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大人向け|ASD(自閉スペクトラム症)とは?特徴やセルフチェックなど解説

更新日:2023/04/15

コミュニケーションや仕事の進め方などにおいて、どうにもいかず困ってしまうことはありませんか?それはもしかしたら「発達障害」が原因かもしれません。

 

現在、大人になってから初めて「発達障害」と診断される方が増えています。

 

発達障害とは、主に3つに分けられます。

  • ASD(自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害)
  • LD(学習障害)
  • ADHD(注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害)

この記事では、発達障害のうちの一つである「ASD(自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害)」はそもそもどういった特徴・特性があるのかについて解説します。また大人の当事者の方が直面しがちな職場などでの困りごとの対策や、治療方法についても、詳しく見ていきます。

 

※この記事内では「ASD(自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害)」を「ASD」と表記します。

 

※「学習障害(LD)」は現在、「限局性学習症(SLD)」という診断名となっていますが、最新版DSM-5以前の診断名である「学習障害(LD)」と呼ばれることが多くあるため、ここでは「LD(学習障害/限局性学習症)」と表記します。

ASDとは

ASDとは、発達障害のうちの一つで、知的障害を伴う場合と伴わない場合があります。

 

特に知的障害を伴わない場合、知的発達の遅れがないため、子どものころは学業成績や生活態度などにも困りごとがみられず、診断や支援を受けないまま大人になることも少なくないといわれています。

 

大人になればなるほど、対人関係やコミュニケーションは複雑になってきます。大人になって人間関係や仕事などでうまくいかない状況が続くと「どうして周りの人と同じようにできないのだろう」「自分は当たり前のことができていない」というような違和感を抱き、生きづらく感じたり、自己肯定感の低下につながったりすることがあるといわれています。そのような不安な気持ちを持ち続けると、不安症やうつなどの二次障害を発症することもあります。

 

大人になって初めてASDと診断がおりることで「自分が悪いのではなく、ASDという特性があるから生きづらさを感じていたのか」「ほかにも同じような人もいる」と知り、安堵する方もいるようです。

 

一方で、ASDという診断がおりたことで不安を感じたり落ち込んだりしてしまうという方もいるかもしれません。しかし、自分の特性を理解すれば、得意や苦手などを把握し、対処法やスキルなどを身につけたり、環境(※)を整えたりすることによって、強みを発揮したり困りごとや生きづらさを軽減したりすることができます。つまり、自分自身の特性を理解することが、その人らしく過ごすことにつながる可能性があります。

 

(※)「環境」とは、バリアフリーなどの物理的な環境面だけでなく、仕事内容や仕事の進め方、人間関係や職場のルールなど様々な意味を含んでいます。

ASDの原因

ASDの原因はまだ解明されていません。脳の神経伝達に何らかの異常があり、脳機能の障害によって認知や行動の偏りが生まれるのではないか、といわれています。

 

少なくとも、保護者の育て方に起因して発症するものではなく、かつ本人の性格と関連するものではないことは分かっています。

ASDの考え方

ASDは英語で「Autism Spectrum Disorder」の頭文字をとって「ASD」と呼ばれています。ASDの考え方について解説します。

自閉スペクトラム症

「AS(=Autism Spectrum)」「D(=Disorder)」は日本語でそれぞれ「自閉スペクトラム症」「障害」と訳します。

 

ここでいう「障害」とは、本人が生きていく中で生きづらさや支障がある状況のことです。

 

日常生活に支障がなく、生きづらさを感じない状況であれば、それは「障害」ではなく、「自閉スペクトラム症」という性質だけがあるという状態です。

 

しかし、自分自身の特性について理解が不足していたり、周りに理解してくれる人がいなかったりする環境だと、生きづらさを感じやすくなり「障害」が生じるということになります。しかし、対処法やスキルなどを身につけることでその「障害」を小さくすることもできます。

 

実際にASDの診断がありつつ、生じる「障害」を小さくすることで活躍されている方も多くいます。

「スペクトラム」とは

「スペクトラム」とは境界が曖昧で連続しているという意味です。ASDは元々は「自閉症」「アスペルガー症候群」などに分けられていましたが、共通の特性が見られることから、それぞれ独立したものではなく、連続しているものである、ということからスペクトラムと表記されています。

 

大人、子どもなど年齢に関わらず、その人それぞれの特性を理解した上で、支援・サポートしていくことが大切であるという考え方になっています。

 

【補足】2013年から「ASD(自閉スペクトラム症)」に統一

以前は「自閉症」「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害(PDD)」などいろいろな名称で呼ばれていましたが、2013年にDSM-5が発行されて以降は、「ASD(自閉スペクトラム症)」と総称されるようになりました。

