブになり、自分自身を責めてしまうことも多いものです。周囲としては「そんなこと気にしていても仕方ない」などと助言や励ましをしたくなるかもしれません。

 

しかし、うつ状態のときにこのような接し方をすると「否定された」「自分のつらさを分かってもらえない」などと感じ、余計に一人で抱え込んでしまう可能性があります。

 

まず、つらい気持ちを話してくれた場合には、途中で話を遮らずに「話してくれてありがとう」などと伝えるようにしましょう。

また、なかなか話してくれない場合には「いつでも話を聴くよ」と声かけをするなどして、ご本人が安心してつらい気持ちを吐き出せるような接し方を心がけることが大切です。

 

本人のペースを大事にする

双極性障害(双極症)の方がゆっくり治療に専念できる環境を整えるために、周囲の協力は欠かせません。症状がよくなったように見えても、無理をしてしまうと悪化する場合もあります。うつ状態の場合は、頑張りたくても頑張れないことに苦しんでいるため、あくまでもご本人のペースを尊重しながら、根気強く見守る姿勢が大切です。

 

双極性障害(双極症)の治療で通院する際には同行をしたり、ご本人の許可を得られる場合には主治医から接し方についてのアドバイスを受けたりするのもいいでしょう。

 

ただし、周りの方が治療の見通しについて確認が必要になる場合もあると思います。その際は「今○○について話をしても大丈夫?」などと事前に声がけしたうえで、ご本人だけに負担がかからないよう、一緒に確認をするといいでしょう。

 

決断を迫らない

うつ状態の場合には、物事を否定的に考えたり、悪く捉えがちになったりします。特に双極性障害(双極症)の場合、躁状態のときに起こしたトラブルが大きければ大きいほど、落ち込みも大きくなる傾向があります。

 

ご本人の気持ちを尊重することは大切ですが、大きな決断については、症状が落ちついてからするように伝えることが大切です。また、うつ状態の場合は判断力が低下しているため、周囲からも決断を迫ったり、催促することはしないようにしましょう。

 

ただ、どうしても決断が必要になる場面が出てくるかもしれません。その際は「一緒に考えていこう」といったような声がけをして、ご本人に寄り添いながら接することも大切です。

躁状態のとき

肯定や否定をしない

双極性障害(双極症)の躁状態の場合、ご本人は困りごとを感じておらず、むしろ調子がいいと感じていたり、ときには偉くなったような錯覚に陥ったりすることもあります。普段の様子からは考えられないような、極端な言動をとることもたびたびみられます。

 

そのようなときに肯定をすると、ご本人の激しい言動を悪化させたり、逆に否定をすることで、ご本人との信頼関係を失ってしまったりする可能性があります。

 

そのため、双極性障害(双極症)の症状により極端な言動がみられる場合には、肯定や否定をせず、例えば「あなたのことを心配している」「あなたのことを気にかけている」ということを伝えながら、じっくり話を聴くことが大切です。

 

我慢しない

症状だと分かっていても、躁状態の言動が激しくなると、周囲がつらくなることも少なくありません。はじめは「双極性障害(双極症)の症状だから」というように献身的に関わっていても、我慢をし続けると心の余裕がなくなり、怒りが湧いてくることさえあります。

 

双極性障害(双極症)の症状とはいえ、一緒にいることが負担になっている場合には、決して我慢をせずに一時的に離れることも大切です。暴力や暴言がひどく、身の危険を感じる場合には、入院なども視野に入れる必要もあるでしょう。

 

あらかじめ対応を決めておく

双極性障害(双極症)の躁状態の場合、ご本人に症状の自覚がない場合が多くみられます。そのため、症状が安定しているときに「うつ状態」「躁状態」のそれぞれの特徴について、ご本人と一緒に確認しておくことが大切です。その際「睡眠3時間以内が3日続くと、躁状態のサイン」など、具体的な数字があると確認しやすくなるでしょう。

 

また、そのようなサインが出たときの対処法や、周囲の接し方についても決めておくことが大切です。ご本人と周囲の方の双方を守るためにも、主治医にも相談しながら話してみることをおすすめします。

双極性障害(双極症)の家族やパートナーへの接し方の例

この章では、双極性障害(双極症)の家族やパートナーへの接し方の例をご紹介します。

家族やパートナーの場合、特にご本人との距離が物理的にも心理的にも近く、接し方に悩まれている方も多いかもしれません。

 

前提として、双極性障害(双極症)の症状はもちろん、価値観や物事の捉え方もさまざまなので、一概に接し方の正解があるわけではありません。そのため、ご本人の状態やタイミングを考慮しながら接することが大切です。

生活リズムを整える

生活リズムの乱れは、双極性障害(双極症)の症状を悪化させる要因にもなり、睡眠時間は症状の波を把握する際のバロメーターになることもあります。そのため、周囲から見て言動の変化が気になる場合には、睡眠時間や服薬などの生活リズムが一定になっているか、一緒に確認をしてみましょう。

