
発達障害の症状を疑いつつも、医療機関で診断を受けるべきか悩む方は少なくありません。
「そもそも自身の症状は本当に発達障害なのか?」
「診断を受けるにあたってデメリットはあるのか?
「どこで診断を受ければ良いのか?」など、さまざまな疑問を抱いている方も多いはずです。
この記事では、発達障害の具体的な症状や診断を受ける場所について解説していきます。
発達障害の症状を疑いつつも、医療機関で診断を受けるべきか悩む方は少なくありません。
「そもそも自身の症状は本当に発達障害なのか?」
「診断を受けるにあたってデメリットはあるのか?
「どこで診断を受ければ良いのか?」など、さまざまな疑問を抱いている方も多いはずです。
この記事では、発達障害の具体的な症状や診断を受ける場所について解説していきます。
目次
発達障害とは、生まれつき脳のはたらき方や発達に偏りが生じ、日常生活に影響を及ぼしてしまう状態のことを差します。
特徴の一例は「ある分野は得意としつつ、別の分野は上手くできない」などです。
とはいえ、得意不得意は誰にでもあるものです。
しかし、発達障害があると、得意と不得意の振り幅が大きく、結果として日々の暮らしに支障をきたしやすくなると考えられています。
発達障害の原因は脳の一部分の先天的な障害と言われていますが、まだはっきりとは解明されていません。
症状は大きく下記の3つに分かれます。
一つのみが該当する場合もあれば、複数のタイプが当てはまるケースも見られます。
それぞれの特徴を解説していきます。
注意欠如・多動症(ADHD)の症状は、大きく「不注意」「多動性」「衝動性」の3つに分かれます。
一つの症状が現れるパターンだけでなく、二つ以上の症状が混在するケースもあります。
また、当てはまる症状があるからといって、必ずしも注意欠如・多動症(ADHD)とは限りません。
医療機関では「生活に支障が出ているか?」など複数の要素によって診断します。
【多動性】
多動性の傾向が強いと、同じ場所に長時間座っていられないなどの症状が見られます。
他の症状としては「授業中にじっと話を聞けない」「注意されても私語を続ける」などです。
大人になると目に見える症状が収まるケースも多いと言われていますが「落ち着いて座っていられない / あれこれと気になって集中が維持できない」など、落ち着きのなさが残る方もいらっしゃいます。
【衝動性】
衝動性の傾向が強いと、思いついたことをよく考える前に行動へ移してしまいます。
具体的には「順番待ちができずに割り込んでしまう」「人が話している間に発言する」「衝動買いが多い」などです。
自分の欲求が満たされないと、イライラして周囲の人や物にあたってしまうこともあります。
気持ちをコントロールできず、ルールやマナーを守ることができない場合、人間関係に影響が出るケースも少なくありません。
【不注意】
不注意の傾向が強いと、学校や職場でミスが度重なり、目立つ可能性が懸念されます。
症状の例としては下記が挙げられます。
とくに、社会に出てからミスが目立ち始め、自信を喪失してしまう方もいらっしゃいます。
上手く仕事を進められないストレスが、うつ病やパニック障害の症状を引き起こすケースがあるのも事実です。
また、不注意の傾向が強い方のなかには、大人になってから症状に気が付き、注意欠如・多動症(ADHD)と診断されるパターンも見られます。
自閉スペクトラム症の人は、約54人に1人の割合という報告もあります。
性別ごとに見ると男性に多く、発生頻度は女性の約4倍です。
特徴としては「他人に対する興味が薄く、話している相手の気持ちや状況を理解することが苦手」などが挙げられます。
そのため、対人関係がスムーズにいかず、悩んでしまう方もいらっしゃいます。
具体的な特徴をいくつかご紹介します。
また、特定のものごとに強く関心を持ち、こだわりがあるケースも見られます。
好き嫌いが明確に分かれており、自分のやり方やペースを守りたいという意思があります。
結果、特定分野では素晴らしい結果を残しやすくなる一方、その他の分野は得意でない傾向があると報告されています。
学習障害(限局性学習症、LD)の人には、知的な遅れはないものの「読む」「書く」「計算・推論」の面が困難という症状が見られます。
まず、学習障害(限局性学習症、LD)は3つのパターンに分類されます。
すべての分野が難しいのではなく、一部の領域について上手くできないケースが多いです。
それぞれの特徴をご紹介します。
【読字障害(ディスレクシア)】
読字障害(ディスレクシア)の症状は「読み」が苦手です。
そのため、本などの文章を読んでいる際に、下記のような特徴が見られます。
「読字障害(ディスレクシア)の方の文字の見え方はさまざまです。
例えば文字の大きさや濃さがバラバラに散らばって見えることや、鏡に映した反対文字のように見える、霞んで見えるなどのケースもあります。」
このような見え方をするため、不自然な読み方になったり、一文の音読に時間がかかったりしてしまいます。
【書字表出障害(ディスグラフィア)】
書字表出障害(ディスグラフィア)の症状は「書くこと」が苦手です。
ただし、まったく字が書けないわけではありません。
例えば、下記のような症状があらわれます。
読むことが苦手な読字障害(ディスレクシア)にともない、書字表出障害(ディスグラフィア)の症状が現れる可能性もあります。
【算数障害(ディスカリキュリア)】
算数障害(ディスカリキュリア)の症状は、「計算や推論が苦手」です。