ASDの特性・困りごとの例

ASDの特性からくる困りごとの例とあわせて解説していきます。

対人関係・社会性における困難さ

ASDの特性として「人との社会的な相互関係を築くこと」「コミュニケーションにおいて理解を示したり何かを伝えたりすること」に難しさを感じることがあります。

 

例えば、以下のようなものがあります。

  • 人と目を合わせることが難しい
  • その場の雰囲気や文脈から他者の気持ちを推察することが難しい
  • 思ったことや感じたことをそのまま伝えてしまい相手との関係が悪くなる
  • たとえ話や冗談、あいまいな話を理解することが難しい

こだわりの強さや柔軟性の乏しさ

ASDの特性として、なにかひとつのことに強いこだわりを示したり、興味の幅が狭かったりすることがあります。

 

例えば、以下のようなものがあります。

  • 好きなことや興味関心のあることに対する知識がとても豊富である
  • 自分で決めた順序や道順にこだわる
  • 職場のルールが変わったり、急に予定が変更されたりすると混乱する

仕事としては正確にできるものの、あいまいな指示に対しては難しい傾向があります。

 

そのほか、「感覚過敏(音や光、匂いなどの刺激に対し非常に敏感)」「細かな作業や運動が苦手」などの特性がみられることもあります。

ASDとADHDの関係性

ADHDとは「注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害」のことで、主な特性として集中力が続きにくかったり、ほかのことに気がそれやすいなどの「不注意」や、落ち着きがなかったり思いついたら即行動したりする「多動性・衝動性」があります。

 

ASDとADHDの特性は異なりますが、同じような困難さがみられることがあります。例えば「話に集中できない」という困難な状況において、ASDの場合は「興味を持つことができないこと」が原因ですが、ADHDの場合は「集中できない(不注意)こと」が原因となっています。

 

そのため、ASDとADHDは困難さ・困りごとの聞き取りだけでは判断できないことがあり、ASDと診断されたのちにADHDと診断しなおされるというようなことも起こりえます。また、ASDとADHDが併存することもあります。

ASD(自閉スペクトラム症)の診断・治療とは?

ASDの診断方法

ASDの原因がまだ明らかになっていないことから、血液や画像などの検査だけで診断を確定する技術はまだ開発されていません。そのため、本人の様子・生育歴・病歴・家族・周りの環境などの情報を統合して、診断をしていきます。

 

それらの情報を把握するため、面談と検査の両方を実施しながら診断していきます。検査では、ASDに関する特性を詳しく質問する「ADI-R(自閉症診断面接)」や、検査者とのやりとりを観察して評定する「ADOS-2(自閉症診断観察検査 第2版)」などがあります。

 

面談時には、客観的な情報を伝えられるように、幼いころの様子が分かる母子手帳や保育ノート、通知表などがあれば持参すると良いでしょう。また日常生活や、大人の方は仕事などで困っていることを事前にメモしておくと面談がスムーズになります。

ASDの治療

ASDを治療できるのなら治療したいと思われる方もいるかもしれません。

 

ASDなどの発達障害は脳機能の特性であり、病気ではありません。そのため、ASD自体を治療するというのではなく、ASDの特性に由来する困りごとに対して、さまざまな対策を検討し軽減させていくこととなります。

 

例えば、自分にあった対処法を見つけていったり、生活や仕事しやすいように環境を整えたり(例:周囲の人の動きが気になって自分の仕事に集中ができない場合は、ついたてを立てたり席の向きを変えたりするなど)、コミュニケーションなどのスキルを身につけたりすることで、困りごとを軽減させていきます。

 

同時にASDの特性の強みである几帳面さや正確性、興味のあることに対する集中力の高さなどを活かせる環境を作っていくことも大切です。

ASDのセルフチェック

職場や私生活において、以下のようなことで困ったことはありませんか?

