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お役立ち仕事コラム

場面緘黙とは?症状や治療方法・仕事選びについて解説

更新日:2024/08/11

「学校や職場などの、特定の場面・状況になると、話すことができなくなってしまう。」

 

その症状は、「場面緘黙(※)」という精神疾患かもしれません。

 

子どもの頃に発症する人が多く、大人になってから発症するケースは少ないですが、子どもの頃に発症したものが、性格の問題だと見なされ、治療せずに大人になり、職場などで苦しい思いをされている方もいると言われています。

 

この記事では、場面緘黙の症状・治療方法・取り組みやすい仕事などについて解説していきます。

 

(※)以前は「選択性緘黙」という名称もありましたが、2018年に日本場面緘黙関連団体連合は、DSM(精神疾患の診断・統計マニュアル)とICD(国際疾病分類)の和訳を『場面緘黙』に改定することを求め、『DSM-5-TR』では正式な診断名になりました。

場面緘黙とは?

場面緘黙(ばめんかんもく)とは、特定の社会的場面(学校や職場など)で話すことができなくなる精神疾患の一つです。

 

生活場面全体にわたって話すことができない場合は、「全緘黙」と呼びますが、場面緘黙の場合は、すべての場所で話せないという訳ではありません。

 

家庭など、ほかの場面や場所では普通に話すことができます。

 

典型的な例としては、「家の中では家族と問題なく話すことができるが、家族以外の人と、学校や職場で話すことができなくなる」という状態があげられます。

場面緘黙は「性格」によるものと誤解されやすい

場面緘黙の場合、全く話せないという訳ではないので、「わざと話さない」とよく誤解されがちですが、決して自分の意志で話さないことを選んでいる訳ではありません。

 

自分から話す場面を人に見られたり、聞かれたりすることに対して、強い不安や恐怖を感じます。

 

「話したい、意見を言いたい、話さなきゃ」と本人が思っていたとしても、話せないという疾患です。

場面緘黙の原因とは?

場面緘黙の原因や発症メカニズムは、まだ研究段階で、正確なことは分かっていないのが現状です。

 

「不安になりやすい」「緊張しやすい」などの生物学的要因がベースにあって、そこに心理的要因や社会的要因、文化的要因などが複合的に影響していると考えられています。

 

とくに子どもの場合は、入園・入学や進級などによる環境の変化や、いじめを受けたことをきっかけに、不安感が急激に高まって、発症してしまうケースもあります。

大人の場面緘黙

場面緘黙は、子ども時代に発症するケースがほとんどです。

 

そのため、話せないのは本人の性格によるものだとして、見過ごされてしまいがちという側面もあります。

 

まれなケースとして、大人になってから場面緘黙症を発症することもありますが、子どもの頃からの症状が見過ごされ、そのまま大人になっても症状が持続しているというケースが多いのではないかと考えられています。

 

職場において、上司・同僚とのコミュニケーションがうまく取れなかったり、会議の場で発言できなかったりと、業務に支障をきたすことになります。

 

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場面緘黙の症状

場面緘黙は、特定の場面で話せなくなること(緘黙)に加えて、身体を思ったように動かせなくなる「緘動(かんどう)」という症状が現れます。

 

ここでは、場面緘黙の子ども(小学生・中学生・高校生)にあらわれる症状と大人にあらわれる症状についてみていきます。

小学生・中学生・高校生の症状

子どもにとって、学校という場所は、自宅と比べて多くの緊張や不安を覚えやすい場所なので、場面緘黙の症状が現れやすい場所と言えます。

 

例えば、学校生活内で以下のような症状が現れます。

 

  • 先生にあてられても発言できない
  • トイレに行きたいと言い出せない
  • 教科書の音読ができない
  • 緊張しやすい
  • 不安になりやすい
  • クラスメイトから話しかけられても答えられない
  • 集団の中で常に目立たないようにしている
  • 体育の授業中に思うように身体を動かせない など

大人の症状

大人の場合、日常生活に加えて、特に仕事上で場面緘黙による症状が現れやすいと言えます。

 

大人の場面緘黙の症状の例は以下の通りです。

 

  • 不安になりやすい
  • 緊張しやすい
  • 上司・同僚からの質問に答えることができない
  • 緊張した状況下で書類を提出することができない
  • 業務を指示されたとき、理解できなかったのに聞き返すことができない
  • 会議や打ち合わせの場で、発言することができない
  • 休憩中の同僚との雑談に入ることができない など

 

場面緘黙の診断基準

場面緘黙は、アメリカ精神医学会の診断基準「DSM-5」(精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版)では「不安症群」に分類されています。

 

場面緘黙の診断のポイントは、「ある状況では問題なく話すことができるが、特定の状況になると話せなくなる」という点です。

場面緘黙があると、家庭などでは話せるにもかかわらず、学校や会社など言語コミュニケーションが期待される場で1ヶ月以上にわたって話すことができず、社会生活に影響を及ぼします。

 

ただし、声に出して話すことはなくても、指差しなどの非言語、筆談やカードなどの代替手段によって、コミュニケーションをとることには問題がなかったり、本人がそれを求めたりする事もあります。

 

なお、診断にあたっては、言葉の知識不足や、コミュニケーション症、ASD(自閉スペクトラム症)、統合失調症などほかの精神疾患によるものではないことが確認されます。

 

※以前は「自閉症スペクトラム」という名称が用いられることもありましたが、アメリカ精神医学会発刊の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)において自閉的特徴を持つ疾患が統合され、2022年(日本語版は2023年)年発刊の『DSM-5-TR』では「自閉スペクトラム症」という診断名になりました。この記事では以下、ASD(自閉スペクトラム症)と記載しています。

