うつ病は決して珍しい病気ではなく、日本人の約16人に1人が一生のうちに一度はかかるといわれています。うつ病では、休養が治療の柱の一つであるとされており、症状によっては休職して療養に専念することが必要となる場合もあります。
この記事では、うつ病で休職するときの手続きの流れや傷病手当金、休職期間や休職中の過ごし方、そして職場復帰のときに大切になるポイントについて解説します。休職を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
うつ病は決して珍しい病気ではなく、日本人の約16人に1人が一生のうちに一度はかかるといわれています。うつ病では、休養が治療の柱の一つであるとされており、症状によっては休職して療養に専念することが必要となる場合もあります。
この記事では、うつ病で休職するときの手続きの流れや傷病手当金、休職期間や休職中の過ごし方、そして職場復帰のときに大切になるポイントについて解説します。休職を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
目次
休職制度とは、労働者がなんらかの事情により働けなくなった場合に、労働契約を保ったまま就業が免除される仕組みのことです。休職制度に関する定めが法律にないため、休職制度を導入するか否かは会社で決めることができます。
休職制度が導入されている場合でも、制度が適用される条件や休職が可能な期間など、休職制度の内容は会社により異なります。
病気や怪我の療養を目的とする休職の手続きでは、一般には、医師の診断書の提出を求められる場合が多いといわれています。
そのため、まず医療機関を受診して診断を受け、診断書を発行してもらう必要があります。診断書の発行には数日から数週間を要することもあるため、休職を考えている場合は早めに医療機関へ相談しましょう。
かかりつけの心療内科や精神科がない場合は、勤務先の産業医に相談することができます。
産業医とは、労働者が健康で快適な環境で仕事がおこなえるよう、専門的な立場から指導や助言をおこなう医師のことです。
労働安全衛生法は、労働者数が常時50人以上である事業場に対し、事業場の規模に応じた人数の産業医の選任を義務付けています。
産業医が診断書の発行が可能な専門機関を紹介してくれる場合もありますので、相談してみるといいでしょう。
また医療機関や産業医のほか、家族にも事情を伝えて理解を得ておくことも大切です。
休職制度は法律では定められておらず、会社が独自に導入しています。そのため、休職の対象者は会社と雇用関係にある労働者ですが、休職が適用される条件については各会社の就業規則で定められており、雇用形態によって異なることも多くあります。勤務先の会社に休職制度があるか、自身の雇用形態が休職制度の適用対象となるかを確認し、対象である場合は制度内容を把握しましょう。
休職制度の詳細は就業規則で確認できるほか、上司や人事部などに問い合わせるといいでしょう。
とくに確認しておきたい点は、下記の4点です。
会社が定めている休職期間を確認します。会社により規定が異なり、休職の理由や勤務年数などにより、異なる休職期間が定められている場合もあります。
また、休職期間が満了した場合の規定も確認しておきましょう。休職期間満了時に休職の理由が消滅していない場合は、自然退職や解雇が定められていることが多いです。
診断書には「医師が必要と判断した休養期間」が記載されています。しかし会社の規定によっては、診断書に記載されている期間より短い休職期間が定められている場合もあります。いずれの場合も、上司や人事部などの担当部署と相談のうえ、診断書に記載されている休職期間を考慮しながら休職期間を決めることになります。
休職期間中の給料や手当、賞与の支給の有無についても会社により規定が異なります。一般には、休職期間中は無給となる場合が多いようです。詳しくは就業規則で確認するか、上司や人事部などに確認しましょう。
一定の条件を満たす場合は、給与とは別に「傷病手当金」が支給される場合があります。傷病手当金については、後の項目で解説します。
休職中も、健康保険や厚生年金保険といった社会保険の被保険者の資格は継続します。このため、社会保険料の支払いは休職中も発生します。
休職中は無給である場合が多いため、社会保険料の給与天引きができません。一時的に会社が立て替えて支払い、復職後の給与から追加天引きをしたり、そのまま退職する場合には別途清算したりするケースが多いようです。休職中の社会保険料の支払い方法についても、事前に確認しておきましょう。
