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知的障害(知的発達症)とは?原因や種類、特徴や診断基準をわかりやすく解説

更新日:2024/03/23

知的障害(知的発達症)とは、知的能力と社会生活への適応能力が低いことで日常生活における困難が発達期(18歳以下)に生じている状態のことをいいます。

 

とくに軽度の場合、適応能力の面で発達の遅れが目立たないため、周囲も本人も気がつかず、発見が遅れる場合があります。大人になってから、仕事などの困難さを感じ、発達障害の診断を受けてみると、実は軽度の知的障害(知的発達症)の背景もあったという方もいます。

 

この記事では、知的障害(知的発達症)とはどのような特徴があるのか、原因や軽度~最重度(重症度)の診断基準、仕事の工夫や活用できる福祉サービスなどを紹介します。

知的障害(知的発達症)とは?

知的障害(知的発達症)とは、以下の3つの基準があることで社会生活を過ごす上での困難さを感じ、支援を必要としている状態のことをいいます。

  • 知的能力(IQ)が70未満
  • 日常生活や社会生活への適応能力が低い
  • 発達期(18歳以下)に生じている

※厳密に言うと、アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)や世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)などの専門機関によって、診断基準が異なりますが、上記3つの基準はこれらの診断基準に共通しています。

 

※現在、『ICD-11』では「知的発達症」、『DSM-5』では「知的能力障害(知的発達症/知的発達障害)」と表記されていますが、知的障害者福祉法などの福祉的立場においては「知的障害」と使用していることが多いため、この記事では「知的障害(知的発達症)」という表記を用います。

軽度知的障害(知的発達症)とは?

軽度知的障害(知的発達症)のある方は、言語によるコミュニケーションや一般的な生活が可能なことから、周囲も本人にも気づかれにくいことがあります。

 

ただ、細かい部分や抽象的な理解などが難しいことが多く、子どものころから学習面でのつまずきや集団や複雑なコミュニケーションに困難が生じていることがあります。

知的障害(知的発達症)の原因とは?

知的障害(知的発達症)の原因は、原因不明のものも含め、さまざまな原因があります。

ここでは、発生時期による原因をみていきます。

 

出生前の原因

遺伝子や染色体などの異常があって起きる内的原因によるものと、母体の感染症や薬物の影響、外傷などによって起きる外的原因によるものがあります。

 

周産期(出生周辺期の意味で、妊娠後期(満28週)~新生児早期(生後1週間以内)を指す)

出産トラブルなどによって低酸素や循環障害などが起きたことによるものがあります出産時による原因は医療体制の進歩と共に少なくなっているといわれています。

 

出生後

交通事故などによる頭部外傷や、感染症、不適切な養育環境や虐待などが原因になることもあります。

知的障害(知的発達症)は遺伝する?

遺伝子的な原因のほとんどは、正常な遺伝子や染色体の突然異変によるものといわれています。遺伝子の突然異変はだれにでも起こりうるもので、親が知的障害(知的発達症)があったとしても、そのまま遺伝するとは限りません。

知的障害(知的発達症)に多い併存症とは?

脳の障害が原因で、知的障害(知的発達症)だけではなく脳性マヒやてんかん、発達障害などの症状と一緒に発症する場合があります。

 

【知的障害(知的発達症)に多い併存症】

  • 脳性マヒ
  • ADHD(注意欠如多動症)
  • ASD(自閉スペクトラム症)
  • うつ病 など

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知的障害(知的発達症)の種類(分類)は?

知的障害(知的発達症)の診断・重症度は、知的能力を表すIQ(知的指数)と日常生活への適応能力を総合的にみた上で、これが発達期(18歳以下)に発症したかどうかで判断をしていきます。重症度は「軽度」「中等度」「重度」「最重度」の4つに分けられます。

 

知的能力を表すIQ(知的指数)

知的障害(知的発達症)の重症度を診断する指標の一つとして、知的能力を表すIQ(知能指数)があります。IQは知能検査によって測定され、IQが低ければ低いほど重症度が大きくなります。最も多く用いられるものはウェクスラー系知能検査で、2歳6ヶ月~7歳3ヶ月の幼児用「WPPSI」、5歳0ヶ月~16歳11ヶ月までの児童用「WISC」、16歳0カ月~90歳11カ月までの成人用「WAIS」があります。

 

知的障害の重症度分類

 

前述の通り、IQ(知能指数)で重症度をおおまかに分類することができますが、IQだけで判断されるわけではありません。IQが70以下でも適応能力が高ければ、知的障害(知的発達症)ではないと判断される場合もあります。

