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ASD(自閉スペクトラム症)とは?特徴や原因などをわかりやすく解説 【専門家監修】

更新日:2024/03/22

例えば、仕事で「曖昧な指示をされると何をしたらいいか分からなくなる」「急な予定変更があると、パニックになってしまう」などのお悩みはありませんか?このようなお悩みが続いていたら、もしかしたらASD(自閉スペクトラム症)の傾向があるかもしれません。

 

ASD(自閉スペクトラム症)とは、コミュニケーションが難しかったり、特定の事柄に強いこだわりがあることで、生活や仕事上の困難が続いている状態のことをいいます。

 

しかし、ASD(自閉スペクトラム症)による困難さは、本人の特性によることだけではなく、本人を取り巻く環境によっても困難さが生じます。そのため、ご自身の特性を理解したり、環境を整えたりすることで、困りごとを軽減することが可能になります。

 

そこで、本記事では、ASD(自閉スペクトラム症)にどのような特徴があるのか、原因や診断基準、相談先などを解説します。

ASD(自閉スペクトラム症))とは?

ASD(自閉スペクトラム症)は、脳の働き方の特徴を示す発達障害のひとつです。発達期(幼児から学齢くらいまでの間)にその特性があらわれますが、大人になってから診断を受ける方の場合、その時期の特徴が分かりにくい場合もあります。

 

ASD(自閉スペクトラム症)の特徴としては、人との関係性の構築やコミュニケーションが難しいこと、興味をもった特定の事柄に強くこだわる行動を示すことなどがあります。具体的な特徴については、後の章にて説明します。

自閉症とASD(自閉スペクトラム症)の違いは?

以前は「自閉症」という診断名以外に、「広汎性発達障害」「アスペルガー症候群」など個別の診断名として分けられていましたが、これらの自閉的特徴を持つ疾患はDSM-5で「自閉スペクトラム障害」として統合されています。

 

2022年(日本語版は2023年)発刊の『DSM-5-TR』では「自閉スペクトラム症」という診断名になりました。この記事では以下、ASD(自閉スペクトラム症)と記載しています。

 

自閉症と自閉スペクトラム症の違いは?

 

この名称に「スペクトラム(境界が曖昧で連続しているという意味)」という言葉が使われているのは、ASD(自閉スペクトラム症)やアスペルガー症候群などの広汎性発達障害にあらわれる状態が、それぞれ独立したものではなく、連続しているものである、ということからスペクトラムと表記されています。このように同じASD(自閉スペクトラム症)でも、特性はそれぞれ違うため、一人ひとりの特性を理解した上、個々に合わせたサポートをしていく必要があります。

 

学術的には「自閉スペクトラム症(ASD:Autism Spectrum Disorder)」ですが、一般的には今も「自閉症」「アスペルガー症候群」などの名称が使われることがあります。いずれにしても、診断基準などは統一されて同じ内容を示す言葉になっています。

ASD(自閉スペクトラム症)の特徴は?

ASD(自閉スペクトラム症)には、いくつかの特徴がありますが、大きく分けると2つの特徴としてまとめられます。ただ、ASD(自閉スペクトラム症)の特性はそれぞれの個人によって表出のしかたが異なります。どういうことが起こりやすいのかを見てみましょう。

対人関係や社会的コミュニケーションの困難

  • 相手の気持ちを想像することが苦手、共感しづらい
  • その場の雰囲気に合った行動、いわゆる「空気を読む」ことが難しい
  • 明確な説明がない、曖昧なものごとやニュアンスについての理解が苦手
  • 言葉以外のコミュニケーション(ボディランゲージ、表情)を読み取ることが難しい
  • たとえ話を本当だと信じてしまうなど比喩や冗談の理解が困難

特定のものや行動における反復性やこだわり、感覚の過敏さまたは鈍麻さ

  • 見通しをもって行動することが難しい
  • 決められたことを守り抜こうとする、強い正義感を持つ傾向がある
  • 臨機応変な対応がしづらく、「適当にする」ということが難しい
  • 日々同じルーティンで過ごすことを好み、楽しいことでも突然のイベントを歓迎しない
  • 興味の対象外のことには、必要であっても取り組むことがなかなかできない
  • 感覚が過敏(ざわざわした場所では人の話を聞き取りにくい、明るい場所はまぶしくて目を開けているのがつらい、わずかな匂いが非常に気になる、など)
  • 人が言ったことばをオウム返ししたり、同じ動作を繰り返したりする
  • ほかの人と一緒に活動するよりも、自分のペースでひとりで過ごすことを好む