算数の授業が始まる小学校へ入学した後に、気づかれるパターンが多いと言われています。
また、算数のなかでも、一部の分野のみ苦手であるケースもあります。
症状の例をご紹介します。
社会人になり、就職してからは「お釣りの計算ができない」「暗算ができない」などの支障がでる可能性があります。
しかし、電卓などのツールを上手く使い、苦手をカバーすることは可能です。
「大人の発達障害」は「大人になってから気づいた発達障害」という意味合いを持つ言葉です。
基本的に発達障害は、先天的なものです。
つまり、大人になってから発症するわけではありません。
しかし、子供の頃には発達障害の症状が目立たなかったものの、社会に出てから上手くいかない苦しさや大変さを感じ、発達障害だと診断されるケースがあります。
このような状況において「大人の発達障害」という言葉が使用されることがあります。
社会人として過ごすなかであらわれやすい発達障害の特徴をご紹介します。
上記のように、業務に直接影響が出るケースが多いため、周囲から「仕事ができない人」と思われ、自信を失ってしまうこともあります。
しかし、アプリなどのツールを活用し、忘れ物を防いだり、スケジュールを管理するなどの方法をとり、上手く仕事をしている方もいらっしゃいます。
また、特性を活かせる職に就くことで、自分らしく働くことも可能です。
発達障害による社会生活上の困難さや対人関係の苦しさから、二次障害を併発することもあります。
多く報告されているのは、うつ病などのストレスによる精神疾患です。
発達障害は、周囲からは障害があるとわからないため「変わった人」「怠けている」などの誤解をされる可能性があります。
結果として、社会人の場合は同僚や上司との関係が上手く作れず、強いストレスを抱えてしまいます。
もしも、二次障害が発症してしまった場合は、医者の診療を受け、焦らずに治療することが大切です。
また、二次障害が起こらないように、日頃から一人で悩まない、適度に休む、生活リズムを整えるなどの予防法を意識する必要があります。
発達障害の診断では、アメリカ精神医学会の「DSM-5」が用いられます。
「DSM」とは、Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disordersの略で、精神疾患の診断基準・診断分類のことです。
「DSM-5」の「5」には、第5版という意味があります。
アメリカ精神医学会は「DSM」の改訂を行っており、2021年10月現在の最新版が「DSM-5」です。
この「DSM-5」には、さまざまな精神疾患を診断する際に基準となる条件が記載されています。
例えば、ADHDの場合「少なくとも2つ以上の状況(例:家と学校)で症状が見られる」「学校や職場、家庭での機能を妨げている」などが、基準として書かれています。
上記のように、医師が「DSM-5」を用いて状況を確認する問診の他、場合によっては、脳部CTやMRIなどを行ったり、IQを測定して総合的に判断します。
また、診断の精度を高めるために、子どもの頃の通知表や作文を持参するケースもあります。
発達障害を診断できるのは、医療機関のみです。
「精神科」か「心療内科」などで診断を受けます。
あらかじめ病院の公式ホームページを確認したり、問い合わせをして確認しましょう。
また、都道府県や市によっては、発達障害の診断を行っている医療機関のリストや相談窓口を公開しているところもあります。
詳しくは各都道府県・政令市の発達障害者支援センターや、市区町村のホームページを確認してみてください。
発達障害そのものを完治させる治療法は、まだ発見されていません。
しかし、薬の服用や環境を調整することで症状を軽くし、日常生活での困難を解消していくことは可能です。
治療としては薬物療法の他、心理療法などが挙げられます。
発達障害と診断されたら、医師の指示をもとに、上記の療法を取り入れながら生活をしていきます。
また、通院加療を行いながら、特性や症状に合わせて生活しやすくなるような環境調整を行うことも大切だといわれています。
症状によっては、薬を使った療法が検討されることもあります。
例えば、ADHDの場合には不注意に効果があるとされるものや、多動性や衝動性などの場合にはその症状を緩和する効果があるものが処方されます。
また、二次障害の症状によっては、睡眠導入薬や抗うつ剤が用いられるケースもあります。
ただし、薬は必ずしも処方されるわけではありません。
薬物療法は本当に必要かどうかを見極めたうえで行われるため、担当医の指示に従いましょう。
心理療法では、自身の症状について理解を深めることを目的とした心理教育や、コミュニケーション能力を向上するためのSST(ソーシャルスキル・トレーニング)、カウンセリングなどが行われることがあります。
SSTとは、社会生活を送る上で必要な技術を習得するための訓練です。
具体的な例としては「反対意見の伝え方」や「人への質問の仕方」などです。
ロールプレイング形式※で行われるトレーニングもあるため、実践的なスキルを身に着けることができます。
※実際の場面を想定し、さまざまな役割を演じながら、問題の解決法を会得していく方法
特性や症状にあわせて、生活しやすいように環境を整えることを環境調整といいます。
具体的には、忘れ物を防止するためにリストを作成し、周囲の人間が一緒に確認するなどです。
また、学生であれば、外部からの刺激を受けにくい場所に席を置くなども挙げられます。
