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お役立ち仕事コラム

社交不安障害(社会不安障害/SAD)とは?原因や診断、治療や仕事についても解説します

更新日:2024/07/06

社交不安障害は、人と話すことや人が多くいる場所に強い苦痛を感じる不安障害の一種で、以前は「社会不安障害」と呼ばれていました。その苦痛は、決して本人の努力不足や性格によって引き起こされる訳ではありません。

 

社交不安障害があると、さまざまな不安や恐怖から、日常生活や社会生活の中で困る場面もあるかもしれません。しかし、治療を受けたり、不安や恐怖との付き合い方を知ることで、自分らしく働けたり、生活を送ることも可能です。

 

今回は、社交不安障害について、受診のタイミングや治療について、そして無理なく仕事を続けるためのポイントを解説します。

社交不安障害(社会不安障害/SAD)とは?

社交不安障害(※)とは、人に注目されることや人前で恥ずかしい思いをすることが怖くなって、人との会話や大勢の人が集まる場に強い苦痛を感じる不安障害の一種です。

 

人前で緊張しやすい性格の方は多くいますが、その苦痛が強く生活にも支障が及んでいる場合は、社交不安障害の症状の可能性が考えられます。

 

社交不安障害の方は、自分でも「そこまで恐怖を感じるのはおかしい」と思っていても、その気持ちを抑えることが難しくなります。そして、恐怖や不安を避けたいという動機から、外出や人と会うことを避けるようになったりします。

 

「あがり症」や「赤面症」「対人恐怖症」などの言葉は聞きなじみがあるかと思いますが、これらも、場合によっては社交不安障害の症状に含まれることがあります。

 

(※)診断名の正式名称は「社会不安症 / 社交不安障害(社交恐怖)」です。この記事では「社交不安障害」の名称に統一します。

社交不安障害の症状や困りごと

社交不安障害の症状がある方が、恐怖や困りごとを感じやすい社会的場面は以下の通りです。

  • 人前で話す、発表する、プレゼンテーション
  • 大勢の人が集まる場
  • 人目の触れる場での飲食
  • 電話対応 など

そして、社交不安障害の症状がある方が不安や緊張で起こりやすい症状はどのようなものがあるか、例をあげていきます。

  • 動機、息苦しさ
  • 手足の震え
  • 声が上ずる、声が震える
  • 冷や汗が出る
  • 頭が真っ白になる
  • 赤面
  • ほてり、のぼせ
  • 腹痛など消化器症状
  • めまい、吐き気

社交不安障害の症状がある方は、生活を送るうえで不安や恐怖とたたかって努力しているのにもかかわらず、本人が「性格のせいだ」とか「甘えている」といった解釈をしてしまい、生きづらさを感じていることも少なくありません。

 

しかし、これらの困りごとは「性格のせい」や「甘え」ではなく、社交不安障害の症状かもしれないと捉えることで、適切な治療に結びついたり、周囲の人の理解と協力を得て自分らしく社会参加するためのきっかけになるかもしれません。

 

実際に、社交不安障害の症状と上手く付き合いながら、自分に合った仕事を続けたり、プライベートでの人間関係を楽しんでいる方もいます。

社交不安障害(社会不安障害/SAD)の原因

社交不安障害と関わりの深い生物学的な因子としては「脳の扁桃体(へんとうたい)」という部分の過活動があるといわれています。扁桃体とは、脳内で危険を察知する役割を担う部分です。

 

社交不安障害の原因

 

その扁桃体が過剰に反応しやすくなっているため、恐怖や不安が実際よりも強く感じられ、その感情を抑えることを難しくさせていることが想定されます。

 

このほかにも、生まれつきの気質や、経験したこと(人前で恥をかいた経験や失敗体験など)が関わっているとも考えられています。

 

上記のように原因として想定されるものはありますが、明確な原因は今のところは分かっていません。

社交不安障害(社会不安障害/SAD)の診断について

社交不安障害の診断は「精神科」「心療内科」「メンタルクリニック」などでおこないます。

 