※上記は一例です。

大人の場合、特徴があることから起こる困りごと

こうした特徴があることから、大人の場合は仕事の場面で、次のような困り事が起こる場合があります。

 

対人関係や社会的コミュニケーションの困難

  • 仕事には直接関係ないと思われる雑談が苦手なために、うまくすことができず仕事上の人間関係に影響が出てしまう
  • 同僚や上司、部下に対して、直接言っては失礼なことを言ってしまい、関係性がギクシャクしてしまう
  • 「いつもみたいにやっておいて」「なるべく急いで」など、やり方や期限が曖昧な指示がよく分からず、指示をした人の意に沿うことが難しい

特定のものや行動における反復性やこだわり、感覚の過敏さまたは鈍麻さ

  • 急な仕事が発生したときに、先の見通しを立てることが難しくなり、困ってしまったり、融通がきかなかったりする
  • マニュアルにはない事柄が発生したとき、自分で考えて臨機応変に対応することが難しくなり、パニックになってしまう

※上記は一例です。

困りごとが続くことによって併存症や二次障害が起こることも

仕事上で割り当てられた役割を、苦手なことでもなんとかこなそうと努力するあまり、そのための膨大な努力が必要となる場合があり、ほかの人から見えないところで疲れが蓄積することがあります。

 

例えば、臨機応変に対応しなくてはならない仕事や、相手の気持ちを想像することが難しくコミュニケーションがスムーズにいかないことが続くと、肉体的にも精神的にも疲れてしまう場合があります。

 

こうした疲労や精神的なダメージが積み重なって、うつ病や不安症などの精神疾患による併存症や、引きこもりなどの二次障害を発症する場合もあります。

 

これらの困りごとで心療内科や精神科を受診して、ASD(自閉スペクトラム症)だと分かる場合もあります。できれば、併存症や二次障害が起こる前に、困っていることを早めに身近な人や病院、支援機関などへ相談することが大切です。

ASD(自閉スペクトラム症)の原因は?

ASD(自閉スペクトラム症)は器質的な脳の働き方であり、さまざまな遺伝的な要素が複雑に関係しているとされていますが、はっきりとした原因については解明されていません。少なくとも、保護者の育て方や本人の努力不足などによるものではないことは明らかです。

 

ASD(自閉スペクトラム症)には、知的障害を伴うもの・伴わないものがありますが、その特徴の多くは発達期(幼児から学齢くらいまでの間)にあらわれるとされます。

ASD(自閉スペクトラム症)の診断基準は?

アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)に書かれている内容を診断基準として、医師のもとで診断されます。

 

ASD(自閉スペクトラム症)の特性は発達期(幼児から学齢くらいまでの間)にあらわれるため、診断の方法は面談と検査を中心におこないます。そのため、現在困っていることだけでなく、成育歴・病歴・家族・周りの環境などの情報が必要となります。母子健康手帳や育児日記、保育園などの連絡帳、学校の通知表なども資料となります。

 

検査では、ASD(自閉スペクトラム症)に関する特性に基づいた質問に答えていきます。質問項目は非常に多く、1時間以上かかる場合もあり、また1回だけでは判断されず、2~3回の面談・検査がおこなわれることが多くあります。

 

このように、さまざまな情報を集めて総合的に診断されます。大人の発達障害は診断されるまで、時間がかかることが多いです。

ASD(自閉スペクトラム症)かもと思ったときは?

子ども時代に、とくに困ることがなくても、大人になってから仕事上や対人関係での困りごとが増え、「ASD(自閉スペクトラム症)なのでは」と気づいたりする場合もあります。

 

例えば、子ども時代には気の合う仲間だけで付き合っていればよかったのが、会社などの組織の中で、話がうまくかみ合わない人ともコミュニケーションをとらなくてはならないことが起こります。

 

こうしたことが起きたとき、「なぜこんなにうまくいかないのだろう」と悩むうちに、インターネットの情報などでASD(自閉スペクトラム症)の特徴を知り、自分に当てはまることが多いと気づくことがあるかもしれません。そこで、困りごとを軽減させるためには、どのような考え方や相談先があるかを解説します。

生活や仕事上での困り事を軽減させるには

このようにして起こる困りごとは、ASD(自閉スペクトラム症)の特性だけでなく、本人を取り巻く環境による場合もあります。周囲の人がその人の特性を個性と理解することで、その人に合うような仕事や生活方法が提供されるような環境では、ASD(自閉スペクトラム症)であることによってそれほど困ることなく生活できるでしょう。

 

