仕事において「あいまいな指示が理解できない」「職場の人と会話が続かない」「同じようなミスを繰り返してしまう」などのお悩みがあるときに「もしかして発達障害?」と疑うことは決してめずらしいことではありません。
近年では、発達障害に関する情報がTVや雑誌などで紹介されていることからも「自分も発達障害かもしれない」「発達障害かどうか知りたい」と思っている方もいるのではないでしょうか。
今回は、発達障害について、種類や特徴、診断や相談先についてご紹介します。
仕事において「あいまいな指示が理解できない」「職場の人と会話が続かない」「同じようなミスを繰り返してしまう」などのお悩みがあるときに「もしかして発達障害?」と疑うことは決してめずらしいことではありません。
近年では、発達障害に関する情報がTVや雑誌などで紹介されていることからも「自分も発達障害かもしれない」「発達障害かどうか知りたい」と思っている方もいるのではないでしょうか。
今回は、発達障害について、種類や特徴、診断や相談先についてご紹介します。
発達障害とは、生まれつきみられる脳機能の発達の偏りによって生じる特性によって、生活上の困難が続いている状態のことをいいます。
たとえばこういった困りごとを感じる方がいます。
こういった困りごとが長期にわたって継続している場合には、もしかしたら発達障害かもしれません。
近年「大人の発達障害」という言葉をよく耳にするようになりました。大人の発達障害とは一般的に「大人になってから発達障害であることが分かった」という意味で使われることが多い言葉です。
発達障害は生まれつきの特性であるため、大人になってから発症するものではありません。しかし、子どもの頃は周囲の理解やサポートが得やすく、環境が整っていたなどの理由により、日常生活での困りごとが少なく発達障害に気づかなかった可能性が考えられます。
しかし、大人になってから仕事などの社会生活を通じて困りごとを感じた方が、発達障害に気づくことも少なくありません。
発達障害は、大きく分けて3つあります。
発達障害は、同じ診断名であっても一人ひとり特性が異なります。また、複数の発達障害が併存している場合もあります。
ASD(自閉スペクトラム症)は、「対人関係や社会的コミュニケーションの困難」と「特定のものや行動における反復性やこだわり、感覚の過敏さまたは鈍麻さ」などの特性が幼少期からみられ、日常生活に困難を生じる発達障害のひとつです。知的障害(知的発達症)を伴うこともあります。幼少期に気づかれることが多いといわれていますが、症状のあらわれ方には個人差があるため就学期以降や成人期になってから社会生活において困難さを感じ、診断を受ける場合もあります。
ADHD(注意欠如多動症)は、不注意、多動性、衝動性などの特性があり、日常生活に困難を生じる発達障害のひとつです。特性のあらわれ方によって多動・衝動性の傾向が強いタイプ、不注意の傾向が強いタイプ、多動・衝動性と不注意が混在しているタイプなど主に3つに分けられ、これらの症状が12歳になる前に出現します。特性の多くは幼い子どもにみられる特徴と重なり、それらと区別することが難しいため、幼児期にADHDであると診断することは難しく、就学期以降に診断されることが多いといわれています。また、個人差はありますが、年齢と共に多動性が弱まるなど、特性のあらわれ方が成長に伴って変化することもあります。
LD・SLD(限局性学習症)は、学習における技能に困難さがみられる発達障害の一つです。読むことやその内容を理解することの困難さ、書くことの困難さ、数の理解や計算をすることの困難さなど大きく3つの分類があります。これらの困難が、知的障害(知的発達症)によるものでないこと、経済的・環境的な要因によるものでないこと、神経疾患や視覚・聴覚の障害によるものではないこと、学習における面のみでの困難であること、という場合に限り診断されます。
学校教育が始まる就学期になって診断されることがほとんどですが、就学前の段階で言語の遅れや数えることの困難、書くことに必要である微細運動の困難などがあることでその兆候に気づかれることもあります。
読むことやその内容を理解することの困難さがある場合は「読字障害(ディスレクシア)」、書くことの困難さがある場合は「書字表出障害(ディスグラフィア)」、数の理解や計算をすることの困難さがある場合は「算数障害(ディスカリキュリア)」といいます。それぞれどのような特徴があるのか説明します。
読字障害があると「読む」ことが難しいと感じます。まったく読めないのではないけれども、正確に読むことや、スムーズに読むことに難しさを感じる場合もあります。人によって見え方が異なりますが「文字がぼやけて見える」「鏡文字に見える」などがあります。