社交不安障害の診断は、主に医師による問診によっておこないますが、1つや2つの症状だけで簡単に決めつけることはありません。診断する医師によって誤差がみられないようにするために、国際的に普及している診断基準が使用されています。

 

主な基準は、アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)と、世界保健機関(WHO)の『ICD11』(『国際疾病分類』第11版)です。どちらも日本の病院で広く使用されている診断基準です。

 

医師は問診の中で得た情報から、これらの診断基準を満たすかどうかを臨床的に判断し、診断します。

病院を受診するか迷っている方へ

「社交不安障害かもしれないけど、受診するのにはためらいがある」「どの程度不安を感じたら受診するべきなのだろう」と悩んでいる方もいるかもしれません。不安や恐怖を感じること自体は、人として当然のことです。そのため「不安を感じるから社交不安障害」とは言い切れないところがあります。

 

しかし、不安や恐怖、それに伴う回避行動が一定期間以上続いており、仕事のパフォーマンスが落ちていたり、人間関係に悪影響が出ているなどの支障がある場合は、背景に社交不安障害の可能性があるため、一度病院へ相談してみるといいでしょう。

 

受診をきっかけに、今の仕事を続けるべきかどうかや、生活の中でどのような工夫をするとよいかなど、不安や恐怖との付き合い方を知ることができるかもしれません。

社交不安障害(社会不安障害/SAD)の治療方法は?

社交不安障害の治療方法は大きく「薬物治療」と「精神療法(カウンセリング)」があります。

薬物治療

社交不安障害の病態には、脳内神経伝達物質の1つである「セロトニン」が影響していると考えられています。そのため、薬物療法では抗うつ薬が用いられることが多いです。

精神療法(カウンセリング)

医師や臨床心理士とのカウンセリングでは「認知行動療法」をおこなうことがあります。「認知行動療法」では、極端な考え方、物事の捉え方の癖を修正し、行動を変えていくことを目指します。通常の診察時間以上の時間を要するため、別途時間を予約しておこなうことが多いです。

社交不安障害(社会不安障害/SAD)と仕事について

無理なく仕事を続けるために大切なこと

まずご自身の症状について理解を深めることが大切です。「自分がどんなときに不安を感じやすいか」を整理してみましょう。そのうえで「自分でできること」そして「周囲の配慮や理解を得ることで働きやすい環境」を調整してみるといいでしょう。ここでは例をあげていきます。

 

自分でできること

リラックス法

仕事中に「強い不安」を感じそうになったとき、自分なりのリラックス法をもっておくことで、安心して働けるようになる方もいます。

 

例えば、一旦席を外して深い腹式呼吸をして落ち着いてみたり、普段から規則正しい生活リズムを心がけることで自律神経のバランスを整えるなどです。場合によっては「漸進的筋弛緩法(ぜんしんてききんしかんほう)」や「呼吸法」などのリラクゼーション法を精神科医や臨床心理士などから教わることも一つの方法です。

  • 漸進的筋弛緩法
    さまざまな筋肉を引き締めたりゆるめたりすることで、リラックス状態を引き起こす方法
  • 呼吸法
    鼻から息を吸い、口からゆっくりと細く長く息を吐く方法(腹式呼吸でおこなうのがいいといわれている)

 

周囲の理解や配慮を得る

社交不安障害の方が、仕事上で生じる不安や恐怖に対して「耐える」「我慢する」だけでなく、社交不安障害の症状について周囲の人の理解を得たうえで、業務内容や職場環境などに対して配慮を得るということも大切です。

 

例えば、朝の通勤ラッシュがつらい場合、時差出勤や在宅勤務の制度を利用するなど、できるだけ負担のなく仕事を続けられる環境に整えるのがいいでしょう。

 

そのほかにも、例えば電話対応に強い恐怖を感じる場合は、電話対応は控え、その代わりにデータ入力の量を増やすなど、症状が強くでない業務内容に調整することも一つの方法です。

仕事を続けることがつらいと感じた場合は?

