生活や仕事の中で「ほかの人はうまくできることが、自分はできない」と悩むことはありませんか?
うまくいかない原因が分からなかったり、気をつけているのに困りごとが続いたりする場合、発達障害の特性が関係しているかもしれません。
発達障害は子どもの頃に診断には至らず、大人になってから診断を受ける場合もあります。
この記事では、大人の発達障害の特徴や仕事での困りごと、「発達障害かもしれない」と思ったときの仕事の対処法や、相談できる機関などを紹介します。
生活や仕事の中で「ほかの人はうまくできることが、自分はできない」と悩むことはありませんか?
うまくいかない原因が分からなかったり、気をつけているのに困りごとが続いたりする場合、発達障害の特性が関係しているかもしれません。
発達障害は子どもの頃に診断には至らず、大人になってから診断を受ける場合もあります。
この記事では、大人の発達障害の特徴や仕事での困りごと、「発達障害かもしれない」と思ったときの仕事の対処法や、相談できる機関などを紹介します。
目次
発達障害とは、生まれつきの脳機能の偏りによる障害です。得意・不得意や行動の特性などによって、人間関係や仕事で困りごとが生じることがあります。
一般的には、発達期(幼児から学齢くらいまでの間)に特性があらわれます。しかし特性のあらわれ方や程度、環境などは人により異なるため、子どもの頃は発達障害があることに気づかれない場合もあります。
例えば、ADHD(注意欠如多動症)の方は「不注意」「衝動性が強い」などの特性がみられますが、子どもの頃は周りの人の理解やフォローがあることで「困りごと」にならない場合もあります。
しかし、社会に出て仕事を始めると「目の前の仕事に集中することが難しく、その結果としてケアレスミスが多くなってしまう」「仕事を頼まれたときに衝動的に取りかかることが多く、その結果タスク管理がうまくいかなくなる」などの困りごとが生じることがあります。困りごとによるストレスから心身に負担が生じ、医療機関を受診してみたところ、その背景に発達障害があることが分かる場合があります。
このように、大人になってから発達障害であることが分かる場合を「大人の発達障害」ということがあります。
主な発達障害には、「ASD(自閉スペクトラム症)」「ADHD(注意欠如多動症)」「LD・SLD(限局性学習症)※」の3種類があり、これらは重複することがあります。
※学習障害は現在、「SLD(限局性学習症)」という診断名となっていますが、最新版DSM-5-TR以前の診断名である「LD(学習障害)」といわれることが多くあるため、ここでは「LD・SLD(限局性学習症)」と表記します。
発達障害のある方の困りごとは、特性と環境が合わないことから生じます。このため同じ特性があっても、環境によっては困りごとが起こらない場合もあれば、起きる場合もあります。
なお、ここでいう「環境」とは、バリアフリーなどの物理的な環境面だけでなく、仕事内容や仕事の進め方、人間関係や職場のルールなどさまざまな意味を含んでいます。
また、発達障害の種類によっても困りごとの傾向が異なります。ただし特性のあらわれ方は人により異なるため、同じ種類の発達障害のある方であっても、正反対の特性があらわれる場合もあります。例えば、感覚過敏といっても人によって聴覚が過敏な方もいれば、視覚が過敏な方もいます。また、過敏ではなく鈍麻(どんま)といって、感覚を感じづらい方もいます。
次に、発達障害の特性と、仕事において起きやすい困りごとの例を挙げます。
ASD(自閉スペクトラム症)は、「対人関係や社会的コミュニケーションの困難」と「特定のものや行動における反復性やこだわり、感覚の過敏さまたは鈍麻さ」などの特性が幼少期からみられ、日常生活に困難を生じる発達障害の一つです。知的障害(知的発達症)を伴うこともあります。幼少期に気づかれることが多いといわれていますが、症状のあらわれ方には個人差があるため就学期以降や成人期になってから社会生活において困難さを感じ、診断を受ける場合もあります。
仕事をする中で感じる困難さの例としては、次のようなものが挙げられます。
ADHD(注意欠如多動症)は「集中を持続させることが難しい(不注意)」「落ち着きがない(多動性・衝動性)」などの特性がみられ、仕事では次のような困りごとが起こる場合があります。
LD・SLD(限局性学習症)は、知的発達の遅れはないものの、「読む」「書く」「計算する」などの特定の学習が極端に困難な状態にあることです。仕事の場面では、次のような困りごとが起きることがあります。