  • 雑談が苦手
  • 相手の気持ちや言葉の裏を察するのが苦手
  • その場の空気を読むことが難しい
  • 思ったことをそのまま口に出してしまう
  • 急な予定変更があると混乱する
  • あいまいな指示を理解するのが難しい
  • 「あれ」「それ」など指示語の理解が苦手
  • 先の見通しをたてるのが苦手
  • 職場で同じようなミスを繰り返してしまう
  • 自分のペースがあり、他者と合わせるのが苦痛である
  • 特定の匂い、音など特定の感覚に対して過敏性がある
  • 人間関係がいつもうまくいかない など

「上記のような困りごとが長く続いている」「改善しようと思ってもなぜかうまくいかない」「原因がよく分からないがうまくいかない」などがあればASDの傾向があり、その特性によって生じているのかもしれません。

 

上記のチェックはあくまでも目安になるものなので、当てはまる項目が多い人も少ない人も、日常生活で困りごとがあればかかりつけ医や専門機関に相談してみましょう。

ASDかも?と思ったら特性を理解することから始めよう

「ASDかも?」と思うことがあったら、まずは自分の特性を理解することが大切です。

ASDの困難は「特性」と「環境」の相互作用によって起きている

特性とは「そのものだけが持つ性質」のことです。人には生まれながらの性質があり、もともと運動能力が高い方もいれば、運動が苦手な方もいます。こういった性質を「特性」といいます。

 

特性は環境との兼ね合いで変化していきます。ここでいう「環境」とは、その人を取り巻く全ての環境(人や場所・モノ)のことをいいます。例えば、聴覚過敏のある方の場合、個室などの静かな環境であれば業務に集中できますが、一方でオフィスなどのにぎやかな環境だと周りの音が気になって業務に集中することが難しくなってしまいます。

 

このように特性と環境の組み合わせによって、その人の日常生活・社会生活において生じる困難さは変わってきます。

 

そのため、大人、子どもに関わらず自分の「特性」をしっかりと理解すること、その上で自分に合う環境とはどういったものなのかを見つけることが大切です。

ASDの「得意な部分」を活かす

ASDは「空気を読むことが難しい」「興味の持てないことに取り組むことが難しい」などの苦手なことがありますが、一方で「興味のあることに対し深く取り組める」「仕事の正確性・几帳面さ」「細かいところに気がつく」などの得意なこともあります。

 

誰にでも得意・苦手はあります。そのため、自分の得意を活かせること・苦手をカバーできる方法・工夫を整理し、環境を整えていくことが大切です。

 

ひとりで整理することが難しければ、ASDのある方をサポートする支援機関などを活用しながら見つけていくという方法もあります。

【ASDの事例】対人関係がうまくいかず自己肯定感が低かったAさん

Aさんは、その場に合わせた表情や発言が苦手なことで、大人になっても人間関係がうまくいかないことが多く、自分に自信を持てませんでした。しかしAさんは「安心できる環境で働き続けたい」という気持ちがありました。

 

そこで、障害のある方の就職・定着をサポートする通所型の福祉サービス「就労移行支援事業所」を利用することにしました。就労移行支援事業所では、自己分析プログラムや職場実習などへ参加することで、自分の特性について理解を深めていきました。

Aさんが得意なこと

  • PCスキルが高い
  • 自分の決めた目標に取り組むことができる
  • 決められた仕事をきちんとこなす

Aさんが苦手なこと

  • コミュニケーションや雑談が苦手
  • 柔軟に対応することは難しい
  • タイミングをみて相手に相談するのが苦手

職場での環境調整・サポート

Aさんの特性を活かせる職場環境とはどういうところなのか、どういったサポートが必要なのか、就労支援スタッフとの面談などを通じて以下の通り整理をしていきました。

 

Aさんの得意に特化した業務(事務職の業務切り出し)
  • コミュニケーションが必要な業務を避ける
    (例:電話対応をなくす など)
  • PCスキルを生かす業務をピックアップする
    (例:Excelを使った各種集計業務、手動で行っていた作業を自動化させる業務など) など

 

コミュニケーションの工夫
  • 必要以上のコミュニケーションがとらなくてもいい環境を選ぶ
    (例:休憩は一人で過ごす、休憩時間はそれぞれが過ごしている、飲み会なども少ない職場にするなど)
  • 突発的な仕事がある場合には、指示する前にAさんに「お願いしても大丈夫かどうか」を相談してもらうようにする
  • 気になる点は日報にまとめ、提出する など

気持ちが安定したAさん

Aさんは、働く上で特に必要になるコミュニケーションスキルを身につけていきながら、PCスキルをさらに高め、就職活動の準備をしていきました。就労支援スタッフは事前にAさんの特性を踏まえ、得意なことを活かせたり苦手なことをカバーできたりする方法を企業側へ伝えた上で、面談・入社前の職場実習を実施し、Aさんにとって働きやすい環境であるかどうかを確認していきました。その結果、Aさんも企業側も安心して働けることがわかり、そのまま採用となりました。

 

現在は、Aさんの得意を発揮することで上司からの評価も高く、後輩へのレクチャーなども任されています。また仕事外でも就労移行支援事業所での「卒業生による就職者講話」で、実体験を話し、就職を目指す方に対して助言をすることもでき、少しずつ自分に自信を持てるようになりました。Aさんは自己肯定感があがったことで、安心できる環境で、充実した生活を送っています。

