
うつ病などの精神疾患や注意欠如・多動症(ADHD)などの発達障害について調べていると「DSM-5」という名称をよく目にするかもしれません。
しかし、あまり聞きなれない名前であるため「何のことかよくわからない」「ICD-10とは何が違うの?」など、疑問をお持ちの方もいらっしゃるはずです。
そこで、当記事では「DSM-5とは、いったいどのようなものなのか」解説していきます。
また、DSM-5の原文を見る方法についてもご紹介します。
うつ病などの精神疾患や注意欠如・多動症(ADHD)などの発達障害について調べていると「DSM-5」という名称をよく目にするかもしれません。
しかし、あまり聞きなれない名前であるため「何のことかよくわからない」「ICD-10とは何が違うの?」など、疑問をお持ちの方もいらっしゃるはずです。
そこで、当記事では「DSM-5とは、いったいどのようなものなのか」解説していきます。
また、DSM-5の原文を見る方法についてもご紹介します。
まず、DSMの正式名称は「Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders」です。
頭文字をとり、略して「DSM」と呼ばれており、米国精神医学会が発行しています。
日本語に訳すと「精神疾患の診断・統計マニュアル」です。
「DSM」は、精神疾患の治療をしたり、精神医学の研究をおこなっている人へ、精神疾患の基本的な定義を記したものです。
世界共通の診断基準として用いられており、日本においても多くの病院で使われています。
DSMの後ろにある「5」という数字は、第5版という意味です。
DSMは1952年にDSM-Ⅰ(第1版)が出版された後、何度か改訂され、DSM-5は2013年(日本語版は2014年)に公開されました。
その後、2022年現在に至るまで、DSM-5が最新のものとして使われています。
ちなみに、下記のように第4版まではローマ数字が正式な表記でした。
そして、第5版からはアラビア数字が使われています。
「DSM」のもとになっているのは、第二次世界大戦中に帰還兵の治療などにおいて重要な役割を果たした精神科医たちが使っていた診断マニュアルです。
第3版からは、明確な目標として「精神医学に共通言語を与える」ことを掲げています。
精神科医それぞれの基準ではなく、統一された基準に基づいた治療がおこなわれる環境を整えようとしたのです。そして、この考え方が現在までの「DSM」のあり方を支えています。
そして、DSM-5の「本書の使用法」の欄には、下記の目的が記載されています。
精神疾患の場合、血液検査や画像検査などの結果が目に見える検査だけでは、症状や程度を正しく把握することができません。
そのため、医師は来院者の行動や心理状態などを診たうえで、診断をおこなう必要があり、その際に基準となるのがDSM-5というわけです。
国際的に使用されている診断基準には、DSMの他に世界保健機関(WHO)が作成しているICDと呼ばれるものがあります。
この項目では「ICDとはどのようなものなのか?」とDSMとの違いをご紹介します。
ICDは、International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problemsの略で、日本語では「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」です。
ICDは、精神疾患のみではなく、体の病気なども含め疾患全般の分類を記載しており、DSMと同じく病院などでの診断時に用いられています。
精神疾患の分類はDSMとほぼ変わりませんが、なかには、分類方法や診断名が違うものもあります。
ちなみに、日本は世界保健機関(WHO)に加盟しているため、厚生労働省のサイトに載っている公式な診断や報告においては、基本的にICDが使われています。
また、現在使われているICDは「ICD-10」ですが、2018年に第11版のICD-11を公表しています。
現在、各国での適用に向けて準備が進んでいるため、ゆくゆくは日本でもICD-10に代わりICD-11が使用される予定です。
DSMとICDの違いを表にまとめると下記の通りです。
上記のように、作成している機関や記載されている疾患の対象は異なりますが、どちらも世界共通で使われている分類基準です。
DSM-5には、精神疾患の診断名と診断基準が記載されています。
具体的には、まず、精神疾患が22のカテゴリーに分けられています。
そして、22の各カテゴリー内に、さらに小さな分類があります。
次の項目で、DSM-5の分類の例を見てみましょう。