書字表出障害があると「書く」ことが難しいと感じます。書字表出障害の症状の現われ方や苦手なことは人それぞれですが、代表的な症状としては「誤字脱字が多い」「文字の大きさがバラバラになる」「文字がマス目から大きくはずれてしまう」などがあります。
算数障害があると、数字や数式を理解することが難しいと感じます。たとえば「数字を数えられない」「時計が読めない」「図形やグラフを理解するのが難しい」などがあります。
発達障害における困難さは、個の「特性」だけではなく、本人を取り巻く「環境」によって起きています。
実際には顕著な特性があったとしても、その特性を理解してくれる人の存在や苦手を補える仕組みによって、生じる困難さは軽減され、生きやすいという方もいます。
つまり、発達障害における困難さがどの程度生じるのかは、個の特性だけでなく周囲の環境にも影響されるのです。そのため、周囲の環境を整えることによって、発達障害の特性が起因して生じている困難さを減らすことが可能になります。
「自分は発達障害かもしれない」と感じたとき、どこに相談し、病院やクリニックはどのように選べばよいのだろうと悩む方もいるかもしれません。
また、病院に行った場合は、どのような検査を受け、何を聞かれるのかと不安になったり、そもそも受診するかどうかを迷っているという方もいるのではないかと思います。
ここでは、発達障害の診断について、相談先や診断までの流れについて説明します。
発達障害の診断ができるのは医療機関のみです。診療科としては「精神科」や「心療内科」で診断を受けますが、すべての精神科や心療内科で発達障害の診断が受けるとは限らないため、あらかじめインターネットや発達障害者支援センターなどで情報を確認しておくとよいでしょう。
発達障害の診断の際には、まずは主治医による問診がおこなわれます。問診では、今の生活の中で困っていることや悩みについて話します。ほかにも、子どもの頃の様子、家族関係、学校生活でのできごとなどについて聞かれる場合もあります。
発達障害の診断には、アメリカの精神医学会が発行している「DSM-TR(精神疾患の診断・統計マニュアル)」が使用されます。ほかにも、医師が必要と判断した場合には知能検査や心理検査、CTやMRIなどの生理学的な検査をすることもあります。
このように、医師は問診で得た情報や検査結果などを総合的に判断したうえで、発達障害と診断します。そのため、特に「大人の発達障害」の場合は、診断までに時間がかかる場合もあるようです。
発達障害と診断されることでどのようなメリットがあるのかを理解したうえで、医療機関を受診したいと考えている方もいるのではないかと思います。
ここでは、発達障害の診断を受けることで得られるメリットについて説明します。
診断をきっかけに、ご自身の特性について理解を深めることができます。そのため、困りごとへの対策を練ったり工夫することができるようになります。また、これまで「自分の性格のせいだ」とか「努力不足だ」と思っていたことについても、発達障害の特性が関わっていると分かることで、気持ちが楽になる方もいます。実際に、ご自身の特性を理解したうえで職場に相談したことで、必要なサポートを受けることができ仕事がうまくいくようになったという例もあります。
発達障害に関して定期的な通院が必要な場合には、自立支援医療制度の「精神通院医療」を活用できる場合があります。自立支援医療制度とは、障害や疾患の治療に対する医療費の自己負担を軽くする制度です。
発達障害の診断を受けることで障害福祉サービスの対象になる可能性があります。対象になると生活や就労面でのサポートの幅が広がります。
発達障害の診断を受けて、障害者手帳を取得すると「障害者求人への応募」を選択肢の1つとして検討することができるようになります。
「発達障害のグレーゾーン」とは、発達障害の特性や傾向がみられるものの診断基準を満たさないため、発達障害の診断がつかない状態を指します。医学的に定義された診断名ではありません。
発達障害の方が、無理なく仕事を続けるために工夫できるポイントについて、解説します。
これまでお伝えしてきたとおり、発達障害によって困りごとが生じるかどうかは、個人の特性だけではなく、ご本人を取り巻く環境にも大きく影響されます。そのため、今ある困りごとやご自身の特性を理解すること、そしてご自身にあった対処法や適した環境を知ることが大切なポイントになります。
ここでは、1つの事例をあげて説明していきます。
【特性】
【生じている困難さ】
【自己対処の方法】
【会社側にお願いした配慮】
【結果】
このように、発達障害の方が無理なく働くために