 

※プライバシー保護のため、事実を変更・再構成しています。

支援機関を活用する

日常生活や社会生活において困難さを感じ、「自分はASDかもしれない」と思ったときは、相談できる先や支援を受けられる機関を上手に活用できないかを考えてみましょう。

 

まずは、現在の日常生活で困っていること・得意や苦手なことなどを整理した上、お近くの病院や支援機関などに相談するといいでしょう。基本的には無料で相談することができます。

 

ここでは、ASDの方をサポートする支援機関などの一部をご紹介します。

ASDについて支援機関で相談する

「ASDかもしれない」と思ったら、まずはお近くの支援機関へ相談してみましょう。

 

発達障害者支援センター

発達障害がある方への支援を総合的に行っている専門機関で、各都道府県・指定都市に設定されています。日常生活・仕事などのさまざまな困りごとについて、相談することができます。なお、発達障害の診断がついていない方でも利用は可能です。

障害者就業・生活支援センター

障害者就業・生活支援センターは各都道府県ごとにあり、就業面と生活面の一体的な相談・支援をおこなっています。

仕事上でのお悩みだけではなく、健康管理に対するサポートや複雑な障害年金の申請などの相談もできます。

地域若者サポートステーション(サポステ)

働くことに踏み出したい15歳〜49歳までの方を対象に、相談やコミュニケーション講座など、就労に向けた支援などをおこなっています

病院やクリニックで診断を受ける

診断を受ける場合は、主に「精神科」「神経科」「心療内科」などになります。病院によっては専門外来を設けているところもあります。

 

インターネットなどで「ASD 病院」などのキーワードで検索するか、それでも見つからない場合は、発達障害支援センターに相談すると紹介してもらえることもあります。

 

またASDという診断を受けることで、自分が生きやすく、働きやすくするためのサポートを受けやすくなるというメリットがあります。例えば、さまざまな福祉サービスを利用できるようになる、精神障害者保健福祉手帳の取得をすれば障害者雇用で採用され職場での配慮を得やすくなる、所得控除を受けることができる、などが挙げられます。

働くことのサポートを受ける

これから働くことに不安がある方は、働くことのサポートを受けることを検討にいれても良いでしょう。診断や障害者手帳有無などによって受けられる支援は異なりますので、詳細は各支援機関でご確認ください。

 

地域障害者職業センター

都道府県に設置されている機関で、障害のある方に対する職業リハビリテーション、就職支援、就労継続支援などを行っています。

 

ハローワーク(公共職業安定所)

求人紹介やセミナーなど就労全般をサポートするところです。ハローワークの中には、発達障害を理解している専門チューターを配置し、就職先を探す発達障害のある方に向けて相談業務を展開しているところもあります。

就労移行支援事業所

一般企業への就職を目指す障害のある方(65歳未満)を対象に、就職するために必要なスキルを身につけていただくためのプログラム実施、就職活動から就職のサポート、就職後の職場への定着支援を行う場所です。

就労移行支援の資料をダウンロードする

LITALICOワークスでは「就労移行支援事業所」のサービスを提供しています。そのひとりに合う「働く」をみつけ、そのひとりらしい「やりがい・楽しみ」をみつけられるようサポートします。

 

LITALICOワークスではASDのある方の就職実績も豊富にあります。自分自身の得意や苦手を理解し、対処法を身につけることで、強みを生かすことができる自分に合った仕事を一緒に見つけましょう。

 

働くことでのお悩みがありましたら、ぜひ一度LITALICOワークスにご相談ください。

 

LITALICOワークスへ働くことのお悩みについて相談する

ASDのまとめ

ASDとは、発達障害のうちの一つで、「対人関係・社会性における困難さ」「こだわりの強さや柔軟性の乏しさ」に特性がみられます。

 

ASDにおける困難さは、個の「特性」だけではなく、本人を取り巻く「環境」によっても生じます。

 

そのため、自分の特性や強み・弱みを理解した上で、その特性にあわせた環境を選択したり調整したりすることで、あなたらしい人生を過ごす方法が見つかるかもしれません。

 

もし現在の日常生活で困っていることがあれば、ぜひお近くの病院や支援機関などを活用してみてください。

 

働くことのお悩みについては、ぜひお気軽にLITALICOワークスへご相談ください。

更新日:2023/04/15 公開日:2021/07/20
  • 監修

    鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員

    井上 雅彦 先生

    応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。

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