適応能力

日常生活や社会生活に必要な能力がほかの同年齢の方に比べて、どれくらい低いのかを基準にみていきます。具体的には、数量や時間などの概念を理解する能力、対人関係におけるコミュニケーション能力、金銭管理や食事の準備など日常生活を過ごす上で必要となる能力などが挙げられます。ヴァインランドⅡ(Vineland Ⅱ)などの検査によって相談機関や医療機関などで評価する場合もあります。

 

<知的障害(知的発達症)の各重症度における特徴>

アメリカ精神医学会の『DSM-5』によると、適応能力は、主に以下の3つがあります。

  • 概念的領域
    記憶、言語、読字、数量や時間などの概念を理解する能力
  • 社会的領域
    対人コミュニケーションなどにおける能力
  • 実用的領域
    日常生活における能力

その3つの能力の中で適切な行動をとるために支援が必要なことが1つでもあれば、適応能力が低い可能性があるといわれています。

知的障害(知的発達症)の特徴は?

知的障害(知的発達症)の特徴は、重症度によって異なってきます。以下に代表的な例を紹介します。

  • 軽度
    ・支援があれば、読字や金銭などの概念を理解することができ、また買い物や家事なども1人でできるようになる。
    ・コミュニケーションはパターン化されていることが多く、ほかの人と比べると未熟である。
    ・記憶や計画、感情のコントロールなどが苦手である。
  • 中等度
    ・読字や金銭などの概念は小学生レベルにとどまり、常に支援が必要である。また買い物や家事など1人でできるようになるまでは長い時間をかけて支援が必要である。
    ・単純なコミュニケーションであればできる。
    ・判断や意思決定をすることが難しく、支援が必要である。
  • 重度
    ・読字や金銭などの概念について、ほとんど理解することが難しく、常に支援が必要である。また食事や身支度、入浴などを含むすべての日常生活上の行動では、継続的な支援が必要である。
    ・身振りや、単語・句を区切った単純なコミュニケーションであればできる。
  • 最重度
    ・認識できるものは目の前にある物理的なものに限り、常に支援が必要である。また食事や身支度、入浴などを含むすべての日常生活上の行動では、他者の支援がないと難しい状況である。
    ・身振りや、単語・句を区切ったコミュニケーションでも理解が難しいこともある。

※上記はアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)の一部を抜粋の上、分かりやすく編集をしています。

知的障害(知的発達症)の診断基準は?

前述のDSM-5によると知的障害(知的発達症)の診断では、以下の3つの領域の適応能力が重要となっています。

  1. 概念的領域:記憶、言語、読字、書字、数学的思考、実用的な知識の習得、問題解決、および新規場面における判断においての能力についての領域
  2. 社会的領域:特に他者の思考・感情・および体験を認識すること、共感、対人的コミュニケーション技能、友情関係を築く能力、および社会的な判断についての領域
  3. 実用的領域:特にセルフケア、仕事の責任、金銭管理、娯楽、行動の自己管理、および学校と仕事の課題の調整といった実生活での学習および自己管理についての領域

これらの領域を総合的に見たうえで診断をしていきます。

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知的障害(知的発達症)のある方が使える福祉サービスは?

知的障害(知的発達症)のある方が日常生活や仕事をしやすくなるよう、生活をサポートするための福祉サービスや仕事で困った時に相談できる支援機関などがあります。


ここでは福祉サービスや支援機関の一部をご紹介します。

療育手帳

療育手帳は、児童相談所 又は 知的障害者更生相談所において「知的障害がある」と判定された方に交付される手帳です。国が定められたガイドライン(昭和48年9月27日厚生省発児第156号厚生事務次官通知)に沿って、各自治体で判定基準や運用方法を定めて実施されています。

 

等級は「重度」と「それ以外」に区別されていますが、自治体によってはさらに細分化しているところもあります。療育手帳の名称も自治体によって異なり、例えば東京都では「愛の手帳」という名称で呼ばれています。

 

療育手帳が発行されると、障害者雇用への応募が可能になったり、公共料金の割引や助成金制度、税金の軽減など、受けられる可能性があります。

知的障害者更生相談所

18歳以上の知的障害(知的発達症)のある方で日常生活・仕事などの相談や職業判定、療育手帳の判定・交付を行う場所です。都道府県や市に設置されていますので、日常生活や仕事で困ったことがあったら、まずはそこで相談してみると良いでしょう。

成年後見制度

日常生活を送る上で、賃貸や売買といった法的行為が必要になることもあります。その時の判断能力に不安がある場合、成年後見制度というサポートがあります。成年後見制度のサポート内容は、判断能力の程度に合わせて「補助人」「保佐人」「成年後見人」があります。

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知的障害(知的発達症)のある方の就職の際に使える支援機関は?