うつ病や不安症などの症状があり医療機関を受診すると、発達障害であることが分かる場合もあります。発達障害の特性から生じる困りごとのストレス反応が高じて発症するうつ病や不安症などの疾患は、「二次障害」と呼ばれます。
二次障害の中には、治療に時間がかかる疾患もあります。発達障害の困りごとに適切に対処していくことは、二次障害を防ぐ意味でも重要です。
仕事で困りごとが続き「自分は発達障害かもしれない」と感じている方もいるかもしれません。このような場合は、以下のような対処法を活用できる可能性があります。
「できるだけ早く」などのあいまいな表現だと「できるだけ」の基準が分からず、困ってしまう場合があります。また、「もうちょっと早くできますか?」と言われたときも、「もうちょっと」が5分なのか1時間なのかといったことがつかめずに判断ができないという場合もあります。
その場合の対処法としては、いつまでなのかを明確に伝えてもらうよう、周囲の方たちにお願いしておくといいでしょう。それでも理解できないときは、相手や周囲の人に「◯◯日までに〇〇をやればいいでしょうか?」など聞いて確認してみましょう。また口頭での指示の理解が苦手な方は、口頭ではなく、メールなど文章で指示をもらうと理解がしやすくなるかもしれません。
その他の困りごとや対処方法の例については、以下の記事でも解説しています。
複数の作業を管理することが苦手な場合は、優先順位を確認し、取りかかる順番を決めて一つずつ確実に進めます。順番を整理して取りかかれば、混乱せず落ち着いて作業できるでしょう。もし、優先順位の付け方などで迷ったら上司に相談してみましょう。
また、頭の中で処理するのではなく、TODOリストなどを用いて視覚化するなど、自分にあったツールを活用すると整理しやすくなるでしょう。
その他の困りごとや対処方法の例については、以下の記事でも解説しています。
メモを取ることが苦手なことをあらかじめ説明し、上司や同僚に了承を得たうえで、ボイスレコーダーや音声入力などのツールを利用して記録します。また、手順の説明を受ける場合は動画を撮影する方法もあります。
職場に「発達障害なのかもしれない」と思われる人がいる場合は、まずその人の特性について知ることが重要です。本人が未診断の場合でも、困っている様子があれば「何に困っているのか」を本人に尋ね、一緒に対策を考えてみましょう。
自分が「大人の発達障害」かもしれないと思う場合は、適切な対処をおこなうためにも、自己判断せずに医療機関を受診することが大切です。
発達障害の診断は、精神科や心療内科、発達障害専門外来などでおこなわれています。ただし、子どもの診察のみ受け付けていて大人の診察はしていない精神科や心療内科もあるため、事前にWebサイトなどで確認しておきましょう。
自治体によっては、発達障害の診断をおこなっている医療機関のリストを公開しています。
また、診断を受けるかどうかで悩んでいる方もいるかもしれません。以下の記事では、診断を受けるにあたって気になる点や、もし発達障害と診断されたらどうすればいいのかなどについて解説しています。ぜひ参考にしてください。
発達障害は生まれつきの脳機能の偏りであるため、診断では生育歴が重要な情報となります。
問診では生育歴について詳しい聞き取りがおこなわれます。そのため、現在の困りごとだけではなく、幼少時の様子やこれまでの学業や仕事での状況、既往歴などについてメモをとったもの、資料(例:母子手帳や当時の連絡帳や通知表など)を持参したりするといいでしょう。
また、必要に応じて下記の検査などをおこなう場合もあります。
現在の心身症状のほか、問診や検査から得られた情報を国際的な診断基準である「DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)」に照らし合わせ、総合的に判断して診断がおこなわれます。
発達障害の脳機能の偏りに対する根本的な治療法は、現在までのところ見つかっていません。このため、困りごとに対する自己対処を身につけたり、自分に合う環境調整(※)をしたりすることで、困りごとに対処します。
(※)環境調整とは、発達障害のある方の特性や困りごとに合わせさまざまな条件を整えていくことで、本人の感じる困りごとを解消したり減らしたりすることを指します。例えば、口頭指示の理解が苦手な人には、メモやメールでの指示にする、といったことも環境調整のひとつです。
ほかに認知行動療法やソーシャルスキルトレーニング(SST)などが併用されることもあります。