会社との休職中の連絡方法についても確認しておきましょう。会社側の窓口となってくれる担当者、連絡の手段や頻度などを決めておくといいでしょう。
休職中は療養に専念する必要がありますが、手続きや復職の判断などに伴い、会社との連絡が必要となる場合があります。複数の担当者と個別に連絡するのではなく、一人の担当者に会社側の連絡窓口となってもらうことで心身の負担を少なくすることもできるでしょう。
連絡の手段や頻度も、電話なのかメールなのか、どのくらいの頻度での連絡を想定しているかなどを決めておくと、あらかじめ心づもりができます。
休職制度について理解し、会社側と休職期間や給料支払いの有無、社会保険料の支払い方法や休職中の連絡方法などについて合意ができたら、必要な書類を揃えて提出します。
なお、次の章で解説する傷病手当金の申請書類の中にも「事業主記入用」の欄があり、会社側に記入を依頼する必要があります。傷病手当金は休職開始後に申請するため、休職するための手続きとはタイミングが異なります。傷病手当金の申請書類への記入をいつ会社に依頼すればよいかは、事前に確認しておきましょう。
傷病手当金は、被保険者が病気や怪我により会社を休み、会社から十分な報酬が得られない場合に支給される手当金です。
会社を休んでいる間の被保険者やその家族の生活を保障することを目的としている制度です。
傷病手当金は、次の4つの条件を満たす場合に支給されます。
傷病手当金の支給対象となるのは、業務外の事由による病気や怪我のために仕事を休む場合です。うつ病になった背景が業務外の事由に当てはまるかどうかについては、人事部や健康保険組合などに確認しましょう。なお、うつ病になった背景が業務内の事由である場合は、傷病手当金ではなく労災保険の給付対象となる可能性があります。
「働くことができない」という状態の判定は、自己判断では不十分です。医師の意見などをもとに、被保険者の仕事内容なども考慮して判断されます。
傷病手当金は、仕事を休んだ日が連続して3日間続き、さらに4日目以降も仕事に就けなかった場合に、4日目以降の期間が支給対象となります。
仕事を休んだ日から連続する3日間を「待期」と呼びます。待期の3日間は、支給対象にはなりません。
傷病手当金は、病気や怪我のために働けない期間の生活を保障することを目的とした制度です。このため、休業期間中に給料が支払われる場合は支給対象外となります。
ただし給料が支払われている場合でも、傷病手当金の支給額より給料の額が少ない場合は、差額分の金額が傷病手当金として支給されます。
傷病手当金の支給額は、給料のおおむね3分の2に相当する額と考えるといいでしょう。厳密な額は、
以下の計算式で算出されます。
1日あたりの支給額=支給開始日以前の継続した12か月間の各月の標準報酬月額を平均した額÷30日×2/3
標準報酬月額とは、毎月の給料などの報酬の月額を、一定の幅で区分して設定されている金額のことです。
支給開始日以前の勤務期間が12か月に満たない場合ついては、以下の記事で解説していますので参考にしてください。
傷病手当金の支給期間は、従来は「支給開始日から最長1年6か月」でした。1年6か月の間に復職して出勤した期間があっても、出勤期間も「1年6か月」に算入されていました。
令和4年1月1日より、支給開始日が令和2年7月2日以降の場合については、支給期間が「支給開始日から通算して1年6か月」に変わりました。これにより、例えば「うつ病で休職後に一旦復職したものの、体調が悪化して再度休職をする」という場合、復職して働いていた期間は1年6か月の支給期間に算入されず、再度休職した際に残りの期間分の手当を受給できるようになりました。
なお、傷病手当金は傷病ごとに申請することが可能で、それぞれ受給期間が決定されます。一度受給したことがあっても、異なる傷病で休職する場合は改めて申請できます。ただし、傷病名が異なる場合でも、関連のある傷病は同じ疾病とみなされるため注意が必要です。
傷病手当金の申請は、休職をした後におこないます。
傷病手当金は「働けなかった日」に対して給付されるため、1日ずつ時効が発生します。このため申請期限は「働けなかった日ごとに、その翌日から2年」と定められています。
休職が短期間であれば、休職期間の満了後に申請をおこないます。一方、長期にわたる場合は、一定期間ごとに申請することが一般的です。