このように、負担が重くなりすぎない範囲での支援のことを「合理的配慮」と呼びます。
診断書とは、医師が作成する「障害があることを証明する書類」です。
この診断書が必要になるのは、どのようなタイミングなのかご紹介します。
診断書の提出を求められるタイミングとしては、下記が挙げられます。
これらの手続きや支援サービスの利用前に、医師の診断書を準備しておかなくてはいけません。
また、その他公的支援を受ける際や、在籍している企業によっては休復職時(本人開示希望の場合のみ)に診断書の提出が必要な場合もあります。
大人の発達障害の方が受けられる支援サービスをピックアップしました。
ひとつずつ、どのような支援があるのかご紹介します。
【障害者就業・生活支援センター】
障害者就業・生活支援センターでは、ハローワークや医療機関などと連携しながら「働く」と「暮らす」を一体的にサポートしています。
令和3年4月1日時点では、全国に336箇所設置されています。
障害者就業・生活支援センターの一覧は厚生労働省のページをご覧ください。
【発達障害者支援センター】
発達障害者支援センターは、障害のある方と家族の生活をサポートする施設です。
発達障害の診断を受けている方だけでなく、似たような特徴や症状がある方の支援も行っています。
支援の内容は自治体によって異なっているため、まずはお住まいの地域にある発達障害者支援センターがどのようなサポートを行っているのか確認しましょう。
【ハローワーク】
ハローワークでも、発達障害がある方へ向けての支援をしています。
本人の特性や症状、希望業種をふまえたうえで、専門の相談員が職業紹介などを行います。
支援を受けるためには、必ずしも障害者手帳が必要というわけではありませんが、診断書の提出を求められるケースがあります。
【精神保健福祉センター】
精神保健福祉法によって、各都道府県や政令指定都市への設置が定められています。
他の支援機関に比べると、精神疾患に特化している点が特徴です。
また、自治体によって呼び方が異なる場合があります。
発達障害は精神疾患などの二次障害に繋がる可能性もゼロではありません。
そのため、支援機関のひとつとして認識しておくことは有効的と言えるでしょう。
【就労移行支援事業所】
就労移行支援は一般企業に就職を希望する方々へ、働くための様々なサポートを行う福祉サービスです。
LITALICOワークスは各地で就労移行支援事業所を運営しており、これまで1万人以上の方の就職をサポートしてきました。
障害のある方が自分らしく働くために、ストレスコントロール・PC訓練・企業インターン・面接練習など一人ひとりに合わせたサポートを提供しています。
「働くことに悩んでいる」「体調が不安定で働けるかわからない」「一人で就職活動がうまくいかない」などお悩みのある方はお気軽にご連絡ください。
発達障害の診断を受けることで、下記のようなことができるようになります。
ひとつずつ、具体的にご紹介します。
まず、発達障害の診断を受ける利点のひとつとして「自身の症状を把握できる」が挙げられます。
どのような傾向があるのか、医師の診断により明確になることで、困りごとへの対策を練ることが可能です。
また「どうして他の人と同じようにできないのか?」と自己嫌悪に陥っている場合、診断によって「努力不足ではなかった」と自分を許すことに繋がるケースもあります。
このように、自身の症状や特性を理解することで気持ちが楽になる方もいらっしゃいます。
発達障害の診断を受けることで、障害福祉サービスの利用が可能です。
支援機関によっては、診断書なしで利用できるところもありますが、診断書の提出によって、より多くのサポートを受けることができます。
発達障害の診断を受けて精神障害者保健福祉手帳を取得すると「障害者求人への応募」を選択肢のひとつとして持つことが可能です。
障害者求人に応募した場合は、困ったときや配慮を求めたい際に相談しやすいという利点があります。
ただし、障害者求人への応募は、診断を受けているだけでなく障害者手帳を持っていることが必須条件です。
発達障害の診断を受ける際に気がかりな点としては、「発達障害がある」という事実に向き合わなくてはいけないことが挙げられます。
診断を受けることで、できない自分を許せたり、安心する方はたくさんいらっしゃいます。
一方、ショックが大きく上手く受け止められないケースがあるのも事実です。
そのため、焦らずに自分の声に耳を傾けながら、受けるか否か考えましょう。
「ずっと発達障害の診断を受けるべきか迷っている」「一人で悩んでいて辛い」
そんなときは、信頼できる専門機関へ相談することをおすすめします。
発達障害は、精神科や心療内科で診察・検査した上で診断されます。
診断が確定すると「受けられる支援の幅が広がる」「障害者求人へ応募できる」「自身の症状を理解できる」など無理せず社会生活を送ることができる可能性が拡がります。
「診断を受けるべきか?」悩んでいる方は、一度専門機関への相談も検討してみましょう。
監修者
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員
井上 雅彦
応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。
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