それでも効果がみられない場合、薬物療法をおこなうことがあります。例えば、ADHD(注意欠如多動症)の薬物療法では症状を軽減する効果が期待できる薬が使われる場合があります。
発達障害による困りごとを減らすには、自分の特性を知り、特性への対処と環境調整をおこなうことが大切です。一人では対処が難しいと感じる場合は、以下の支援機関への相談も検討してみるといいでしょう。
発達障害のある方の生活全般と仕事など幅広い相談を受け付けています。必要に応じて、関係機関とも連携してサポートをおこないます。また、医療機関の情報を教えてくれる場合もあります。未診断の方も相談できますので、「どの医療機関で受診したらいいのだろう」など迷ったときはぜひ相談してみましょう。
障害のある方の生活と仕事の分野を一体的に支援する機関です。職場での困りごとについて支援をおこなうほか、生活習慣の構築や健康管理などの日常生活における自己管理についても助言をおこなっています。利用するには、原則として発達障害やうつ病などの診断書や障害者手帳などが必要になりますが、利用前の相談は未診断の方でもできる場合があります。事前に障害者就業・生活支援センターにお問い合わせてみましょう。
障害のある方を対象に、就職に向けて必要な知識や能力の習得、自己理解を深め適職を見つけるための支援などをおこなっています。また就職活動の支援だけではなく、就職後も長く働き続けられるよう定着支援も提供しています。
利用するには、原則として発達障害やうつ病などの診断書や障害者手帳などが必要になりますが、利用前の相談は未診断の方でもできる場合があります。事前に就労移行支援事業所にお問い合わせてみましょう。
そのほかの相談窓口については、以下の内部リンクにて詳しく解説していますので、ご参考ください。
各地で就労移行支援事業所を運営するLITALICOワークスは、これまで1万3千人以上の方の就職をサポートしてきました。
LITALICOワークスは全国に130拠点以上あります。その拠点によるネットワークを活かし、多数の企業とも連携しています。そのため、企業インターンの機会が充実していたり、職場へ発達障害の理解を促進するための働きかけをおこなったりしています。
また、就職した後も職場にスムーズに定着するための支援もおこないます。
以下の記事では、ASD(自閉スペクトラム症)のKさんとADHD(注意欠如多動症)のSさんが、LITALICOワークスを利用して就職した事例を紹介していますのでご参考ください。
次の章では、大人になって発達障害と診断されたSさんが就職するまでの事例を簡単にご紹介します。
外勤の営業職から、内勤に職種を変えて働きやすくなったSさんの事例です。
ADHD(注意欠如多動症)の診断を、「自分に合う対策ができる」とポジティブに受け止めたSさん。しかし、「同期に遅れを取らないようにしなければ」と無理をしたためにうつ病を発症し、休職することになりました。
その後体調が安定してからLITALICOワークスを利用し、人材派遣会社の特例子会社に再就職。入社1年で「賞賛社員」にも選ばれるほど、いきいきと働いています。
LITALICOワークスでどのように取り組みをおこない就職されたのかを知りたい方は、以下の記事にてご覧ください。
ほかにも、発達障害のある方が就職した事例もありますので、詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
LITALICOワークスでは、その一人ひとりの希望する働き方に合わせて支援をおこなっています。もし仕事のお悩みや希望する働き方などがあれば、お気軽にご相談ください。一緒に自分らしい働き方を考えていきましょう。
大人になってから仕事などで困りごとが増えたり、「どれだけ努力をしてもなぜかうまくいかない」という場合は、発達障害の特性が関係している可能性もあるかもしれません。ひとりで悩まず、医療機関や支援機関などに相談してみましょう。
「困りごとをどのように解決したらいいか分からない」「一人で就職活動がうまくいかない」「仕事が長続きしない」「発達障害に理解のある職場で働きたい」などの悩みや希望がある方は、就労移行支援事業所「LITALICOワークス」にお気軽にご相談ください。
監修者
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員
井上 雅彦
応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。
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