ハローワーク

ハローワークには、障害のある方の就職を支援する窓口「専門援助部門」があります。(市区町村によって、名称が異なります)求人数や就職件数が多く、障害者雇用枠の求人紹介のほか、障害のある方を対象にした就職や働き方に関する相談やカウンセリングもおこなっています。

障害者就業・生活支援センター

障害者就業・生活支援センターは、障害のある方の就業面と生活面の一体的な相談・支援を行っている支援機関です。

 

就労移行支援事業所

就労移行支援事業所は、一般企業への就労を目指す障害のある方に対して、求職から就職までの一連の過程をサポートする事業所です。利用者は事業所に通い、ビジネスマナーや職業トレーニング、面接や履歴書対策などの就職活動のサポート、就職後の定着支援などを受けることができます。

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就労移行支援事業所「LITALICOワークス」

自分らしい働き方をサポート「就労移行支援事業所」

 

就労移行支援事業所「LITALICOワークス」は全国に120拠点以上あり、社会不安障害の方の就職を数多くサポートしてきました。その一人ひとりが望む働き方や状況などに合わせて自己分析、ストレスコントロールや体調管理、就職活動や適職探しなどのサポートを提供しています。

 

また、120拠点以上のネットワークを活かし多数の企業とも連携しています。そのため、企業インターンの機会も充実しています。採用前の不安を解消するために応募先の企業と連携して一定期間働く機会を作るといった働きかけも行うことがあります。

 

就職が決まった後も不安なことがある場合は、職場・本人・LITALICOワークスで面談を実施し、長く働くためのサポートをする定着支援も行っています。

 

働くことのお悩みがあればお気軽にLITALICOワークスまでお問い合わせください。

知的障害(知的発達症)のある方が仕事上で直面しやすい困りごとや工夫・対処法は?

知的障害(知的発達症)のある方が仕事を進める上で、よくある困りごとは「自分が何に困っているのか分からない」「困っていても人に相談することが難しい」「どのような配慮が得られると良いか分からない」「仕事がなかなか覚えられない」などが挙げられるでしょう。

 

そのような場合は、前述に挙げた「知的障害者更生相談所」「障害者職業センター・生活支援センター」「就労移行支援事業所」などへ相談ができると良いでしょう。

 

ここでは、軽度知的障害(知的発達症)のある方の仕事の工夫について、就労移行支援事業所LITALICOワークスの事例を交えながらご紹介します。

軽度知的障害(知的発達症)のあるAさんの事例

就労移行支援事業所を利用した当初、Aさんの課題は「自分の困りごとが分からない」ことでした。そのため、まずはコミュニケーション講座の受講やグループワークへの参加、ビーズ詰めなどの作業をすることから始めました。その都度、スタッフとの振り返りで「会話の理解度はどれくらいか」「作業で難しかったことはないか」を一緒に確認をしていきました。その結果、Aさんは以下のような困りごとがあることが分かり、スタッフと一緒に工夫や対処法を考え、実行していきました。

 

知的障害の仕事での工夫と対処法

 

これらの工夫・対処法を積み重ねることでAさんができる範囲を広げ、就職活動の面接でも困りごとや配慮をしっかりと伝えられるようになりました。

 

また選考の一連である「採用前の実習」へ参加し、前述のような配慮があるとAさんは働けるということが分かり、Aさんも企業側も安心することができました。その結果、フラワーショップの内定をいただくことができました。

 

現在は「業務はマニュアルにまとめてもらう」「相談できる担当者をAさんに伝える」などの配慮を得ながら働けています。

 

※プライバシー保護のため、事実を変更・再構成しています。

 

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知的障害(知的発達症)のまとめ

知的障害(知的発達症)があることで日常生活を送る上でさまざまな困難さを感じやすくなるかもしれません。その場合、その時の状況にあった支援を適切に受けることで、より日常生活を送りやすくしていく方法もあります。現在の日常生活や仕事などで困っていることがある時は、まずはお近くの支援機関などへ相談しても良いでしょう。

 

もし働くことのお悩みがございましたら、ぜひLITALICOワークスにご相談ください。一緒に自分らしく働ける方法を考えていきましょう。

更新日:2024/03/23 公開日:2021/09/01
  • 監修

    鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員

    井上 雅彦 先生

    応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。

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