「好きなことには元気に取り組めるのに、嫌なことはやる気が出ない」
「気分の浮き沈みが激しい」「いくら寝ても眠い」などの症状に悩むことはありませんか。
このような症状が日常生活の妨げになっている場合、非定型うつ病の可能性も考えられます。
非定型うつ病とはうつ病の一種で、従来型のうつ病とは異なる症状が表れる疾患です。
この記事では、非定型うつ病の症状、従来のうつ病との違い、非定型うつ病の診断基準や治療方法などについて解説します。
「好きなことには元気に取り組めるのに、嫌なことはやる気が出ない」
「気分の浮き沈みが激しい」「いくら寝ても眠い」などの症状に悩むことはありませんか。
このような症状が日常生活の妨げになっている場合、非定型うつ病の可能性も考えられます。
非定型うつ病とはうつ病の一種で、従来型のうつ病とは異なる症状が表れる疾患です。
この記事では、非定型うつ病の症状、従来のうつ病との違い、非定型うつ病の診断基準や治療方法などについて解説します。
非定型うつ病とは、うつ病の種類のうちの一つです。ここでは非定型うつ病の症状や、一般的によく知られているうつ病(従来型のうつ病)との違いについて説明します。
非定型うつ病とは、従来型のうつ病の症状にはあてはまらない症状が表れるうつ病のことです。非定型うつ病は俗に「新型うつ病」と呼ばれることもありますが、医学用語ではありません。
従来型のうつ病は40~50歳代の人に多くみられるのに対し、非定型うつ病は20~30歳代の人に多いという特徴があります。
非定型うつ病のもう一つの特徴は、自分にとって嫌なこと、苦手なことがある場合のみうつ症状が表れ、好きなことや楽しいことがある場合は元気になることです。
例えば仕事に悩みがある場合は、仕事のときだけうつ症状が表れるため、職場に行けなくなるほどつらい思いをすることがあります。
非定型うつ病では、従来型のうつ病と比べて症状の表れ方によって治療法が異なるため、「非定型うつ病かもしれない」と思っても自己判断せず、医療機関で診断を受けることが大切です。
非定型うつ病は複数の要因が関係して発症に至ると考えられていますが、その原因はまだ解明されていません。
要因となる可能性として考えられているものには、不安になりやすい気質や対人恐怖の傾向、多忙や運動不足・睡眠不足、情報過多などの社会状況、脳のストレスを受け止める部位や社会性・感情をコントロールする部位の機能低下などがあります。
非定型うつ病では、ほかのタイプのうつ病に比べて、家族にうつ病のある人がいる割合が多いという調査結果もあります。しかし、家族であれば生活習慣や性格も似ていることが考えられるため、必ずしも「非定型うつ病では遺伝的要因が強い」とはいえません。
非定型うつ病は、従来型のうつ病とは症状が異なるため、非定型うつ病の人は誤解されやすい傾向にあります。
大きな理由のひとつは、従来型のうつ病ではいいことがあっても気分が晴れないのに対し、非定型うつ病では好きなことや楽しいことがあるときは明るい気持ちになるためです。そのため周囲の人たちから「本当はうつ病ではなく、怠けているだけ」などと誤解されることがあります。
非定型うつ病の人が好きなことをしているときなどに明るい気持ちになれるのは、決して甘えや怠けではなく、非定型うつ病の典型的な症状の一つです。
もし身近に非定型うつ病の人がいる場合は、本人が楽しんでいる様子を見ても「怠け」という言葉を使って非難することは控えましょう。
ここでは、非定型うつ病と従来型のうつ病の症状の違いについて説明します。
非定型うつ病の症状では、抑うつ気分が表れることについては従来型のうつ病と同じです。しかしそのほかの症状は、従来型のうつ病とは正反対ともいえる症状が表れることがあります。
例えば前述のように、従来型のうつ病では好きなことでもやる気が起きないのに対し、非定型うつ病では好きなことや楽しいことがあると元気になる場合があります。
抑うつ気分は、従来型のうつ病と共通している症状です。非定型うつ病でも、「気分が落ち込んでいる」「憂うつである」「悲しい」などと感じる「抑うつ気分」と呼ばれる症状がみられることがあります。
従来型のうつ病では、好きなことや楽しいことがあっても抑うつ気分が続きます。一方、非定型うつ病には「気分反応性」という特徴があります。気分反応性とは、周囲の状況に反応して気分が変わることを指します。
周囲の状況に反応して気分が変わるのは普通のことですが、非定型うつ病のある人は気分反応性が強いとされています。好きなことや楽しいことがあると気分がよくなる一方、嫌なことがあると気分が落ち込みます。この気分の浮き沈みが一般的な人の場合よりささいなことで起こり、また気分の浮き沈みの幅も激しいのが非定型うつ病の症状の特徴です。
従来型のうつ病では有意の食欲低下や体重減少(または増加)がみられる傾向にあります。一方非定型うつ病では、食欲の低下や体重の減少はみられず、有意の食欲増加や体重増加がみられることがポイントです。
従来型のうつ病の症状の一つには、寝つきが悪い、または早朝に目が覚めてしまうなどの睡眠障害がみられます。一方、非定型うつ病では、過眠の傾向がみられます。夜間睡眠や昼寝の合計時間が、少なくとも10時間以上になります。
従来型のうつ病では、他者ではなく自分自身を責める傾向がみられます。一方、非定型うつ病は、周囲の人たちの言動に過剰に反応して深く傷ついてしまう「拒絶過敏性」があります。また、突発的に怒りが出てくることもあり、その後に自己嫌悪におちいって抑うつ状態になる場合もあります。
双極性障害(双極症)は、かつて「躁(そう)うつ病」と呼ばれていた疾患です。名前に「うつ」が入っていますが、うつ病とは異なる疾患であり、治療法も異なります。