全国健康保険協会(協会けんぽ)では、1か月単位で給与の締切日ごとに申請することを推奨しています。
申請手順は、以下の通りです。
「傷病手当金支給申請書」を入手します。健康保険組合などの公式サイトからダウンロードできるほか、会社の担当部署で用意している場合もあります。
傷病手当金支給申請書は、次の3項目に分かれています。
「被保険者記入用」のページは申請者もしくは代理人が記入します。「事業主記入用」は会社の担当者に、「療養担当者記入用」は医師に記入を依頼する必要があります。
傷病手当金支給申請書の提出方法は、会社の担当部署へ提出する方法と、加入している健康保険協会(保険者)へ自身で郵送する方法があります。
提出後に審査がおこなわれ、申請が受理された場合は傷病手当金が支給されます。申請内容に不備などがない場合は、申請書提出から約2週間で支給されます。
傷病手当金の詳細や、うつ病の方が活用できる傷病手当金以外の制度については以下の記事で説明していますので、参考にしてください。
ここでは、うつ病の療養のために休職する場合の期間と、休職中の過ごし方について解説します。
うつ病の療養のために休職を検討するとき、「どのくらいの期間、休職することになるのか」と気になる方もいるかもしれません。
うつ病による休職期間の長さは、症状の程度や回復の進み具合などに左右されるため、人により異なります。おおよその見当を付けたい場合は、厚生労働省による調査結果が目安となるでしょう。
うつ病の人のみを対象とした調査ではなく、「メンタルヘルスによる病休」を対象とした調査では、「1回目の病休日数の平均値は107日(約3.5か月)」という結果が出ています。
うつ病で休職している間の過ごし方では、以下の点を心がけるといいとされていま
休職期間の初期は、心と身体をゆっくりと休めましょう。
うつ病の治療では「休養」「薬物療法」「精神療法・カウンセリング」が主な方法となります。なかでも、休養はうつ病治療の基本であるとされています。うつ病になると脳機能が低下した状態になるため、脳をしっかりと休ませることが重要です。
心と身体が十分に休まってきたら、生活リズムを整えましょう。規則正しい生活リズムは体内時計を正確に働かせ、気分を安定させるために役立つことが分かっています。
正しい生活リズムが維持できていることは復職を考える際にも大切です。
体内時計が安定して働くようにするためには、起床や毎日おこなう活動の時間を決め、食事や運動も毎日規則正しくおこなうことが理想的です。
リラックスするための方法を身に付けておくと、ストレスに直面したときにうまく解消できるようになるでしょう。何をすればリラックスできるかは人により異なるため、いろいろな方法を試してみて、自分に合う方法を見つけてみてください。
例えば、以下のような方法が考えられます。
適度な運動は、ストレス解消に役立つといわれています。また気持ちが明るくなったり、不安感や疲労感が減ったり、意欲が出たりするなどの効果も期待できるとされています。
無理のない範囲で、ウォーキングなどの軽い運動を取り入れてみるといいでしょう。
ここでは、うつ病の療養のために休職をした後、職場に復帰するうえで大切なポイントをご紹介します。
復職するタイミングは自分で判断せずに、主治医や上司、産業医などと相談して決めるようにしましょう。
職場により、求める業務遂行能力のレベルは異なります。症状が改善して主治医が「復職が可能」と判断した場合でも、職場が求める「回復」のレベルまでは回復していない場合もあります。回復しきらないまま復職してしまうと、症状の再発を招く可能性もあります。
このため復職の決定は、主治医の判断をもとに、上司や産業医、家族などとも相談しながら慎重におこなってください。
復職後は、以前と同じ業務をこなしてストレスにも対処していく中で、思っていた以上の精神的な緊張や体力的な負担を感じるかもしれません。
うつ病は、再発しやすいことが知られています。「休職した分、人一倍がんばらなければ」「再休職したくないから、仕事で結果を出さなければ」などと思うかもしれませんが、無理をしないようにしましょう。心身の不調を感じたら、早めに主治医に相談しましょう。
うつ病の再発防止のためにできることについて、以下の記事でも解説しています。ご参考ください。
症状が改善し、仕事に復帰したことで「もう大丈夫」と思うかもしれませんが、自己判断で治療を止めないことが大切です。
