ADD(注意欠陥障害)は、過去に使用されていた発達障害の診断名です。
現在の診断基準では、ADHD(注意欠如多動症)と呼ばれており、その中の「不注意優勢型」に該当するといわれています。
当記事では、旧診断名であるADD(注意欠陥障害)の特性を含む不注意優勢型ADHD(注意欠如多動症)について、どのような特性があるかや診断基準を解説します。
また、不注意優勢型のADHD(注意欠如多動症)の方が仕事上で意識したいポイントもご紹介していきます。
ADD(注意欠陥障害)は、過去に使用されていた発達障害の診断名です。
現在の診断基準では、ADHD(注意欠如多動症)と呼ばれており、その中の「不注意優勢型」に該当するといわれています。
当記事では、旧診断名であるADD(注意欠陥障害)の特性を含む不注意優勢型ADHD(注意欠如多動症)について、どのような特性があるかや診断基準を解説します。
また、不注意優勢型のADHD(注意欠如多動症)の方が仕事上で意識したいポイントもご紹介していきます。
目次
ADD(Attentin Deficit Disorder with and without Hyperactivity)は、日本語では注意欠陥障害と称されます。
なお、ADDは過去に使用されていた診断名であるため、現在ADD(注意欠陥障害)と診断されることはありません。
まずは、ADD(注意欠陥障害)について、ADHD(注意欠如多動症)の違いと合わせて解説していきます。
「ADD(注意欠陥障害)」という診断名は、1980年に出版されたDSM-Ⅲ(※)上で、はじめて使われるようになりました。
それまでは、主に多動性の症状のみに焦点が当てられていましたが、DSM-Ⅲの改訂では、「注意の持続と衝動性の制御の欠陥」にも注目されるようになりました。
その結果として「ADD(注意欠陥障害)」という概念が使われるようになったのです。
ADD(注意欠陥障害)とADHD(注意欠如多動症)の違いを一言でお伝えするなら、「多動性」や「衝動性」があるかないかです。
DSM-ⅢにてADD(注意欠陥障害)が使われるようになった後、再度、多動性の影響力に注目され、1987年改訂のDSM-Ⅲ-RにおいてADHD(注意欠如多動症)という分類名が生まれました。
このときから、不注意、多動性、衝動性の3つが診断基準として使われるようになります。
また、DSM-Ⅲ-Rが使われるようになった後も、病院によってはADD(注意欠陥障害)と伝えられることがありました。
その理由は、WHO(世界保健機構)が発行している「ICD(国際疾病分類)」という、DSMとは別の分類にADD(注意欠陥障害)という定義が残っていたからです。
ICDにおいては、1990年の改訂までADD(注意欠陥障害)という名称が使われています。
そのため、ADD(注意欠陥障害)ではなくADHD(注意欠如多動症)という診断名が、主として使われるようになったのは、1990年以降といわれています。
ADHD(注意欠如多動症)の特性は、不注意、多動性、衝動性の3つの種類に分けられます。
この項目では、ADD(注意欠陥障害)を含む不注意優勢型ADHD(注意欠如多動症)の特性について解説します。
不注意優勢型ADHD(注意欠如多動症)のある方は、集中力が続かなかったり、気が散りやすくなったりすることがあります。
また、忘れっぽさが目立つ場合もあります。
とはいえ、上記のような症状は誰にでも見られるものです。
しかし、職場でのトラブルに繋がったり、人間関係に問題が出たりなど、日常生活や社会生活において困りごとが起こっている場合は、不注意優勢型のADHD(注意欠如多動症)と診断されることがあります。
不注意優勢型のADHD(注意欠如多動症)では、特性により、下記のような困りごとが見られることがあります。
※上記は一例です。
職場においては「大切な書類を失くしてしまった」や「会議があることを忘れていた」などのケースが起こる可能性があります。
人によっては「頼まれていた仕事が納期に間に合わない」などの状況も考えられます。
上記の症状が続くことによって、自信を失ってしまったり「どうして自分だけ上手くいかないのだろう」と悩んでしまったりする方もいらっしゃいます。
しかし、不注意優劣型ADHD(注意欠如多動症)は、決して本人の努力不足や怠けから起こるわけではありません。
また、工夫をすることで困難に感じる部分をカバーできることもあります。
対処法については、後半の章で解説しております。
不注意優勢型ADHD(注意欠如多動症)に見られる症状は、うつ病などの精神疾患の症状と被っていることがあるため、間違えやすいといわれています。
見分ける際のポイントは「症状がいつから現れているのか」です。
幼少期から症状があった場合は「不注意優勢型ADHD(注意欠如多動症)」、最近症状が出てきている場合は「うつ病などのほかの疾患」と診断される可能性が高いでしょう。
ただし、不注意優劣型ADHD(注意欠如多動症)は、うつ病などの精神疾患と合併しやすいとの報告もあるため、場合によってはどちらにもあてはまるケースもあります。
不注意優勢型ADHD(注意欠如多動症)の診断は、精神科や心療内科で受けることができます。ただし、病院によっては、大人の発達障害を診ていないところもあるので、あらかじめ対応しているかどうかを確認してみるとよいでしょう。また、全国各地に設置されている「発達障害者支援センター」に相談して、診てもらえる病院の情報を教えてもらう方法もあります。
ADHD(注意欠如多動症)は、アメリカ精神医学会の『DSM-5』の診断基準などをもとに診断していきます。
診断方法としては、主に主治医による問診がおこなわれます。ほかにも、医師が必要と判断した場合には心理検査(知能検査など)などの検査をおこなうこともあります。