場面緘黙治療方法と似たような症状

ここでは、場面緘黙の治療方法と、似たような症状について解説していきます。

場面緘黙と似た症状の病気・疾患

場面緘黙のほかにも、話せなくなってしまう症状のある疾患がいくつかあります。

場面緘黙の特徴は、家庭では話せるのに、職場や学校では話せないといった、「状況によって、普通に話せる場面と話せない場面がある」という点です。

  • 社会不安障害(SAD):不安障害のひとつ。人前で話すことなどに強く不安や緊張を感じ、震え・動悸・吃音などさまざまな症状が表れる。
  • 全緘黙:家庭を含むすべての生活場面で話せなくなる。
  • トラウマ性緘黙:ショックな出来事の後、急激に全緘黙になる。急性ストレス障害のひとつ。
  • 吃音症:言葉が円滑に話せない言語障害のひとつ。
  • 失声症:ある日突然声が出なくなる症状で、思春期や更年期の女性に発症が多い。

専門医に相談、病院での治療が大切

場面緘黙の場合は、精神科・心療内科を受診します。

 

大切なのは、きちんと専門家に相談し治療をおこなうことです。

 

場面緘黙なのか、そのほかの疾患なのか、自分だけで正確に判断することは難しいでしょう。

 

また、場面緘黙がある人は、うつ病や発達障害などを併存している可能性もあり、それぞれにあった治療をおこなう必要があります。

 

不安症や発達障害に詳しい医師、心理士、言語聴覚士が在籍しているクリニック、教育相談センター、精神保健福祉センターなどに相談することを推奨します。

場面緘黙の治療方法

場面緘黙の治療方法は、一種類だけではありません。いくつか代表的なものを紹介します。

 

認知行動療法

自身の考え方や行動のクセや特徴を把握して、どのようにすれば症状を和らげることができるのか?ストレスを軽減することができるのか?を考えていく治療方法です。

 

海外の治療実績で、場面緘黙の治療にも効果があると報告されています。

 

薬物療法

不安症の治療などに用いられるSSRIという抗うつ剤が有効であると言われていますが、これは、うつ状態や不安症状を緩和・軽減する効果が期待できるだけで、場面緘黙自体を治療改善するものではありません。

 

その他の心理療法

カウンセリングやロールプレイなどを通じて、治療・トレーニングをおこなう方法があります。

 

言語聴覚士によるサポート

言語聴覚士は、言葉や聴覚に関する問題に、身体機能の面から支援をしてくれるプロフェッショナルです。

 

一人ひとりにあったトレーニング方法などを支援してくれます。

 

場面緘黙の治療には、周囲の理解・協力が不可欠

場面緘黙の治療は、いずれの治療方法を用いたとしても、すぐに治るものではなく、数年単位を要するケースも多くあります。

 

本人だけでなく、保護者や学校の先生と連携しながら、職場の人にも理解をしてもらうことも必要です。

 

場面緘黙の治療には、「スモールステップ(一気に治すのではなく、段階的な治療・訓練を経て、ゆっくり改善させる)」という考え方が大切にされています。

場面緘黙のある方の仕事選びは?

前提として場面緘黙のある方の中にも、一人ずつ得意なこと不得意なことがあり、好き嫌いがありますので、必ずしもこの仕事がいいというわけではありません。

この前提の元、場面緘黙のある方にとって、比較的取り組みやすいことが多いと思われる職業をいくつか紹介します。

  • 工場・倉庫での作業(梱包・配送準備・ライン作業・ピッキングなど)
  • Webサイト制作(コーディング・デザイン・プログラミングなど)
  • 清掃員
  • ホテルのベッドメイキング
  • システムエンジニア
  • ポスティング
  • イラストレーター、漫画家、アニメーター、作家などのクリエイティブな仕事
  • 図書館司書 など

基本的に、場面緘黙の症状である「特定の場面で話せなくなってしまう」ということを考え、極力仕事中に誰かと話さなければいけない状況が少ない仕事が、取り組みやすい仕事と言えるでしょう。

 

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場面緘黙は、医学的には、不安症群に分類されていますが、国の基準では「発達障害者支援法」の支援対象に含まれているため、下記のような支援を受けることができます。

  • 精神障害者手帳 ※各種福祉サービスの利用可、障害者雇用で働くことができる
  • 就労移行支援 ※障害のある方の就職をサポートする福祉機関
  • 自立支援医療(精神通院)※治療にかかる医療費負担が1割に軽減される

 

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場面緘黙のまとめ

場面緘黙は、一気に改善しようと無理をしてしまうと、逆効果になってしまいますので、少しずつ無理のない範囲で治療を進めていくことが大切です。

 

また、専門のクリニックで場面緘黙と診断された場合は、発達障害者支援法の支援を受けることが可能です。

 

一人で抱え込まずに、福祉サポートも活用していくことが大事です。

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場面緘黙などで働くことにお悩みの方への支援として「就労移行支援」があります。


就労移行支援とは障害のある方の就職をサポートする福祉機関のひとつです。

 

LITALICOワークスでは障害のある方が自分らしく働くためのサポートをおこなっています。

 

LITALICOワークスでは学習障害のある方の就職実績も豊富にあります。周囲との連携を上手く取る方法や働くうえでの工夫の仕方などを理解し、自分に合った仕事を一緒に見つけましょう。


働くことでのお悩みがありましたら、ぜひ一度LITALICOワークスにご相談ください。

 

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更新日:2024/08/11 公開日:2022/10/17
  • 監修者

    鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員

    井上 雅彦

    応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。

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