逆に、目立つほどの特性はなく、ある程度の努力でカバーすることができたとしても、周りの理解がない環境下では頑張り続けることが非常に負担になってしまうこともあります。

 

社会モデルの考え方

 

つまり、生活上での困りごとを軽減させるには、以下がポイントになっていきます。

  • 今の困りごとは何かを整理する
  • ご自身の特性を理解する
  • ご自身に合った対処法や適した環境(※)とは何かを知る
(※)ここでいう「環境」とは、バリアフリーなどの物理的な環境面だけでなく、仕事内容や仕事の進め方などさまざまな意味を含んでいます。


困りごとが続いていて、一人で解決することが難しいこともあるかもしれません。そのようなときにはひとりで抱え込まず、誰かに相談してみましょう。

ASD(自閉スペクトラム症)について相談できる場所

生活や仕事上での困りごとについて解決できずに困っている場合には、サポートをしてくれる相談先があります。

 

地域若者サポートステーション(サポステ)

働くことに不安を感じた場合、地域若者サポートステーションに相談してみるといいでしょう。対象者は障害有無を問わず、働くことに踏み出したい15歳~49歳までの方としています。そのほか、就職に向けてコミュニケーション講座などの支援をおこなっています。

 

発達障害者支援センター

各地に発達障害者支援センターが設置されています。ASD(自閉スペクトラム症)を含めた発達障害に関する総合的な相談をしたい場合は、発達障害者支援センターへいってみてもいいでしょう。どのような医療機関が合っているのかなども相談できます。まだ発達障害の診断がついていない方の利用も可能です。

 

障害者就労・生活支援センター

就労面だけではなく生活面についてもサポートをおこなっています。生活や仕事上でのお悩みについて相談したい場合は障害者就労・生活支援センターへ相談してみるといいでしょう。利用にあたっては、障害者手帳をもっていない場合でも利用できる可能性があるため、まず最寄りの施設に利用できるかどうか確認してみましょう。

 

病院(精神科や心療内科)

ASD(自閉スペクトラム症)かどうかの診断を受けたい場合は病院へ相談しましょう。その際は精神科や心療内科を受診するといいでしょう。発達障害専門の外来を設けている病院もあります。発達障害の診断を受けることで、自分の特性への理解が深まったり、障害福祉サービスで支援を受けられる可能性も出てきます。

地域障害者職業センター

地域障害者職業センターとは、障害のある方の職業リハビリテーションをおこなっている専門機関で、各都道府県に設置されています。具体的には、職業準備支援やジョブコーチによる支援などがあります。

ハローワーク

ハローワークには、障害のある方などの就労を支援する「専門援助部門」という窓口があります。就職に関する相談や情報提供、障害や疾患がある方を対象とした求人の紹介などをおこなっています。

就労移行支援

就労移行支援は、就労をサポートする、障害福祉サービスのひとつです。一般企業への就職のために必要となる知識や能力を高められたり、自己理解を深め自分に合った仕事を見つけるサポートをおこなっています。診断書があれば、手帳を持っていなくても利用できる可能性があります。具体的な支援内容は事業所ごとによって異なります。

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※子ども(18歳未満)の場合
病院を受診したい場合、発達障害の専門クリニックや病院の小児神経科で受けることになります。相談については、定期健康診断のときや発達相談、かかりつけの小児科医に相談するといいでしょう。

ASD(自閉スペクトラム症)についてまとめ

ASD(自閉スペクトラム症)によって生じる生活や仕事上での困難さは、自分では分かっていてもどうにもできないことがあります。特に大人になってから気づいて、対処法が分からないといった場合には、適切な支援を味方にすることが大切です。

 

ASD(自閉スペクトラム症)かもしれないと思ったときは、まず上記のような相談機関へ相談するといいでしょう。困ったときには一人で抱え込まないで、相談してみる一歩を踏み出してみましょう。

ASD(自閉スペクトラム症)の方の就職支援について

LITALICOワークスでは、就労移行支援事業所を運営しています。就労移行支援事業所とは、障害のある方が就労に向けてサポートする、障害福祉サービスのひとつです。障害者手帳の有無に関わらず、医師や自治体の判断などにより、就職に困難が認められる方も利用することができます。働くことのお悩みがあれば、いつでもLITALICOワークスへご相談ください。

 

※発達が気になるお子さんがいる場合は、その子どもにあわせた教育を提供する「LITALICOジュニア」があります。

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更新日:2024/03/22 公開日:2023/01/25
  • 監修者

    鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員

    井上 雅彦

    応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。

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