 

特に、躁状態のときには自分で症状に気づきにくいことも多いため、もし睡眠時間が極端に少なかったり、服薬ができていなかったりする場合には、事実を伝えて「後々負担にならないか心配」だという気持ちを合わせて伝えるといいでしょう。

一緒に受診する

前の章でご紹介したようなうつ状態、躁状態のサインが出ている場合には、受診をするように促したり、可能であれば同行するようにしましょう。

 

しかし、特に躁状態の場合、ご本人は困りごとを感じていないこともあり、受診を拒否することもあるかもしれません。治療をせずにそのままにすることは、双極性障害(双極症)の症状悪化にもつながります。

 

受診を拒否されると、ご家族で問題を抱え込んでしまう場合も多いですが、そのようなときはまずご家族だけで医療機関に相談してみることをおすすめします。

距離感を保つ

ご家族やパートナーの場合、物理的にも心理的にも距離が近いため、ときには一緒にいることが負担に感じるようなこともあるかもしれません。「双極性障害(双極症)の症状だから」と受け流せたらいいものですが、病気だと分かっていても、傷つくことはもちろんあります。特に、これまで献身的に接してきたり、我慢をしてきたりした方であれば、その傷も大きいはずです。

 

しかし、その傷ついた気持ちや溜まったストレスをご本人に向けてしまうと、双極性障害(双極症)の症状悪化につながり、自分に跳ね返ってくる可能性もあります。

 

そのため、同じ痛みを分かち合える「双極性障害(双極症)の方の家族会」に参加してみたり、親しい友人に話を聞いてもらうなどしてガス抜きしたりすることを心がけましょう。適切な距離感を保ち、ご自身の心身の状態を守ることが、双極性障害(双極症)の方の治療を続けることにもつながります。

双極性障害(双極症)の友人への接し方の例

次に、双極性障害(双極症)の友人への接し方についてご紹介します。ご家族とは違い、一日中ご本人の状態が分かるわけではないからこそ、突発的な言動に混乱し、接し方に悩むこともあるかもしれません。

 

仲のいい友人だからこそ、助けてあげたいという気持ちが強い方もいるかもしれませんが、一人で背負わず、ご自身にとっても無理のない接し方を考えることが大切です。

話を聴く

躁状態やうつ状態のサインが出ているとき、双極性障害(双極症)の方は正常な判断ができなくなっている場合が多いです。そのため、うつ状態のときは丁寧に傾聴し、躁状態の場合は肯定や否定しないように心がけながら、話を聴きましょう。いずれも、ご本人の言動について、一方的に判断するような接し方は控えましょう。

 

また、症状が出ており、ご本人のご家族や医療機関に相談できる場合には、サインが出ていることを伝え、一人で抱え込まないことが大切です。その際、なるべく「事実としてどのような言動が出ているのか」をできるだけ具体的に伝えるようにしましょう。

気にかけていることを伝える

双極性障害(双極症)の方に対して、肯定や否定をしないことは大切ですが「あなたを気にかけている」というメッセージを伝えることは大切です。その際、「買い物が普段よりも多くなっていて気になる」や「残業が増えていて疲れているように見える」など、具体的な気になる行動と紐づけて伝えるようにしましょう。

 

そうすることで、ご本人が落ちついたときに双極性障害(双極症)の症状を振り返り、自分を客観的にみられるきっかけとなることもあります。

 

しかし、うつ状態などで物事の捉え方が否定的になっている場合「友人にこんなに心配をかけてしまっている」「もっと頑張らなければだめだ」とさらに自分を追い込んでしまう可能性もあります。そういったときは、例えば「話してくれてありがとう」「いつでも話を聴くよ」とお声がけし、あまり干渉しすぎないなど、一人ひとりに合わせた接し方を心がけましょう。

距離感を保つ

双極性障害(双極症)の症状により、普段は温厚な方でも極端な言動がみられることもあります。例えば躁状態のときに暴言を吐いたり「自分は偉いんだ」というような傲慢な態度を取ったりする場合もあります。これらはあくまでも双極性障害(双極症)の症状によるものであり、本来の性格によるものではないため、感情的にならないようにしましょう。

 

そうはいっても、一緒に過ごしているとつらくなることもあるかもしれません。そのようなときは適度な距離感を保ち、不安やストレスを溜め込まないことが大切です。

職場に双極性障害(双極症)の人がいるときの接し方の例

次に、職場に双極性障害(双極症)の人がいる時の接し方の例をご紹介します。今回は、ご本人が障害について開示をしていることを前提にお伝えします。

サインと対応を決めておく

双極性障害(双極症)は、躁状態とうつ状態で交互に波がある病気のため、その時々の状態を周囲も把握しておくことが大切です。また必要に応じて、主治医の見解も聞いておくといいでしょう。

 

