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合理的配慮とは?具体例や相談先も解説します

更新日:2024/03/28

障害のある方が、日常生活や働く場面での困難さを解消するときに「合理的配慮」という言葉を耳にすることがあるかもしれません。

 

合理的配慮とは簡単にいうと、障害のある方が日常生活や社会生活をおくる上での困難さを、周りからのサポートや環境の調整によって軽減するための配慮のことをいいます。合理的配慮を得ると、その困難さが軽減され、日常生活を送りやすくなったり、働きやすくなったりすることにつながります。

 

合理的配慮は大きく分けて「障害者差別解消法」と「障害者雇用促進法」とで定められていますが、本記事では、障害のある方が働く場面を想定し「障害者雇用促進法」での合理的配慮を中心に解説していきます。

合理的配慮とは?

合理的配慮とは「障害者の権利に関する条約」によって、以下の通り定められています。

 

「合理的配慮」とは、障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。

 

引用元:外務省「障害者の権利に関する条約 第二条

 

合理的配慮とは簡単にいうと「障害のある方が日常生活や社会生活をおくる上での困難さを、周りからのサポートや環境の調整によって軽減する」ための配慮になります。

 

例えば、仕事の場面において「通勤ラッシュ時間帯の電車通勤が難しい」ことに対して「通勤ラッシュを避けた出勤時間に調整する」といったように、合理的配慮を得ることで働きやすくなったりします。

 

合理的配慮の提供に関して定める法律には、大きくわけて2つあります。

  • 雇用分野以外の全般について:障害者差別解消法(正式名称:障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)

  • 雇用分野について:(改正)障害者雇用促進法(正式名称:障害者の雇用の促進等に関する法律)

障害者差別解消法とは

まずは「障害者差別解消法」について解説していきます。「障害者差別解消法」は2016年4月1日に施行されました。これによって、障害の有無に関わらず、すべての人がお互いを尊重し合いながら共生する社会づくりが法律で定められることになりました。

 

障害者差別解消法では、役所や事業者に対し「障害を理由とする不当な差別的取り扱い禁止」「合理的配慮の提供義務」を課しています。ここでいう事業者とは、民間企業のほか、飲食店などのお店やボランティア団体などのグループも含まれています。

 

また、合理的配慮の対象者については、以下の通りと定められています。

 

障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。

 

引用元:「内閣府」障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成二十五年法律第六十五号)

 

つまり合理的配慮は、障害者手帳の有無に関わらず、こういった困難さに対する配慮が必要とされている方が対象となります。

 

障害者差別解消法においては、例えばお店で障害のある方が意図的にサービスを受けられないようにする、といったようなことを差別的な扱いとして禁止しています。また、障害のある方から「配慮をしてほしい、サポートをしてほしい」という意思表示があったときには、負担が重くなりすぎない範囲での対応が求められています。

民間事業者においては、2021年5月に可決された改正法案により合理的配慮への対応が努力義務として定められていましたが、2024年4月からは法的義務となりました。

合理的配慮と障害者雇用促進法

ここからは障害者雇用促進法における「合理的配慮」について詳しく解説していきます。

 

障害者雇用促進法においては、事業主が労働者(障害のある方)に対して、以下の理由により合理的配慮を提供しなければならない義務であると定めています。

  • 事業主と労働者(障害のある方)が雇用契約で継続的な関係性が続く
  • 障害のある方が自立した生活をおくるには就労が極めて重要な分野である など

職場における合理的配慮を検討・実施し、一人ひとりの障害特性によって生じる困難さに対して、職場環境を調整したり職場の方がサポートをしたりすることで、障害のある方が働きやすくなることにつながります。

 

職場における合理的配慮を得るためのポイントは次の章でご説明します。

職場での合理的配慮を得るためのポイント

職場での合理的配慮は、企業側と労働者(障害のある方)が相談をしながら合理的配慮の検討・実施を進めることになります。

 

職場における合理的配慮は、ご本人が働く上で感じる困難さによって実施(提供)してもらう内容が異なります。その困難さは、ご本人の特性だけではなく、その方を取り巻く環境によって生じています。

 

社会モデルの考え方

 

そのため、職場での合理的配慮を考えるときには、ご本人の障害特性や働く上での困難さだけではなく、職場職場とも相談をしながら、何が必要か、どんな配慮が可能かを検討する必要があります。

 

合理的配慮を検討するには、以下の通りに進めていくといいでしょう。

1.働く上での困難さに対する対処法を考える

合理的配慮を得るには、ご本人の障害特性によって生じる職場での困難さはどのようなものがあるかを整理し、企業へ伝える必要があります。

 