※双極性障害は現在、「双極症」という診断名となっていますが、最新版『DSM-5-TR』以前の診断名である「双極性障害」といわれることが多くあるため、ここでは「双極性障害(双極症)」と表記します。
双極性障害(双極症)では、躁状態と抑うつ状態が繰り返し表れます。躁状態のときには気分が異常に高まり、以下のような症状がみられることがあります。
一方抑うつ状態では、以下のような症状がみられる場合があります。
非定型うつ病の気分反応性の「気分の浮き沈み」は、双極性障害(双極症)の躁状態と抑うつ状態との鑑別が難しいことがあります。
非定型うつ病は従来の典型的なうつ病とは症状が異なるため、うつ病だとは思わず「自分の気の持ちようのせいかもしれない」「がんばりが足りない」などと思っている人もいるかもしれません。
しかし非定型うつ病のつらさは疾患の症状によるものであり、適切な治療を受けることが大切です。
「非定型うつ病かもしれない」と思ったら自己判断せず、医療機関を受診しましょう。非定型うつ病の診断は、精神科や心療内科などの医療機関で受けることができます。医療機関は、厚生労働省が公開している全国医療機関検索ページで探すことができます。
非定型うつ病を含む精神疾患の診断には、世界共通の診断基準として、アメリカ精神医学会の「DSM-5」が用いられています。「DSM」は「Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders」の略で、日本語では「精神障害のための診断と統計のマニュアル」と呼ばれています。
非定型うつ病では、気分の落ち込みはあるものの、うれしいこと・楽しいことがあると一転して気分がよくなります。また、有意な体重増加または食欲増加、過眠、身体が鉛のように重く感じられる、社会生活で対人関係の拒絶に敏感で社会生活などで障害となる、などの状態が複数みられることが特徴です。
インターネット上には、非定型うつの症状を挙げ、非定型うつ病にあてはまるか否かをセルフチェックできる診断テストが公開されている場合があります。これらの診断テストは一つの参考にはなるかもしれませんが、正しい診断はできません。
疾患ごとに治療法も異なるため、「非定型うつ病かもしれない」と思った場合は、専門機関で適切な診断と治療を受けることが大切です。
非定型うつ病の治療では、主に下記の3つの方法が用いられます。
それぞれの治療方法について、具体的に説明します。
非定型うつ病の薬物療法には、症状に合わせて抗うつ薬などが用いられることがあります。
抗うつ薬は、効果が現れるまでに2週間程度の時間がかかるとされています。そのため、服用開始からしばらくの間は効果が感じられず、副作用のみが表れることがあります。このようなときは副作用がつらいかもしれませんが、自己判断で服薬を中断すると症状が悪化してしまう場合があります。
副作用がつらい場合は、まず医師に相談しましょう。抗うつ薬にはさまざまな種類があるため、薬の種類を変えたり、服用量を調整したりするなどの対応が可能な場合があります。
「認知」とは、ある出来事がおこったときの受け取り方や、ものの見方のことを指します。
認知行動療法とは、「物事をネガティブにとらえる傾向がある」などの認知のゆがみや行動の癖などに気づき、現実に沿った認知や行動に変えていく治療方法です。
認知行動療法は、一対一の個人でおこなわれることもあれば、グループで取り組むパターンもあります。
非定型うつ病では症状の一つに過眠があります。過眠により体内時計のリズムが乱れたり、昼夜が逆転してしまったりすることも考えられます。
体内時計のリズムを戻すには、早寝早起きを心がける、昼間はなるべく外出する、毎日できるだけ人と交流する、三度の食事を決まった時間にとるなどの方法が効果的です。
非定型うつ病は、従来型のうつ病とは異なる症状が表れるうつ病です。
非定型うつ病の特徴の一つに、好きなことや楽しいことがあると気分がよくなり、嫌なことがあると気分が落ち込む「気分反応性」の強さがあります。
好きなことや楽しいことがあると気分がよくなる点が従来型のうつ病とは異なるため、非定型うつ病の人は周囲の人たちから誤解を受けることもあるかもしれません。
しかし気分反応性は甘えや怠けではなく、非定型うつ病の症状の一つであり、適切な治療を受けることが大切です。
「自分は非定型うつ病かもしれない」と思う場合は、医療機関へ相談しましょう。
非定型うつ病があり働くことに悩んでいる方への支援の一つに「就労移行支援」があります。就労移行支援とは、障害のある方の就職をサポートする障害福祉サービスです。
LITALICOワークスは各地で就労移行支援事業所を展開し、障害のある方が自分らしく働くためのサポートをおこなっています。
例えば、体調管理やストレスマネジメントを身につけるプログラムや、自分に合う職場環境をみつけるための企業インターンなどがあります。また、就職活動のサポートだけではなく、就職してからも本人と企業との間の三者面談などを通じて、長く働き続けるサポートもしています。
休職中の方も一定の条件をみたせば、職場復帰に向けたサポートとして就労移行支援を利用できる可能性があります。
もし非定型うつ病の症状があって働くことに悩みがある方は、ぜひ一度LITALICOワークスにご相談ください。
監修者
医学博士/精神科専門医/精神保健指定医/日本産業衛生学会指導医/労働衛生コンサルタント
染村 宏法
大手企業の専属産業医、大学病院での精神科勤務を経て、現在は精神科外来診療と複数企業の産業医活動を行っている。また北里大学大学院産業精神保健学教室において、職場のコミュニケーション、認知行動療法、睡眠衛生に関する研究や教育に携わった。
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