を明確にすることが大切なポイントになります。自分一人で抱え込まず、まずは職場の方や産業医へ相談することから始めてみてもよいでしょう。解決することが難しい場合、支援機関を活用するというのも選択肢のひとつです。支援機関については次の章で説明します。
「環境を変える」と聞くと異動や転職などを連想しがちですが、それだけではなく、たとえば席の配置や向き、仕事の役割・分担、相談方法などをご自身に合ったものにしてもらうことも「職場環境を調整する」といいます。
発達障害があることを周囲に知られるのには抵抗感がある、という方もいるかもしれません。その場合にも、「こういう仕事は得意」「こういう依頼の仕方をしてもらえるとやりやすい」といったことをあらかじめ周囲に知らせておくことで、無理な業務を振られることを避けたり、業務につまづいている場合などに理解してもらいやすい可能性があります。
障害があるという伝え方ではなく、こういった仕事だとやりやすいというニュアンスで伝えてみるのも1つの方法かもしれません。
働くことをサポートしているLITALICOワークス(就労移行支援事業所)では、これまで発達障害のある方の就職をサポートしてきました。詳しくは以下の関連ページより参照ください。
ここでは、発達障害かも?と思ったときに利用できる相談先についてご紹介します。
発達障害に関する総合的な相談先としては発達障害者支援センターがあります。発達障害者支援センターでは、発達障害の方やそのご家族からの相談を受け付けています。さらに、まだ診断がついていない方の利用も可能です。
具体的な支援内容はセンターにより異なりますが、一般的には日常生活の中で困っていることについて相談できたり、就職についての情報提供やアドバイスを得られたりします。
ここからは、発達障害の方が就職を希望する際に、利用できるサービスについてご紹介します。
障害者就業・生活支援センターでは、障害のある方の就業面と生活面についてサポートをおこなっています。利用にあたっては、障害者手帳をもっていない場合でも利用できる可能性があるため、まず最寄りの施設に利用できるかどうか確認してみましょう。
地域障害者職業センターとは、障害のある方の職業リハビリテーションをおこなっている専門機関で、各都道府県に設置されています。具体的には、職業準備支援やジョブコーチによる支援などがあります。
ハローワークには、障害のある方などの就労を支援する「専門援助部門」という窓口があります。窓口への相談は障害者手帳がなくてもできます。就職に関する相談や情報提供、障害者手帳をもっている方を対象とした求人の紹介などをおこなっています。
就労移行支援は、障害福祉サービスの1つです。一般企業への就職のために必要となる知識や能力を高められたり、自己理解を深め自分に合った仕事を見つけるサポートをおこなっています。診断書があれば、障害者手帳をもっていなくても利用できる可能性があります。具体的な支援内容は事業所ごとによって異なります。
LITALICOワークスでは「就労移行支援事業所」を運営しています。これまで、多くの発達障害の方の就職をサポートしてきました。
個人の特性によって生じる困難さを理解し、自分でできる対処法や自分に合う職場環境を知ることができるようにサポートしています。具体的には、自己理解を深めるプログラムや職場への体験実習(インターンシップ)などをおこなっています。また支援スタッフが職場環境へ働きかけることで合理的配慮を得るためのサポートもしています。
働くことへお悩みがある方、まずはお気軽にLITALICOワークスへご相談ください。一緒に「自分らしく働く」ことを考えてみませんか?
発達障害における困難さは「個人の特性」だけではなく、本人を取り巻く「環境」によって起きています。ご自身でできる対処法を身につけるだけではなく、周囲の理解や配慮を得て環境を調整することで、困りごとが軽減され、無理なく仕事を続けることが可能になります。
生活の中で困りごとが続いている場合、またご自身が発達障害かもしれないと悩んでいる場合は、発達障害者支援センターなどの専門機関に相談するといいでしょう。
そして「就職活動に自信がない」「自分らしく働きたい」「自分に合う仕事を見つけたい」などのお悩みがあるときは、ぜひLITALICOワークスへご相談ください。
監修者
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員
井上 雅彦
応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。
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