例えば、業務日報と合わせて、気分や睡眠時間の記録をする「体調管理表」などを使用する場合があります。「睡眠3時間以内の日が3日以上続くと、躁状態のサイン」など、一人ひとりサインは異なるため、どのようなときに症状が表れるのか、事前にサインを確認しましょう。

 

また、サインが出ている場合にどのような対応をするのがいいのか(残業しないよう、業務量や勤務時間を調整するなど)も決めておくことをおすすめします。

合理的配慮の相談をする

障害について会社に開示をしている方は、入社時に合理的配慮(それぞれの障害特性や困りごとに合わせておこなわれる配慮)を決めている場合が多いです。しかし、入社から時間が経過すると必要となる配慮が変化しているにもかかわらず、見直しができていない場合も少なくありません。

 

そのため、定期的に合理的配慮の見直しをして、合理的配慮の内容が適切かどうか確認をするといいでしょう。双極性障害(双極症)の方が同僚で、直接ご本人に確認することが難しい場合には、直属の上司や人事部に相談をするようにしましょう。

双極性障害(双極症)の人への接し方で悩むときは

双極性障害(双極症)の人への接し方で悩んでいる方は、一人で抱え込まず、病院や支援機関に頼ることも大切です。双極性障害(双極症)のご本人だけではなく、ご家族など、身近な方の相談も聞いてもらうことができます。

 

この章では、双極性障害(双極症)の人への接し方で悩んでいる方が相談できる、支援機関をご紹介します。

通院先の病院

ご本人が通院している病院に相談できる場合には、ご本人に同意を取ったうえで、受診に同席することをおすすめします。もし、ご本人が受診を拒否しており、同席の許可が得られない場合には、まずは電話などで状況を伝えたうえで、主治医の判断を仰ぐようにしましょう。

 

病院や主治医の治療方針によってできる対応は変わってくるため、症状が悪化した場合の接し方などについて、一度事前に確認しておくといいでしょう。

保健センター

精神保健福祉センターは、心の悩みについて相談ができる機関です。全国の都道府県に設置されています。精神衛生の専門の職員により電話や対面での相談を受付ています。

 

精神保健福祉センターは、ほかの相談機関や医療機関とも連携しているため、相談することで悩みに合った専門機関の紹介をしてくれる場合もあります。

精神保健福祉センター

精神保健福祉センターは各都道府県ごとに設置されており、県民の精神的健康の向上、精神障害者の自立・社会参加の促進を図ることを目的とした支援機関です。

 

医師や精神保健福祉士、臨床心理士などが在籍しており、双極性障害(双極症)などの精神障害について、特に詳しい専門家からアドバイスをもらうことができます。

家族会

家族会とは、精神障害の方の家族が、お互いに悩みを共有し、支え合う会のことをいいます。家族会は、病院が主催しているものもあれば、地域の支援機関が実施しているもの、また地域の枠を超えて有志が結成したものなど形はさまざまです。

 

「家族会に参加したいけど、どこでやっているのか分からない」という場合には、精神保健福祉センターなどで、連絡先・入会方法・活動内容などを確認するといいでしょう。

 

また、精神障害者の家族が結成した全国組織である「公益社団法人 全国精神保健福祉会連合会(みんなねっと)」の公式サイトでは、各都道府県にある家族会についてまとめているので、参考にしてみてください。

双極性障害(双極症)の人への接し方についてまとめ

双極性障害(双極症)は、ご本人がつらいことはもちろんのこと、周囲の方も接し方に悩んだり、不安やストレスを抱えたりすることも多いといわれています。特に、ご本人との関係性が近いと「双極性障害(双極症)の症状だから、我慢しなきゃ」と抱え込んでしまいがちです。

 

しかし、程よい距離を保ちながら、周囲の方が心身共に健康であることが、双極性障害(双極症)の方の治療を支える第一歩となります。

 

一人ひとり価値観や物事の捉え方は違うため、今回ご紹介した接し方が必ずしも正解ではないかもしれませんが、接し方のポイントを参考にしながら、ご自身にとっても無理のない関わり方を心がけましょう。

双極性障害(双極症)の方の就職をサポート

就労移行支援事業所LITALICOワークスでは、双極性障害(双極症)の方の就職活動をサポートしています。すぐに就職を考えていない場合でも、生活リズムの安定やスキルの向上など、就職希望時に合わせて無理なく準備を進めることができます。

 

まずはご家族だけでのご相談も可能なので、もし双極性障害(双極症)の方の就職活動について悩んでいる場合には、ぜひ一度ご相談ください。

双極性障害(双極症)の方の就職について相談する
更新日:2024/06/29 公開日:2023/04/24
  • 監修者

    滋賀医科大学精神医学講座 助教

    増田 史

    医療法人杏嶺会 上林記念病院 こども発達センターあおむし
    著書に『10代から知っておきたいメンタルケア しんどい時の自分の守り方』(2021年8月 ナツメ社)
    https://www.natsume.co.jp/books/15323

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