うつ病の経過は大きく「急性期」「回復期」「再発予防期」に分けられます。回復期には「寛解」という状態が訪れるとされています。寛解とは、症状が一時的に軽くなったり、消えたりした状態のことです。そのまま治る可能性もありますが、再発することもあります。
この時期に自己判断で治療を止めると、再発してしまう可能性もあると考えられています。治療や服薬などに関して不安なことがある場合は医師に相談しましょう。そのうえで医師の指示に従って、治療を続けるようにしましょう。
日常生活の中で、ある程度のストレスを感じることは避けられません。復職した直後はとくに、仕事の環境に慣れるまで大きなストレスを感じることもあるかもしれません。
このとき「ストレスをなくす」だけでなく、ストレスとうまく付き合っていくことも役に立ちます。ストレスとうまく付き合い、対処していく方法を「ストレスマネジメント」と呼びます。
以下の記事では、ストレスマネジメントの方法を紹介しています。仕事でのストレスマネジメントの例も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
「ひとりで復職の準備をどのように進めていけばいいのか分からない」と思う方もいるかもしれません。このような場合に利用できるのが「リワーク支援」です。
リワーク支援は精神的な不調により休職した方の職場復帰を支援するためのプログラムで、「職場復帰支援」「復職支援」とも呼ばれています。
症状と上手に付き合いながら安定して働いていくための準備を整えることが、リワーク支援の目的です。ストレスコントロールなどのセルフケア方法の習得や、職場に似た環境での模擬業務など、さまざまな取り組みを通して復職への準備をおこないます。
リワーク支援は医療機関や地域障害者職業センターなどのさまざまな場所で実施されており、会社が自社の社員を対象としておこなっている場合もあります。また、障害のある方の就職をサポートする「就労移行支援事業所」でも実施している場合があります。
LITALICOワークスは、一般企業などへの就職をめざす障害のある方を対象に、就職活動の準備から就職後の職場定着までの一貫したサポートをおこなう「就労移行支援事業所」です。
就労移行支援とは、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスの一つです。一定の条件を満たせば休職中の方も利用できる場合があります。
一人ひとりの働き方の希望や体調などにあわせて利用計画を立てるため、うつ病で体調が不安定な場合は短時間から就労移行支援を利用するなど、無理のないペースで就職や復職への準備を進めていくことができます。
復職にむけて大切であるといわれている自己理解プログラムやセルフ・モニタリング、ストレスコントロールなどの豊富なプログラムを用意しています。
また全国に130以上の事業所があり、地域に根ざしたネットワークを活かした企業との連携もLITALICOワークスの強みです。企業インターン先も豊富な選択肢の中から選ぶことができ、休職中の方も企業インターンをおこなうことで、復職後にどのような働き方が良さそうかを考えることができます。
うつ病などで休職中であり、復職への準備を始めたい方はぜひ一度ご相談ください。
うつ病の療養のために休職する場合は、医療機関を受診して診断書の発行を受け、会社側にその旨を伝えて、休職の期間や給料などの条件を確認します。休職中は休養に専念し、体調が回復してきたら生活リズムの構築や軽い運動などに取り組んでみてください。
休職からの復職では、うつ病の再発を防ぐために無理をせず、治療を継続することが大切です。「ひとりで復職の準備を進めるのが難しい」と感じる方は、リワークプログラムの利用も検討してみてください。
LITALICOワークスでも、リワークプログラムを実施しているところもあります。うつ病の方や休職中の方も、ぜひ一度ご相談ください。
監修
医学博士/精神科専門医/精神保健指定医/日本産業衛生学会指導医/労働衛生コンサルタント
染村 宏法
大手企業の専属産業医、大学病院での精神科勤務を経て、現在は精神科外来診療と複数企業の産業医活動を行っている。また北里大学大学院産業精神保健学教室において、職場のコミュニケーション、認知行動療法、睡眠衛生に関する研究や教育に携わった。
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