問診では、今の生活や仕事の中で困っていることや悩みなどについて聞かれたり、子どもの頃の様子や家族関係などについても聞かれる場合があります。問診がスムーズに進められるように、事前に現在の仕事や生活の中で困っていることをメモしたり、小さい頃の様子が分かる母子手帳や通知表などを持参したりするといいでしょう。
ADHD(注意欠如多動症)は生まれ持った脳の特性によるものであることから、現在の医学では治療をしても不注意優劣型ADHD(注意欠如多動症)を根本的に治すことはできません。
しかし「環境調整」や「薬物療法」などを取り入れることで、不注意優劣型ADHD(注意欠如多動症)の症状を和らげ、日常生活や仕事などで感じる困難や苦痛を減らすことは可能です。
環境調整では「物事に取り組みやすい環境に整える」ことをおこないます。
例えば「集中するために耳栓を使う」「やるべきことを書いて目に見える場所に貼っておく」などです。
このように、不注意優勢型ADHD(注意欠如多動症)の症状の影響を受けにくい環境を作り、苦手分野をカバーしていきます。
仕事において工夫できるポイントやスマートフォンのアプリなどを活用した方法は、後の項目でも詳しくお伝えします。
不注意優勢型ADHD(注意欠如多動症)の治療として、薬物療法を取り入れることもあります。
ただし、薬物療法の役割は「スムーズに日常生活や社会生活を送る補助をすること」であるため、まずは先に環境調整などがおこなわれることが多いといわれています。
不注意優劣型ADHD(注意欠如多動症)に用いられる薬にはいくつか種類があるため、かかりつけの医師と相談しながら服用することが大切です。
不注意優勢型ADHD(注意欠如多動症)の症状がある方へ向けて、仕事を続けるうえで大切なポイントについて解説します。
不注意優勢型ADHD(注意欠如多動症)のことを職場の方へ話すとなると「どう思われてしまうだろう」と不安に感じてしまう方も多くいらっしゃるはずです。
しかし、仕事を続けているうちに、症状が重症化したり、精神的につらいと感じてしまったりすることも考えられます。
まわりに理解してくれている人がいると「デスクを集中しやすい場所に移動したい」や「業務の優先順位について意見を聞きたい」などの状況で頼りやすくなります。
また、「事情を知っている人が身近にいる」という状況が精神的な安心感に繋がるケースも十分あり得るでしょう。
そのため、まずは話しやすい方や理解をしてくれそうな方へお話してみるのがいいかもしれません。
先輩や上司のほか、社内カウンセラーや産業医へ相談する方法も合わせて検討してみるとよいでしょう。
仕事の内容を忘れてしまうことがよくある場合は、こまめにメモをとることでカバーできます。
ポイントは、どんなに小さな内容であっても書き留めることです。
例えば、朝に「今日の13時から会議を開くから参加してほしい」と依頼されたとしましょう。
複雑な内容ではないため、つい頭で覚えようとしてしまいますが、ここでもメモをします。
上記のように、すぐにメモを取ったりスマートフォンのスケジューラーに入れて、デスクなどのよく目にするような場所に置いておけば、ふいに別の仕事を頼まれたとしてもうっかり忘れる可能性を低くすることができます。
順序立てて物事をおこなうことが苦手な場合、やることリスト(Todoリスト)を作る方法を取り入れてみましょう。
「やることリストは以下の2ステップで作成する方法がおすすめです」
もしも、優先順位をつけるのが苦手な場合は、できる範囲で上司や先輩に相談してみるとよいでしょう。
人によって、紙に書いて管理する方がやりやすい場合と、アプリやエクセルなどのツールを使った方がやりやすい場合があります。
紙の場合、書き出したリストを常に見える位置に置いておくことや、アプリの場合はアラームが鳴るように設定しておくことも大切なポイントです。
なお、上記は対応方法の一例です。その人によって合う方法は異なります。
自分が取り入れやすい方法を試してみましょう。
不注意優勢型ADHD(注意欠如多動症)の症状をカバーする工夫を取り入れるのは大切なことですが、同時に「無理をしない」「一人で抱え込まない」という点も常に心掛けましょう。
もしも、仕事上のお悩みがある場合「就労移行支援事業所」への相談もご検討ください。
就労移行支援事業所では、障害や精神疾患がある方の就職をサポートしています。
相談にのることはもちろん「報連相などのビジネスマナー」や「上手に頼みごとをする方法」など、仕事をするうえで重要な点が学べるセミナーなども開催しています。
LITALICOワークスも全国各地に就労移行支援事業所を展開し、就職の支援をしています。
パソコンなどのスキルが学べる研修会や転職活動のフォロー、就職後の面談など、幅広い角度から就労をサポートしているため、気になる方は一度お気軽にお問い合わせください。
ADD(注意欠陥障害)の症状としては、「集中力が続かない」や「忘れ物や失くしものが多い」など、注意力の欠如によるものが挙げられます。
ただし、2022年現在、ADD(注意欠陥障害)という診断名はほぼ使われておらず、診断される場合は、ADHD(注意欠如多動症)の不注意優勢型という名称が使用されています。
もしも、注意力が足りないことが原因で、日常生活や職場において困りごとがある場合、ひとりで悩まず、まずは病院などの専門機関へ相談してみましょう。
監修者
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員
井上 雅彦
応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。
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