例えば、大きな分類のひとつである「神経発達症群 / 神経発達障害群」の中には、7つの診断名があります。
この7つのなかにADHD(注意欠如・多動症)や、自閉スペクトラム症 / 自閉症スペクトラム障害(ASD)などの発達障害が含まれています。
また、分類のなかでさらに細かく種類が分かれることもあります。
一例ですが、限局性学習症/限局性学習障害(LD)の場合、3つの種類に分かれます。
読字障害・・・「読み」が困難
書字表出障害・・・「書くこと」が困難
算数障害・・・「算数や推論」が困難
このように、精神疾患が大小さまざまな分類に分けられ、記載されています。
DSMに記載されている分類や診断名は、改訂によって変更となるケースもあります。
例えば、DSM-Ⅳでは、下記の3つは「広汎性発達障害」のなかにまとめられていました。
しかし、DSM-5以降、「広汎性発達障害」のカテゴリーがなくなり、「自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)」という診断名に含まれるようになりました。
そのため、現在では診断名として「アスペルガー症候群」や「自閉症」は使われなくなっています。
その他の例だと、DSM-Ⅲから登場した「注意欠陥障害(ADD)」という診断名は、DSM-Ⅲ-R以降なくなり、現在は「注意欠如・多動症(ADHD)」のなかに含まれています。
上記のことからも、DSMの改訂により内容が変わることが今後もあるかもしれません。
DSM-5は熟練した医師が診断基準のひとつとして、精神疾患の診断基準として用いるものです。
ポイントは、医師たちはDSM-5の内容のみを参考にしているわけではないという点です。
例えば「うつ病かもしれない」と悩んでいる患者さんが来院したとしましょう。
医師は患者さんの話を聞いた後、すぐにDSM-5を見て「うつ病です」と診断するわけではありません。
体温や血圧、尿や体重などに異常がないか検査したり、生活環境や仕事の状況、「どのような点で困っているのか」などを質問したりします。
また、言葉の情報だけでなく、表情や問診時の様子なども診つつ、DSM-5や他の診断基準・指針を参考にして診断しています。
上記のように、DSM-5の内容のみに頼るのではなく、総合的な角度から診たうえで診断をおこなっています。
「DSM-5」は一般の患者さんへ向けて出版されているものではありません。
そのため、患者さんがDSM-5を参考にして、自分で診断することはできません。
精神疾患は、さまざまな要因が複雑に絡み合って起こる場合があります。
つまり、専門的な知識がないと正確な診断ができないということです。
もちろん、DSM-5を見るだけであれば問題ありませんが「なにかしらの疾患があるかもしれない」と思ったら必ず、医療機関で正確な診断と適切な治療を受けてください。
日本では、DSM-5の原文を日本語訳した書籍が出版されています。
これは、日本精神神経学会が日本語版用語監修をおこなったものです。
また、ポケット版(診断基準のみが記載されている)もあります。
さらに、アメリカ精神医学会の公式サイトでは、原文ではないものの、DSM-5に関する情報を英文で見ることができます。
もしも、英語で書かれている病名や用語を見ていて、訳がわからなかったら、日本精神神経学会の公式サイトで「DSM‒5 病名・用語翻訳ガイドライン」をチェックしましょう。
精神疾患の診断基準として使われているDSM-5は、自己診断をするために個人が活用できるものではありません。
日本語訳された書籍も発売されていますが、見る場合も参考程度にとどめましょう。
もしも、心身の症状により日常生活で困りごとがあったり、憂鬱な気分が続いていたりと、精神疾患が疑われることがある場合、心療内科や精神科を受診することが大切です。
精神疾患や障害のある方で、就労のお悩みを抱えている方が活用できる機関のひとつが「就労移行支援事業所」です。
就労移行支援事業所では、うつ病などの精神疾患や注意欠如・多動症(ADHD)といった発達障害など、様々な障害のある方の就職をサポートしています。
LITALICOワークスでは、全国に就労移行支援事業所を展開し、セミナーの実施(ストレス対処法や感情のコントロール方法など)、職場体験の開催など就職の支援をしています。
また「障害の特性に合った仕事を見つけたい」「うつ病で休職していて復帰が不安」などの相談も受け付けています。
見学や資料請求もできるため、気になる方はお気軽にお問い合わせください。
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