このように、さまざまな工夫をおこなったとしても、その症状が強く出る場合は「仕事がつらい」「会社に行くことが難しい」と感じる場合があるかもしれません。そういった場合に無理をしてしまうと心身の体調を崩してしまう可能性がありますので、主治医や職場(上司や人事部など)、産業医などに相談してみましょう。ほかにも外部の相談支援先へ相談する方法があります。次の章で説明します。

社交不安障害に関する相談先や支援先

社交不安障害の方が仕事を無理なく続けていくためには、自分に合った仕事や職場環境を選ぶこと、また一緒に働く同僚や上司に対して理解を得ることが大切です。そのため、相談先や支援先を上手く活用してみるといいでしょう。

 

ここでは、社交不安障害による療養が必要となった場合、復職・就職に向けてのサポートについてご紹介します。

 

精神科デイケア

精神科デイケアとは、社会復帰に向けてリハビリテーションをおこなう場所です。具体的には、決まった時間に集まり、文化活動や運動などさまざまな活動をおこないながら生活リズムなど整えていきます。まずは体調を整え、社会復帰を目指したい場合は利用を検討するといいでしょう。

リワーク支援

リワーク支援とは、精神的な不調がきっかけで職場を休職した方の職場復帰を支援するプログラムのことです。リワーク支援は、休職から復職に至るまでの橋渡しの役割を担っています。そのため、一旦休職をした方が再び職場復帰をする際に、リワーク支援の利用を検討するといいでしょう。リワーク支援は、医療機関や地域障害者職業センターなどでおこなわれています。

ハローワーク

ハローワークには、社交不安障害の方などの就労を支援する「専門援助部門」という窓口があります。就職に関する相談や情報提供、障害や疾患がある方を対象とした求人の紹介などをおこなっています。これから就職活動を考えているときには、まずは相談してみるといいでしょう。

就労移行支援事業所

就労移行支援事業所は障害福祉サービスの一つで、一般企業への就労を目指す障害や疾患のある方の就職、そして職場定着までの一連の過程をサポートする事業所です。

 

利用者は事業所に定期的に通い、講座を受けたり、ワークショップに参加したり、職場体験実習(インターンシップ)などを通じて、自分にあった仕事や必要なサポート、対処法について理解を深めることができます。今後長く安定して働きたい場合に、利用を検討してみるといいでしょう。

 

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LITALICOワークスの就労支援について

LITALICOワークスでは「就労移行支援事業所」を運営しています。これまで、多くの社交不安障害の方の就職をサポートしてきました。社交不安障害の方の特性によって生じる困難さを理解し、自分でできる対処法や自分に合う職場環境を知ることができるようにサポートしています。具体的には、自己理解を深めるプログラムや職場への体験実習(インターンシップ)、支援スタッフが職場環境へ働きかけることで合理的配慮を得るためのサポートもおこなっています。働くことへお悩みがある方はぜひ、お気軽にご相談ください。

 

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社交不安障害(社会不安障害/SAD)についてまとめ

社交不安障害は、誰にでも起こり得る可能性があるものです。

 

もしも強い恐怖や不安感によって生活に支障をきたしている場合は、我慢や自己判断のみに頼らずに、医療機関へ相談することが大切です。

 

また、社交不安障害の症状と付き合いながら仕事を続けている方も多くいます。かかりつけの医師や産業医、可能であれば職場の上司や同僚と相談し、なるべく心身への負担を減らしながら仕事を続けることが大切です。社交不安障害の症状があって働くことにお悩みのある方は、就労支援に関する相談・支援先へ相談してみてもいいでしょう。

 

LITALICOワークスでは、これまで社交不安障害の方の就職をサポートしてきました。働くことにお悩みがある場合、ぜひお気軽にご相談ください。

更新日:2024/07/06 公開日:2022/12/13
  • 監修者

    滋賀医科大学精神医学講座 助教

    増田 史

    医療法人杏嶺会 上林記念病院 こども発達センターあおむし
    著書に『10代から知っておきたいメンタルケア しんどい時の自分の守り方』(2021年8月 ナツメ社)
    https://www.natsume.co.jp/books/15323

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