働く上での困難さは一人ひとり異なります。働く場面で想定される困難さや困りごとにはどのようなものがあるか、その上で自分ひとりで対処できること・難しいことを整理することから始めましょう。自分の努力や工夫で対処できないことに対しては、どのような配慮があればできるようになるかを考え、企業に相談する配慮事項を検討していきます。

2.企業と合理的配慮について話し合う

企業は、雇用する障害のある方に対し、合理的配慮を提供する義務があります。そのため、障害のある方から合理的配慮の申し出があった場合、企業側は制度や業務内容、働く環境でどのような合理的配慮が提供できるかを整理します。ただし、必要な配慮をすべて提供しなければならないわけではなく、企業にとって負担が重くなりすぎない範囲で対応できる合理的配慮を提供する必要があります。

 

そのため、企業にとって負担が重くなりすぎない範囲で、障害のある方がどうしたら働きやすくなるか、ご本人の能力を発揮しやすくなるかをご本人と企業側とが双方で話し合いながら、提供される合理的配慮をすりあわせていくことが大切です。もし必要な配慮が企業にとって過重な負担になる場合は、ほかに働きやすくなる方法がないか代替案を考えていきます。

 

このように、ご本人と企業側とで話し合うことで相互理解を深めながら合理的配慮の検討を進め、最終的にどのような配慮を実施するかを決め、実施していきます。

3.定期的に検討・実施をする

個人の成長や業務内容の変更、周りの環境の変化などによって、必要な配慮や効果的な方法が変わっていくこともしばしばあります。定期的に、ご本人と企業側とで確認する場を設け、働きやすい環境が作れているかを話し合いながら必要な合理的配慮について見直しをするといいでしょう。

合理的配慮の例(職場)をご紹介

この章では、障害のある方がそれぞれ職場でどのような合理的配慮があるのか、例を挙げてご紹介します。

発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)のあるAさん

Aさんは曖昧な指示が苦手で上司に「時間のあるときにやっておいて」といわれると、いつやっていいのか分からず、そのままにしていることが多く、困っていました。

 

Aさんの困りごと「あいまいな指示が苦手」

 

もともと利用していた就労支援機関(就労移行支援事業所)のスタッフと相談し、Aさんは働く上での困難さ・困りごとに対し、自分ができることと、必要な合理的配慮について、次の通り整理しました。

 

【自分ができること】

  • 指示を受けた業務の期日を管理し、進捗状況に応じて、報告・連絡・相談を適切におこなう

【合理的配慮】

  • 上司が具体的な指示をする(例:来週木曜日の15時までに、マニュアル通りに修正して印刷して提出してください)

その結果、Aさんは具体的な指示に従って、報告・連絡・相談をしながら締め切りまでに業務を終えられるようになりました。

 

※以前は「自閉症スペクトラム」という名称が用いられることもありましたが、アメリカ精神医学会発刊の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)において自閉的特徴を持つ疾患が統合され、2022年(日本語版は2023年)年発刊の『DSM-5-TR』では「自閉スペクトラム症」という診断名になりました。

 

Aさんの合理的配慮「あいまいな指示が苦手」

精神障害(不安障害/不安症)のあるBさん

Bさんは不安傾向が強くひとりで不安を抱え込み、心身不安定な状態で働くと体調を崩してしまうという特性を持っています。Bさんは在宅勤務で働いていますが、先輩や上司に質問や相談をしたくても、相談するタイミングを見計らえずに時間が過ぎてしまい、焦ってしまいました。

 

Bさんの困りごと「人に相談ができない」

 

もともと利用していた就労支援機関(就労移行支援事業所)のスタッフと相談し、Bさんは働く上での困難さ・困りごとに対し、自分ができることと、必要な合理的配慮について、次の通り整理しました。

 

【自分ができること】

  • 不明点を整理して相談したい内容を文章にまとめる

【合理的配慮】

  • オンライン会議ツールを使って「10分朝礼」「10分夕礼」を取り入れ、相談するタイミングを設ける

その結果、Bさんは定期的な相談の場を設けることによって、聞きたいことが聞けるようになり安心しながら業務を進められるようになりました。また直接会話をする時間が増えたことで関係構築ができ、より相談しやすくなりました。

 

Bさんの合理的配慮「人に相談ができない」

このように、適切な合理的配慮が提供されることが障害のある方の働きやすさにつながります。

 

また障害によって生じる困難さは、ご本人の障害特性だけではなく、ご本人を取り巻く環境によって生じます。そのため、同じ障害名・診断名であっても、ご本人の障害特性や周りの環境(職場や職種など)によって困りごとそれぞれ異なり、合理的配慮もさまざまです。

 

そのため、ご本人の障害特性を理解し、どのような業務やどのような環境だと困難さが生じるのかを理解すること、その上でどのような合理的配慮があれば、ご本人が働きやすくなるのかを考えていくことが大切になります。合理的配慮については、以下の資料を参考にするといいでしょう。

しかし、働く上での困難さについて、企業の方へ相談しても合理的配慮がうまく得られなかったり、ひとりで合理的配慮を整理することが難しかったり場合もあるかもしれません。その場合は、Aさん・Bさんのように就労支援機関へ相談するというのも選択肢のひとつとして検討してみるといいでしょう。相談先については次の章で紹介します。

障害のある方の就職・転職に関する相談先

合理的配慮があると働きやすくなるということは分かっても、ご本人の障害特性についてどのように自己理解を進めていくのがいいのか分からなかったり、お願いしたい合理的配慮をどのように企業へ伝えたらいいか分からなかったり、悩んでしまう場面があるかもしれません。

 

そのようなときにはひとりで抱え込まず、就労支援機関のスタッフへ相談するといいでしょう。ここでは、就労支援機関や相談できる先の一部をご紹介します。

障害者職業センター

障害者職業センターには、合理的配慮に関する事例集やツールなど、障害のある方が職場で活躍をするためのノウハウが集約されています。職業評価や職業指導といった相談や指導を受けることができるため、就職活動に必要な支援や助言を受けることができます。また、ジョブコーチの派遣もおこなっています。

ジョブコーチ

ジョブコーチとは、職場での支援が必要な障害のある求職者や在職中の方(障害者手帳の有無は問いません)に対して、職務の遂行に関する支援や職場内でのコミュニケーションに関する支援、体調や生活リズムの管理に関する助言などをおこないます。さらに、ご家族や職場に対しても助言をおこない、障害のある方との橋渡しする役割を担います。詳しくはお住まいの地域障害者職業センターへご確認ください。

ハローワーク

ハローワークでは求人を探すだけではなく、就職活動をするためのさまざまなサポートを受けることができます。障害特性からくる働く上での悩みや、必要な配慮から検討できる今後の働き方についても相談することができます。これから就職活動を考えている方はハローワークへ相談するといいでしょう

就労移行支援事業所

就労移行支援事業所は、就職活動および職場定着をサポートする障害福祉サービスのひとつです。就職活動に向けて、さまざまなプログラムや企業実習などを通して障害特性について理解を深めたり、具体的な合理的配慮を考えたりすることができます。長く安定した働き方ができるように準備をしたい方は就労移行支援事業所へ相談するといいでしょう。

【無料】就労移行支援事業所とは?資料をダウンロードする

LITALICOワークスの就労移行支援について

就労移行支援事業所を運営しているLITALICOワークスでは、ご本人の特性によって生じる就労場面での困難さを理解したうえ、自分でできる対処法と合理的配慮を整理するためのサポートをおこなっています。具体的には自己理解を深めるためのプログラムや、職場体験実習(インターンシップ)などを実施し、実践を通して、理解を深めていきます。

 

また合理的配慮の検討や提供においては、ご本人と企業側の双方が話し合って進めていく必要があります。そのため、LITALICOワークスでは、双方がスムーズに理解しあえるようにサポートをおこなっています。

 

働くことのお悩みがありましたら、まずはお気軽にLITALICOワークスへご相談ください。

【無料】働くことのお悩みを相談してみる

合理的配慮についてまとめ

職場での合理的配慮の検討・実施をすることで、障害特性からくる働く上での困りごとを軽減し、働きやすくなることにつながります。

 

その人に合った合理的配慮を見つけるためには、

  • ご本人の障害特性やさまざまな環境によって生じる困難さを整理する
  • その困難さを自分で対処できる方法を考える
  • 自己対処が難しい場合にどのような配慮があれば能力を最大限に発揮できるかを考える
  • その配慮が企業にとって過重な負担にならないか、なるのであれば代替案はないか、検討する

といった流れで検討していくことが大切です。

 

LITALICOワークスでは、障害のある方が安心して働くためのサポートをおこなっています。障害者手帳の有無を問わず、医師や行政などにより就労する上で困難と判断された場合、利用できる可能性があります。利用有無に関わらず、まずは働くことのお悩みがあれば、いつでもLITALICOワークスへご相談ください。

更新日:2024/03/28 公開日:2023/01/31
  • 監修者

    LITALICOワークス コンサルタント

    服部 一史

    企業の障害者雇用支援に10年以上従事し、社内の受け入れ体制の構築や業務切り出し・オペレーション整備、および特例子会社の設立支援等も数多く担い、企業担当者との接点は2000名以上におよぶ。
    著書に「頑張ってもうまくいかない ひょっとして発達障害?と思ったら読む 無理しない働き方」(共著)

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